中国のSF大作『三体』を読んで思ったこと。


これ面白かったです。

中国発のSF大作であり、7月に発売以来中国小説としては異例のベストセラーとなっている話題の『三体』を読みました。

この作品、2008年に完結している作品なのですが、2014年に英訳が出され、2015年にFacebook CEOのザッカ―バーグがおすすめ本として紹介すると一気に人気に火が付き、ついにはアジア人初としてヒューゴー賞(SF小説のアカデミー賞みたいなものらしい)を受賞したという作品です。

オバマも大統領の時に愛読していたらしく、全3部作なのですが、第3部の英訳の出版が待ちきれなくて、個人的に作家にコンタクト取ろうとホワイトハウスから直接メールを何回も送ったり(当然無視された)、最終的に外交部のコネクションを駆使して出版前の原稿を入手した読んだという作品です。

お隣韓国ではなぜか400部しか売れなくて、作者・出版社ともども困惑したらしいですが、日本では今年の7月に発売されてから、あっという間に10万部を突破し、ベストセラーになっており、中国ではそれはそれで話題になっているらしいです。

Wikipedia的な紹介が長すぎて恐縮ですが、こういう背景が納得できるくらい面白い本でした。

話の内容としては、SFの王道である、異星人との接触ものです。

文化大革命の真っ最中に目の前に科学者であった父を殺された物理学者が主人公の一人。

思想犯の娘として辺境の地に追いやられる中で、宇宙物理の理論だけでなく、観測技術にも長けていることから、軍の秘密基地に送られ極秘作戦に従事することになり・・・

からの、怒涛の展開が待っています。

この小説の面白さを表現したいと思いつつも、良い表現がないなと思って、ほかの人のレビューをいくつか読んでいたのですが、その中で複数の人が言っている、「昭和のSF」という表現が個人的にはしっくりくるきます。

結構雑というか、大味な作品です。

その分、疾走感があり、怒涛の展開力で、読んでいて飽きないというか、小難しい本の合間に、気楽に楽しむのにぴったりの作品です。

現代社会は、情報が流通しすぎて、何かにつけてファクトだエビデンスだとうるさいのはSF小説の世界もそうです。

そういう風潮に対して言えば、まさに真逆の「昭和のSF」です。

最新の科学の研究の成果を織り込んでいて、物理学者か何かが、「本当にここの部分はまだ分かっていないのです」とか「説明が正確でこの作者は非常に勉強していると思います」なんてコメントをしてしまうような作品とは、真逆の作品です。

それっぽい単語が出てきますが、トンデモ論全開で、意味不明で奇抜なアイデアが次々に登場しながら、スピーディーにストーリーが展開されます。

私は、映画の『エイリアン』のシリーズが大好きです。

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『エイリアン』シリーズと言えばシガニー・ウィーバー主演といったイメージで、『エイリアン4』で終わっていると勘違いしている方もいますが、2012年の『プロメテウス』、2017年の『エイリアン・コヴェナント』と最新作が出ています。

そして、『プロメテウス』や『エイリアン・コヴェナント』は、さすがに2010年代に作られただけあって、80年代に作られた『エイリアン』シリーズとは異なり、映像、CG、登場するメカやシステム、科学的な裏付けなどは遥かに洗練されています。

しかし、話の序盤が終わり、調査隊が謎の惑星で怪しさ満点の洞窟の中に入って、さあ何か出てくるぞって時になると、「ここは地球と大気の組成が同じだ」などと言ってみんなで宇宙服のヘルメットを取ったり、「ちょっと一人であっち見てくる」なんて言って単独行動を取る奴が出て来たり、いつものおバカ探検隊は健在です。

しかし、『エイリアン』ファンが見たいのは、奇想天外でスピード感満点の展開であって、ドキドキハラハラのエイリアンとのバトルであり、パニックに陥る人間の弱さとそこから根性を見せる人間の強さであり、これぞ宇宙ものSF作品と言った宇宙船や惑星風景の映像美であり、細部のリアリティなんてどうでもいいわけです。

逆に、「本当に訓練されたプロはあんな行動はとらない」的な批判をする人には楽しめません。

この『三体』も同じような感じで、トンデモ論と奇抜な発想で次から次へと奇想天外な話が展開していくところを楽しめる人じゃないと、面白いとは思わないかもしれませんが、そういう人にとっては、これぞSFといった感じで前評判通りの作品になると思います。

また、舞台が中国というのも結構新鮮で、現代を生きる私たち日本人に、昭和、平成と様々な歴史の影響を見て取れるように、現代を生きる中国人にも文化大革命を経て成立した意識があり、作品のテーマではないのでしょうが、現代を生きる中国人を描く上での当然の背景描写として、中国の中にある歴史的な葛藤のようなものも描かれていて、やっぱり中の人が書いたものを読まないとわからないよなと、気づかせてくれる描写もたくさんあり、そこも面白いです。

作者が中国人ですから当たり前と言えば当たり前なのですが、作品の背後に中国人の社会観や科学観のようなものが流れていて、それが日本とはやはり違っていて、そこが読んでいて新鮮でもあります。

そんな中国産SF超大作『三体』。

堅苦しくなく、それでいて壮大で、秋の夜長の読書にぴったりだと思います。

もっとも、日本ではまだ第1部しか売られていなくて、第2部は2020年発売の予定らしいですが、「おいおい、ここで終わるのかよ」って叫びたくなるような第1部で、前倒しで第2部年内に発売してくれないかなあ。

続きが早く読みたい。