ウーバーイーツ配達員の新報酬体系に関して。


GW後に実装された大改革についてです。

はじめに

GW後からウーバーイーツの配達員向けのアプリの仕様や報酬体系が大きく変わりました。

しかし、ネットのニュースというのはろくでもないもばかりなのは誰でも知っていますが、この件も正しく報道されていないと感じます。

「複雑な仕組みを導入して、要は報酬の値下げを行った」という中身のない報道が多い気がします(大して目にしてないけど)。

そして、それを受けて、「あんな誰でもできる仕事というのは報酬が徐々に下がっていくのが必然である」といったペラペラな考察もある。

まあ、「その書き手ありて、その読者あり」というだけの話で、回り回ってこの記事を読んでいる人のレベルも知れてくるわけですが、冗談はさておき、個人的に今回の変更、一配達員として素直に感心したというのが正直なところ。

やっぱりアメリカの先端企業はすごいなと思いました。

日系企業が戦うのは相当大変だろうと思いました。

なので、どんな変更があって、一体私が何に感心したのか、そこを書いてみたいと思います。

注意点

1.まず、これは私の主観的な感想です。

①配達地域、②フルタイムか空き時間バイトか、③自転車かバイクか、ウーバーイーツ配達員の働き方は多様であり、その人毎に今回の変更の影響は様々なはずで、それを総括しようとはしていません。

したがって、客観的な記述をする気もないと開き直ります。

2.また、これは配達員視点からの考察です。

この後、従前の仕組み問題点などを書きますが、「それを問題点と捉えるのは甘えであり、そんなだからそんな仕事しか云々」といった感想を持つような高潔君子におかれましては、ご容赦いただけると幸いです。

3.そして、この記事の目的は、私が何に感心したのかを書くことです。

従前の仕組みや変更後の仕組みの詳細をwikipedia的に解説すことが目的ではないので、私の感心を説明する範囲内で仕組みを解説するのみとなります。

仕組みの詳細を網羅的に知りたい人はウーバーのHPなどをご参照ください。

受注の仕組み

配達員側の作業手順ですが、これは意外に知られていないと思うので詳しく書きます。

【これまでの仕組み】
1.アプリに依頼が来る。ポイントはこの時はレストランまでの推定距離と地図上の位置しかわからないということ。

つまり、レストラン名やその場所、配達先、注文内容などは一切わからない。

地図上の位置が分かることになってはいるので、慣れるとあそこのマックだろうなんて予想はできますが、実際にはアンドロイド端末だとアプリが上手く機能して地図上の位置が表示されるのは1割未満だったので、基本的にこの時点ではレストラン情報もわからないと言って問題ないでしょう。

2.アプリ上でその依頼を受諾すると、ピックアップ先のレストランの位置と注文内容が分かり、そこまで料理のピックアップに向かう。

ここでのポイントは、レストランの名前や位置は分かるのですが、まだ配達先の情報は一切わからないということ。

3.レストランに到着し、料理を受け取ってかばんに詰め、アプリ上で受け取り完了処理をすると、配達先の情報が出てくるので、客の所へ向かう。

ここでのポイントは、料理をかばんに詰め、後戻りできない状況になってから初めて配達先が分かるということ。近いとか超遠いとか。

【変更後】
最初の依頼時に、ピックアップ先のレストランの場所と配達先が分かるようになった。

料理をかばんに詰め終わってからの「お願いだから意味不明な長距離はやめてくれ!」という悪魔的なガチャをしなくてよくなった。

まあ、評価は後でまとめて書きます。

報酬体系

【これまでの仕組み】

(一軒当たり報酬)
基本料金+距離に応じた従量制+ピークタイムボーナス。

ピークタイムボーナスというのは、ランチ時の銀座や六本木など混雑して配達員が足りない場所は、その状況に応じて、1件当たり数百円のボーナスがもらえる。

ポイントは距離に応じた従量制の部分で、この場合の距離というのはレストランから配達先までの距離のことで、依頼を受けた場所から料理をもらいにレストランに行くまでの移動には1円の報酬もない。

そして最大のポイントは、従量制料金は1km当たり約54円(正確には60円で1割を手数料として抜かれる)なのですが、この54円がkmに対して全く割に合っていないこと。

例えば、ピークボーナスなしで、マックの注文を受けて、5分くらいですぐ近所に配達すると報酬は400円位。

しかし、大雨の中、意味不明な長距離注文で、1時間くらいかけて6km先に配達して、客から「おせー」と怒鳴られても650円位。

つまり、稼ぐためには近距離配達を数多くこなすのが明らかに有利で、長距離になればなるほど不利という料金設定なのですが、なぜそれが通用していたかと言うと、その答えが上述の受注の仕組みで、料理を自分のバッグにしまって受け取り完了処理を済ませるまでは配達先が分からないという仕組みのために、配達員はこの理不尽を強制されていました。

【変更後】
新しい要素が追加された(詳細よくわからず)。

1.最初の依頼時に見積もり報酬料金が提示されるようになった。

当然、実際に配達した場合は、移動距離(行程により変動)により実績報酬額は見積もりと乖離する場合があるのですが、上方修正されることはあっても、下方修正はない、つまり、最初の提示金額が下限保証となるようになった。

2.客が待っている依頼はボーナスがつくようになった。

これどういうことかというと、非常にシンプルな例だと、客が注文したのにそのレストランの近くを流している配達員がいなくて、なかなか配達員が決まらない場合などに、決まらない時間が増えれば増えるほど、報酬も上乗せされることになった。

従前の仕組みだと、今いる場所から2km先にあるレストランから依頼などがきても、レストランまでの移動に報酬は発生しないので誰も受けないわけですが、みんながやり過ごしている間に少しずつ報酬が増えることになり、どっかのタイミングで誰かが受けるようになった(ここは後に詳述)。

3.いまいちよくわからない

どういう料金計算になったのか不透明なのですが、個人的に一件当たり報酬は明らかに増えた気がする。

知っておくべき問題点

これまで、従来の仕組みと変更点を概括したので、変更の影響を書いていきたいのですが、もう少し説明させてください。

ウーバーイーツを語るうえで欠かせない前提知識を二つ紹介します。

【レビュー制度の機能不全】
ウーバーイーツは、外資系らしく相互レビュー機能があります。

つまり、注文ごとに、レストラン、配達員、客の3者が相互に評価します。

客は、配達員とレストランをそれぞれ評価しますし、配達員も、客とレストランをそれぞれ評価します。

これを通じて、メルカリのようにみんな笑顔の北朝鮮状態になるのが喜劇か悲劇かはさておき、関与者全員がフィードバックを反映して、サービス品質含む体験価値が向上することが期待されています。

しかし、日本だけかどうかは不明ですが、私の知る限りこの相互レビュー機能は全く機能していない。

例えば、配達員をやれば誰でも驚くと思いますが、住所の入力ミスがとにかく多く(番地)、また、建物名を書く人は全体の1割位なので、それらを原因とする配達遅れはしょっちゅう。

しかし、商品受け渡し時に、客に住所が間違っていますとか、建物名があった方が助かりますなんて指摘しようものなら、キレちゃってもう大変。

特に、番地入力ミスの一番の原因は、アプリに実装されている住所入力の補助機能で、GPSから割り出した住所があらかじめ入力されているのですが(この精度が悪い)、それをチェックしないことが原因ということもあり、「でもそれはそちらのアプリの問題ですよね」的な「私は悪くない!ムキー!」という話になって、配達員に逆ギレ低評価がつく。

なので、住所の入力ミスは誰も指摘せず放置が基本となっていて、きっと配達遅延に悩まされている人はいつも悩まされていると思う。

(他人事に思う人が多いかもしれないですが、「地区」という欄に番地書いている人は、配達員のアプリ上間違った場所にピンが立っている可能性が高い。住所欄に番地の最後まで書いていれば大丈夫。)

あと、包装がいい加減なレストランも多く、こんなのどうやってもこぼれるだろっていう案件は普通にある。

汁物はラップするのが標準だし、ドリンクにはホルダーつけるのが当たり前だし、配達員がつまみ食いするというニュースがあるから、袋にシールなどして開封できないようにするのが標準。

しかし、そういうのをやらないところは頑なにやらない。

ただ、事故が起きても、客サイドが、基本的に「レストランさんが心を込めて作ってくれた料理がクソ配達員に台無しにされました」という態度で、レストランに改善要求する人は少なく、とりあえず配達員に低評価をつけるので、レストランサイドの包装状況は一向に改善しない。

このように、レビュー機能の機能不全とその根底にある配達員への理不尽低評価のせいで、熟成案件という現象が起きます。

【熟成案件】
熟成案件と言うのは、料理が出来上がっていて、配達員に渡せる状況になっているのに、だれも取りに来ず、そのままずうっと放置されている案件。

これは何で起きるかと言うと、上述のように相互レビューが機能せず、その結果としての非効率を全て配達員が理不尽低評価としてくらうので、包装がいい加減なレストランや店員の態度が横柄なレストランというのは、ベテラン配達員は取りに行かない。

あと、自分達だけ上手いことやろうとして、配達員が来てから調理を始めるとか、調理時間を短めに設定して配達員を外で待たせるのが当然と考えているクソレストランもある。

こういうレストランにはランチ時などは特に敬遠される。

これが一つ目の要因。

あと、上述したように配達員にとって長距離案件報酬的にデメリットしかない。

例えばランチ時に銀座の料理をお台場に運ぶとする。

銀座→築地→勝どき→晴海→豊洲→東雲→有明→台場で6kmくらい。

その案件の報酬は割に合わないいし、なにより、お台場で配達を終了した後が悲劇。

注文の多い地域に戻る必要があり、稼ぎ時にピークボーナス地域からの離脱確定で、自給500円コースまっしぐら。

また、時々ニュースになるけど、汁がこぼれたとか、料理がぐちゃぐちゃになったなんていうのはかなりの確率で長距離案件。

ある程度やればわかりますが、1~2kmの距離なんて、バッグへの詰込みの工夫なんて関係なくて、適当にやっても料理は無事。

ただ、3~4kmくらいからだいぶ怪しくなってきて、どんなに工夫しても、ガタガタ揺れが数十分続く結果、事故が起こる可能性が飛躍的に高まり、バッグにどう入れようが無駄というか、起きるときは起きる。

そして、なにより時間がかかると料理は冷める。

基本的に、超長距離を頼む客と言うのは、自分がどこに頼んだかをよく理解していないので、遅い、料理が冷めてる、弁当の中身が寄ってるなどで、配達員は低評価をもらう確率が高まる。

(そういえば最近、浜松町のココイチのカレーを晴海のタワマンまで運びましたが、晴海トリトンの中にココイチがあって、頼んだ方はなんでこんなに時間がかかるのかとイライラしている)

説明が長くなりましたが、注文をどのくらいの距離圏内から受け付けるか、一定距離はバイクのみ受け付けるかなどは、全てレストランが決める問題で、チェーン店やこだわりのあるレストランは受注圏を絞っていて、そもそも自転車の長距離配達は受け付けていない。

つまり、ある程度やっていると、自転車に長距離配達させる可能性のあるブラックレストランは分かってくる。

ということで、店員の態度が悪い、包装がいい加減、超長距離に当たる可能性があるといったレストランは、ベテランは避けるので、いつまで経っても配達員が決まらない可能性が高く、その場合には料理が出来てからから30分以上カウンターの上に放置される。

もちろん、運悪くそれを取ってしまうと、こちらとしては、注文を受けてから5分でレストランに行って10分で配達しても、「なんで1時間もかかるんだよ!」と低評価をもらう。

これが熟成案件。

変更の影響

さて、ここからがやっと今回の変更の影響。

業務委託か雇用か

今回の仕様変更、根底には、ウーバーの配達員は果たして本当に業務委託なのかという問題があります。

イギリスでは実質的に雇用契約と裁判所が認定したんでしたっけ。

まあ、細かい話はさておき、形式的には業務委託契約でも「実質的な雇用契約」と認定できるかは、指揮命令系統の有無にあります。

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業務委託なのであれば、ある仕事を受けるかどうかは配達員の完全に自由意思で決められるはずで、配達員にその自由がなくウーバーの指揮命令の支配下にあると判断されるなら、契約書に「業務委託契約」と書いてあっても、実質的に雇用契約であり、社員として扱う必要があり、1件当たりいくらではなく、アイドル時間を含めて最低賃金を保証する必要があり、社会保険なども用意する必要があります。

その点ウーバー配達は少し微妙でした。

それが上述の長距離案件で、長距離は明らかに報酬が見合ってないから配達員は避けるはずなのですが、依頼を受けて料理をカバンに入れるまで配達先が分からないという仕組みによって、不利案件を強制している節があって、配達員が事前に案件の詳細を知った上で受けるかどうか決める自由があったとは言えませんでした。

それは、ある意味、ウーバーの支配性を補強する要素だったわけです。

この、事前に配達先が分からないという仕組みは多くの配達員が不満に思っていたのわけですが、ここはちょっと面白くて、ニュースでウーバーイーツ配達員の労働組合のニュースを見たことがある人もいるかと思いますが、彼らは雇用契約性を主張していて、その根拠たる事実上指揮命令の存在を裏付ける要素の1つが、事前にすべて開示されていないというものですから、「事前に配達先を教えろ!」という改善提案をあまり強く主張していないという現状がありました。

しかし、今回の仕様変更で、依頼時に配達先情報まで開示して、さらには、最低保証報酬金額まで開示することになりました。

これは、業務委託としての性質を強力に補強したといえ、雇用契約性の主張は相当厳しくなった気がします。

新報酬体系

新報酬体系は、正直詳細が分からないのですが、個人的な体験で言うと、私の報酬は間違いなく上がりました。

ただ思う所もあります。

おそらく、ランチ時、夕飯時といったピーク時とそれ以外の時間帯で相当傾斜をつけた気がする(これは完全に推測)。

その傾斜のつけ方が、「受注状況に応じて報酬を調整する」というあいまいなものなので、従来の固定計算式方式からすると、不透明で全容がつかめないのは間違いないです。

しかし、私のような、ピーク帯でしかやらない人間にとっては一軒当たりの単価が間違いなく上がったと思う一方、昼であれば、13時過ぎて、もうそろそろ上がるかななんて思い始めてからくる案件の報酬は低い気がする。

もう一件やろうかな、お腹空いたな、どうしようかなと迷っている時に、来た案件の見積金額見て、こりゃもうあがろうと思って上がることが増えた。

つまり、フードデリバリーと言うのは、特定の時間帯に注文が一気に集中するという事情があるわけですが、混雑時のみアドホックで手を貸してくれる人を明らかに優遇する仕組みを推し進めたと言っていいのかな。

逆に言うと、本業として1日中やる人にとっては、ランチ時間が終わって夕飯時が始まるまでの間や夕飯のピークアウト後の報酬は激減してるのかも。

これは、上述した労働組合などの主張に対するアンサーとも言え、ウーバー自身が、これは空き時間にやる仕事なんだと強調していると考えられます。

そして、これは極めて合理的な意思決定と言え、特定の時間帯に注文が集中するというフードデリバリー事業の性質を踏まえた場合に、ピーク時間帯以外の束縛時間の最低自給を払うなんて方向に物事が進むのは、ウーバーからすると非効率そのものです。

1日中ウーバーのために働くロイヤリティの高い配達員を容赦なく切ったとも言えますが、平日か休日か、究極的には毎日状況が読めない中で、混雑時のみ働く人を募集するという無理難題を何とか実現しようと、AIが計算に計算を重ねた出した一つの結論なんでしょうね。

したがって、今回の新報酬体系、「こんな仕事は誰でもできるから少しずつ報酬は下がっていくのが必然なんだ」という安易な考察では説明しきれていなく、「必要な時に必要なリソースを集めて、必要がなくなれば解散していいよ」という都合のいいサービス運営をガチで実現しようしているわけです。

やっぱり、目指しているものの高さが違う気がする。

長距離案件の行く末

ここまで来てやっと書きたいことが書ける。

それは、最初の依頼時に配達先までわかるようになったという仕様変更。

そして、従前からある長距離案件と熟成案件の問題。

これ、散々述べてきたように、配達員にとっての不利案件というのは、これまでウーバー側は配達員に事前の情報公開を絞ることで無理やりやらせていた。

しかし、今回の仕様変更から事前に詳細が分かるようになった。

何が起きるか。

もう、超長距離案件は誰も受けなくなる。

もちろん、放置時間が長いと報酬が上がっていくという仕組みが導入されたから、バイク組が拾ってくれるかもしれない。

しかし、バイク組といえども、ピーク時間帯に稼げる地域から離脱するのは避けたいので、拾わないかもしれない。

どうなるか。

たぶん、誰も配達しないんだと思う。

長距離案件も、一定時間放置されてしかるべき料金になるまで誰も受注しない。

私が感心したのはここ。

全体最適を図るために、問題を起こしている数%をあっさり切り捨てる決断をしたんだと思う。

長距離案件というのは悪魔のくじ引きみたいなもので、割合でみると全体の数%もないわけですが、時々それを引いてしまうことがあって、それがすさまじいストレスを配達員に与えていた。

道路を暴走する配達員、イライラしている態度の悪い配達員など、これが原因。

私も、本業のアポが20時からあるという場合、18時過ぎには終わらないといけなくて、なんでかと言うと、どんな案件引くかわからず、帰る方向と真逆に行く場合など、行って戻ってくるというとんでもない時間的なロスがあって、事前に配達先が分からないのはすごいストレスだった。

しかも、長距離を頑張って運んでも、理不尽低評価をもらうことが多くて、やるせない思いをすることが多かった。

上述した銀座ー台場のほかにも、八重洲の幸楽苑のラーメンを土砂降りの雨の中錦糸町まで運んだこともある(もちろん注文者はお怒り。スープ冷めてんじゃねーかと)。

しかし今後は、事前に長距離かどうかが分かるので、雨の日などは特に、配達員が誰も受けず、注文してもいつまで経っても届かないという案件が発生する確率が上がる。

頼んだ客からするととんでもない話ですが、これ一番悪いのはレストランなんですよ。

そんな注文を受け付けるのが悪い(バイクに限定すべき)。

まあ、「どんな注文も文句言わずに迅速かつ完璧に運びやがれ」派もいるでしょうから、善悪の評価は止めますが、ポイントは、仕事のモラル論ではなく、合理性の話。

ギグワークという合理性をひたすら追求したサービスを考えた場合に、合理主義の塊のようなITベンチャーからすれば、配達員に情報を隠すことで無理やり運ばせるなんて、何かがおかしいという結論に達するのは時間の問題だっといえ、事前に情報を開示して、誰も受けないなら、そんな案件を切り捨てるという結論が合理的。

そして、それを本当に実行したことに感心した。

一部の客やレストランは、ウーバーあり得ねえと激怒するんでしょうけど、これを切り捨てることで得ることの方が遥かに大きい。

悪平等、すなわち、合理性を著しく害する行き過ぎた平等主義の弊害が、日本ではよく叫ばれますが、ここまで割り切れる企業あるだろうか。

日系企業にこれ真似できるだろうか。

競争して勝つには相当の覚悟がいる気がする。

配達員の満足度

上の話の続きですが、関係者の満足度と言う観点から角度を変えてみてみます。

ウーバーと言うのは、搾取する企業の代表のように悪口を言われています。

現代版蟹工船など。

しかし、シリコンバレーの連中と言うのは、超リベラルで超頑固と言うか、理想主義的でしっかりした哲学を持っているのも間違いない。

おそらくウーバーの経営陣も、自分達のサービスは間違いなく社会に貢献すると信じている。

AIを駆使して超効率的なサービスを作り上げれば、社会全体の便益を向上させることができると信じている。

そして、理想主義的な一面の反映として、関係する客、配達員、レストランの3者全員に幸せになってもらいたいと思っている。

現実はさておき、おそらく、心の底からそう思っていて、配達員を搾取しようなんて全く考えていないんじゃないかな。

相互レビュー制度もそうで、お互いが建設的にフィードバックし合うことで、全員が幸せに向かうと信じてるんだと思う(逆ギレが跋扈する日本で機能するかはさておき)。

そして、配達員をやるとびっくりしますが、しきりに仕事への満足度に関するアンケートが送られてきます。

これも、理想主義の一面で、働く人間の満足度がサービス品質の根幹だと考えているんだと思う。

本当にそうなんだと思う。

だから、今回の意思決定に踏み切ったという面もあるんだと思う。

つまり、配達員が様々なトラブルを起こしていて、一体に何がそんなにストレスになっているかと調査したときに、全体の数%の理不尽案件だとわかったから、その案件をあっさり切り捨てることにしたんだと思う。

これ、レストランや客、特に客からするととんでもないから、日系企業では絶対にできない意思決定だと思いますが、これこそが、モンスタークレーマー問題とその裏側にあるブラック企業問題の本質と言えます。

一部のレストランのせいで、割に合わないストレスを配達員が抱えている。

それを取り除くことで落ち度のない(?)客が巻き込まれるわけですが、まあ全体最適のためには仕方ないよねくらいで、大して気にもしてないんだと思う。

実際に、今回の変更で、無用なストレスから解放されたと思っている配達員は多いんじゃないだろか。

その結果、サービス品質も向上しているんだと思う。

そして、一定の時間帯に業務が集中し、それ以外の時間帯は特に忙しくないというフードデリバリ業界において、必要な時に必要なだけリソースを確保するという難行をガチで実現しようとしている。

本当に、アメリカのIT企業ってすごいんだなと感心したわけです。

おわりに

今回のウーバーイーツの配達員サイドの仕様変更に非常に感心したのでまとめてみました。

そもそもウーバーイーツというのは、どこの馬の骨が運んでくるか不明、ただ、その反面安くて便利というサービスで、要するに70点で良しとするサービス。

AIを駆使し、その反面、人間味をなくして、徹底的に合理化することで価格を抑えようとしている。

だから、AIが絵に描いた餅を人間が補う100点のサービスを望む人は利用しない方が良い。

クレームを言えば「あっそうですか」と返金してくれます。

その反面、「責任者を出せ」とか、「同じ間違いをしないと約束しろ」とか騒いでも相手にしてくれません。

そのクレームが妥当かどうかとか、そういう判断にかかる人件費が一番無駄だと思ってるから、「中身の吟味」は一切せずに機械的な対応をする。

クレームをつければつけるだけ無条件で返金してくれますが、その割合が統計的に高すぎると判断すれば、問答無用でアカウントを停止するだけ。

その結果、料理を配達員が食べちゃっても調査もしない。

というか、転倒して料理をグチャグチャにしてしまったのかもしれないし、子供が急に熱出して保育園に迎えに行かなくてはいけなくなったかもしれないし、そういう嘘をついて配達員が料理をパクったのかもしれない。

しかし、そんなこと調査するのが一番無駄なので、100件に1件くらいは問題なしとスルーして、ただ料理未到達案件が一定の割合に達するなど、一定のトリガーを引くとアカウントを停止するというだけ。

とにかく徹底して合理性を追求している。

その思想の延長に今回の仕様変更があり、一定の案件に関して、だれも引き受ける人がいなくなって延々とたらいまわしにされるリスクがあっても無視。

どうすれば全体最適になるかだけ考えています。

そして、そこに人間味はないとも言えますが、結果として、今回の仕様変更により、配達員のストレスは大きく減っていて、その結果サービス品質も向上するんだと思う。

私は西洋的な合理主義精神というのは基本的に嫌いですが、ここまで徹底していると見事なものだと思います。

感心しました。

日本はITが弱いとかいろいろ言われていますが、究極的にはIT化による合理化ってこういうことなんでしょうね。