Uber Moneyから考える一つのキャッシュレスサイクル


小さなアイデアのようですが、大きな変化の予兆の気もします。

先日、UberがUber Moneyというサービスの開始を発表しました。

まあ、正確には、これまUberが提供してきた金融サービスをUber Moneyというブランドの下で再統合するという話なので、必ずしも新しい話ばかりではないのですが、『これまUberが提供してきた金融サービス』を知っている人はほとんどいないと思うので、新サービスの体で話します。

話はシンプルで、Uberがクレジットカードやデビットカードを始めるというだけですが、実はその裏側に興味深いコンセプトがあります。

まずは、分かりやすいクレジットカードの方。

これは、どこにでもあるような、Uber社と提携されたクレジットカードで、Uber TaxiやUber Eatsを使うとお得なポイント還元(なんと5%)が受けられるというだけです。

Uber関連サービスのユーザーには得ですというだけでコンセプト的には何一つ新しくありません。

問題は、デビットカードの方。

これは、銀行口座とは紐づいていなくて、Uber Walletという、銀行口座のような、Uberのポイントのようなものと紐づいています。

なんとなくもうお分かりかと思いますが、Uber TaxiやUber Eatsでドライバーとして働いて得られる報酬がプールされる口座(のようなもの)です。

そして、1回のサービスごとに数百円の報酬が得られるわけですが、それが役務提供終了と同時に残高に反映され、VISA提携のデビットカードで、すぐに支払いにも使えるというものです。

これまでも、Uberの報酬は週払いで、日曜日締めの火曜日払いでしたから、非常にサイクルは早かったのですが、そうはいっても約1週間は待たなくてはいけなかったのですが、その必要もなく、即時払いと言っても過言ではない感じで、働いた分は働いた直後からデビットカード経由で使えるようになるというものです。

まあ、入金サイクルの短期化を強調すると、底辺を飼いならすためのシステムだとか、貧困ビジネスだ何だと、ステレオタイプの批判・議論が始まるわけで、そのゼロ思考コミュニティの輪には入りたくないので、その点はそこまで。

私が面白いと思ったのは、私がUber Eatsの配達を始めてすぐに似たようなことをしていて、あることをしみじみ感じたから。

私はUber Eatsに登録するときに、いまいち得体が知れないと思っていたので、ほとんど使っていなかった休眠状態の銀行口座を登録し、その口座を復活させるついでに、せっかくだからと紐づけたデビットカードを作りました。

その口座には、毎週Uber Eatsで働いた分だけ毎週振り込まれます。

そして、デビットカードを使って、日々のコンビニでの買い物などを済ませます。

それが思った以上に快適だったんですよね。

副業収入が専用口座に毎週入り、日々の生活支出はそこで回る。

しかも、キャッシュレスで完結。

キャッシュレスが普及しない理由は色んな人が色々と考察していますが、以上のような経験から考えると、「財布」とか「お小遣い」という概念の浸透が意外と根が深いのかもしれません。

本来財布というのは、日々使う現金を持ち歩くもの。

クレジットカードやキャッシュカードを一緒に持ち歩く場合も多いですが、コンセプト的には全財産を持ち歩くものではありません。

だから、おサイフケータイとかApple Payなどと言って、それがスマホだったとしても、普段使いのお財布に、銀行口座やクレジットカードと電子的なパイプラインを繋げることで、リスクの上限を大幅に広げてしまうことに抵抗が無い人はいないと思います。

かと言って、ATMで現金降ろしてチャージして使うのもなんか面倒だし変だし、少なくともキャッシュレスではない。

その点、銀行口座を複数持ってお小遣い用口座などを専用管理している人からすれば今さら何を言ってんだと思うかもしれませんが、副業収入が定期的に振り込まれ、そこからデビットカードで日常生活が回るというのは、意外なほど快適で、しかも、メインの銀行口座などは完全に隔離された状態で保持されているので安心です。

下記の記事に詳しく書きましたが、中国で爆発的に普及したアリペイというのはMMFと連動していて、残高が勝手に増えていく仕組みがあります。

スポンサーリンク


アントフィナンシャルの軌跡と野望

この、キャッシュレス払い用の口座の残高をどう増やすのかという問題、そもそも、いったんその口座には何を入れるのか、メイン銀行口座やクレジットカードを紐づけて必要な分だけじゃぶじゃぶ使うのか、運用もかねて一定金額をあらかじめプールしていくのか、それとも、副業専用口座を紐づけてそれがイコールお小遣いという運用をするのか、という小さな問題が現実には大きく横たわっているような気がします。

キャッシュレスを使わない現金派の大きな理由として、資金管理が難しくなる、使いすぎちゃいそう、といのは間違いなくその通りで、この問題はセキュリティとセットで、根深い問題だと思います。

その点、このUber Moneyがやろうとしていることは、Uberで働いている人だけの話のようで、今後社会に大きく普及していくコンセプトになりうる気がします。

特に、Uberのような仕組みは、TaxiやEatsだけで終わるとは思いません。

Taxiなら自家用車と自分の運転技術、Uber Eatsなら自転車と体力、そういった自分の持っているものを空いた時間に切り売りする副業。

今のところは、ある意味単純肉体労働だけ。

しかし、自称パーソナルトレーナーの私が言うのも変ですが、今の時代、趣味などで、超1流とは言わないまでも、それなりの知識・技術を持っていて、それを利用した副業をしてみたいと思う人は多いかと思います。

多少お金が動いても、本来的には、「持ってる人」と「欲しい人」とは、win-winの関係が気付けるし、何より趣味と実益を兼ねるのは楽しいです。

しかし、多くの人にとって本業にするにはリスクが高いし、また、プロフェッショナリズムみたいなものを求められても、そんな温度でやりたいわけではない。

その点、Uberのようなプラットフォームで、気楽にやりたい時だけできて、いわゆるビジネスと友人関係の中間くらいのスタンスで出来れば、対価が一般的なプロより多少低くても趣味の延長としての楽しい副業として流行る気がします。

既に、クラウドワークスとかランサーズのようなものもありますが、あそこまでビジネスの下請けにしなくても、日本語講師とか、スポーツの個人指導とか、家庭教師とか、様々な需要と供給希望がある気がします。

あとは、マッチングの仕組みが上手く構築されるのを待つばかり。

そんな感じで自分の体力・知識・技術を空き時間に切り売りして副業にすることはいずれ流行すると思いますが、その流行を裏側から支える仕組みとして、この、Uber Walletのような仕組みは、意外に大きな貢献をするんじゃないかと思いました。

副業で小銭を稼ぎ、とりあえずその範囲で日々の生活やアマゾンでの無駄遣いやゲームの課金を賄い、しかもキャッシュレスで完結。

毎月定額の収入があるサラリーマンや年金生活者ほど、快適に感じる気がします。

現金派の言う、キャッシュレスにすると使いすぎる、資金管理が難しいというのは、電子化されている方が明細の一覧性が高くて、本当の意味での「管理」には便利ですし、また、セキュリティに関しても、プラスチックのカードを持ち歩くことに比べたら大して変わらないどころか、むしろデータ化されている方がセキュリティは高いともいえる。

しかし、この溝が全然埋まらない。

その点、このUber Walletがやろうとしていることは、お小遣い専用の銀行口座を作るとか、限度額の低い専用クレジットカードを新たに作るとか、既存のソリューションと本質的には何も変わらないのですが、ただ、パイプラインを増やして複雑化するのとは少し違い、シンプルで便利な決済サイクルを作るという話です。

小さなアイデアですが、こういう些細なことが大きな変化につながるのかもなと思いました。

まあ、以上は副業組の話で、専業組にしてみれば、基幹収入がUber Walletなる得体のしれないものにプールされることからくるリスクはやり過ごせないでしょうけどね。