略奪的価格設定:アマゾン、PyaPay、Uber


略奪的価格設定という言葉はこれから流行るかも?

昨日、Uberの最新の四半期決算が発表され、四半期で1,260億円の赤字になったそうです。

そして、ちょっと古いデータですが、2019年3月期でPyaPayは約367億円の赤字。

こういった赤字を説明するときに登場する言葉が略奪的価格設定という言葉。

略奪的価格設定というのはPredatory pricingの訳語で、Predatoryというのは略奪的と訳されていますが、映画で有名なプレデター(Predator)の形容詞ですから、略奪的という意味ももちろんありますが、捕えて食らう捕食者とか人を食い物にするという意味もあります。

要するにそういう性質を持った価格設定ということです。

この言葉の意味を説明するには、アマゾンに登場してもらうのがいいです。

アマゾンという企業は、ビジネスの拡大・成長は絶好調ですが、稼いだお金のほとんどを自分達の事業に再投資して使ってしまうことで有名です(もちろん株主にはずっと無配)。

さすがに2002年以降は赤字は止めて黒字になり、利益の「額」は毎年増えていますが、営業利益率は平均すると3%~4%とかなり低い水準です(ディスカウントストアのドンキも5%くらいある)。

ここで、稼いだお金を再投資というと、AI技術をはじめとした最先端技術や新サービスにリスクを取って積極的に投資していると、ある意味好意的な文脈で説明されることも多いです。

会計上投資は資産計上ですが、先行き不透明な研究開発につぎ込めばそれは一括費用計上ですから、その費用負担が多額のため、ビジネスが絶好調でも利益率は低い水準になっているという説明です。

もちろん、そういう面は多分にあるのですが、本質はそうではないとも言われています。

Amazonの「法の抜け穴」を利用して市場を独占しようとする戦略とは?

では一体なぜ利益率が低いのか。

それは、ファッションのジャンルなどで、アマゾンの隠れプライベートブランドが無数にあると言われていることと関係があります。

ジーンズやシャツなどの標準的なファッションアイテムで、売れ筋商品をパクって隠れプライベートブランド経由で販売します。

さらに、それをありえない低価格で販売します。

いつまでそれをやるのか言えば、ライバルが全滅するまでです。

潤沢な資金を使って、ライバルが全滅するまで低価格戦略を続け、ライバルがいなくなってから、価格を上げるという作戦。

これを略奪的価格設定と言います。

これは、一応、先進諸国にはどこにでも存在するはずの独占禁止法で規制されている手法です。

しかし、調べてみると、法的に禁止されながらその立証が極めて難しく事実上機能しない規制のようです。

また、ライバルがいなくなるまで低価格戦略を続けて、いなくなってから価格を上げるという戦略自体、「自由市場理論」が好きな専門家からすれば、価格を不当に上げた時点でライバルが参入してくるはずなので、必ずしも独占に結びつくとは言い切れず、なかなか理論武装も大変そうな規制です。

<参考ブログ>
シカゴ学派について

いずれにせよ、アマゾンは立証困難なのをいいことにこれをやっていると言われていて、他の追随を許さない低価格戦略により、ネット通販業界での独占ともいえる圧倒的な地位を手に入れたと言われています。

だからこそ利益率が低い。

そして、説明上分かりやすいかと思ってプライベートブランドの話をしましたが、この戦略は普通の仕入れ販売でも実現可能で、多くの他社製品をタイムセールだ何だと赤字覚悟でたたき売り、他の通販サイトやメーカー直販サイトを叩き潰してきました。

そして、ヘビーユーザーは最近のアマゾンにおける変化を感じ取っているのかもしれませんが、「アマゾンの販売」が減っていて、マーケットプレイスにおけるサードパーティ販売の占める割合が増えているようです。

これは、略奪的価格設定を利用してで独占的な市場を作ってアマゾンじゃなきゃ売れないという状況にして、今度は、自分達は在庫を持つのを減らし、その一方で、サードパーティの参入を増やしつつも、アマゾンの物流サービスやアマゾンペイによる決済サービスによって手数料を取るという手数料ビジネスに転換しようとしています(ここら辺の動きは非常に複合的で複雑ですが)。

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もちろん、サードパーティが他のサイトよりも高い価格を設定しようものなら、直ちに巡回AIから通報を受けたプレデターが登場して、「もうちょっと価格下げないと」と警告してくるんでしょうね。

こうやって、ビジネス的な工夫というより、赤字垂れ流しに耐えうるだけの体力を使うことで競争力のある価格を実現し、アマゾン市場全体の競争力を上げているわけです。

シンプルに言うとこれが略奪的価格設定。

これを露骨な形でやっているのがPayPayです。

2019年3月期には367億円の赤字の裏で、売上が6億あったらしいですが、むしろ売上があることの方が不思議で、決済手数料を1円も加盟店から取っていない一方で、100億円上げちゃうとか20%還元とか、キャンペーンをばんばん打ってバラ撒いているので、そりゃ赤字です。

もちろん、その赤字を支えているのは、純利益1兆円だが法人税額はゼロ(徳井さんよりよほどこっちの方が問題だと思うけど・・・、まあソフトバンクはマスコミにとっては超優良広告主ですからね)というソフトバンクグループの潤沢な資金です。

そして、これはライバルのなんとかペイとの雌雄が決するまでやる気なんでしょうね。

結構前に書いた記事ですが
キャッシュレス戦国時代:Paypay、LINE Pay、d払い

ただ、決済手数料ゼロはさすがに問題な気もしますけどね(これが規制できないなら独占禁止法の意味は何なのかとも思う)。

そして、ずっと赤字続きのウーバー。

このウーバーの赤字のニュースも、一部の人たちが、ここ最近のウーバーイーツがらみの騒動などを受けて、ほら見ろ問題だらけだとか、うまくいくはずないとか、ウーバー批判の材料にしていますが、苦しんでいる赤字というよりも、想定内の赤字といった感じで、ウーバーイーツのキャンペーンにおける滅茶苦茶な大盤振る舞いを見てみればわかるように、赤字垂れ流し上等で市場拡大にまい進している気がします。

そして、その当然の結果の大赤字なんでしょうね。

ただ、私がこの点に関して一番重要だと思うのは、アマゾンのような巨大企業ではなく、UberやPayPyaその他の大勢のベンチャーにおいて、投資家がこういった戦略にばんばん金を出していて、今一つ得体のしれないベンチャー企業が略奪的価格設定を実現するために必要な量のお金を入手出来てしまっている点です。

成長企業の成長過程では赤字は仕方がないというアメリカ的な考え方とも相まって、今、投資家が積極的というより無節操に、目を付けた新興企業が既存企業を叩き潰すのを可能にするように、無謀な戦略を支えられるだけの潤沢な資金を出している気がする。

これ結構バブルなんじゃないかな。

もちろん、市場原理主義的には、将来的に不当な値上げをすればすぐに新規参入が来るはずだからそこまで不当な値上げは出来ないはずなので、あくまで将来的に回収できる範囲で赤字を垂れ流すはずなんですが、投資家が無節操に資金を投入するせいで、そこのタガが完全に外れていて、まさに独占禁止法が規制する理由たる、略奪的価格設定によるモラルハザード的な市場崩壊が水面下で進んでいるような気がします。

Weworkのニュース見て、これ思いました。

略奪的価格設定は市場を破壊するからやってはいけない、しかし、立証が難しいから規制できない。

とは言え、大々的にやるにはアマゾン位のモンスターじゃないと事実上手を出せない戦略なので(ここの規制は解決すべき問題)、ベンチャーなどの新興企業がやっても自滅するだけで、規制が難しくてもそんなに大した話にはならない。

しかし、投資家がバブリーに余ったお金をつぎ込み続けると、話はちょっとおかしくなり、明らかに実体経済を壊す気がする。

オランダのチューリップバブルに始まる、日本の土地バブルや、最近のサブプライムローンバブルのような金融バブルとは異なり、バブル評価された企業に資金が集まり、その資金が意味不明な研究開発とか創業者の無駄遣いに消えるのではなく、略奪的価格設定によって既存企業を叩き潰すのに使われる。

そして、それが完了するまで投資家が資金を提供し続ける。

しかし、天下を獲った後に独占を実現するような実力はそもそもない。

そこでバブルが崩壊すると、優良企業がことごとく潰され、焼け野原に実力のないベンチャー企業がたたずんでいるという状況になるわけで、実体経済に明らかにダメージを与える気がしますね。

さてどうなるか。

Weworkの記事書くかな。