Allpostersが日本から撤退:ウォルマートの戦略


Allpostersが日本での営業を終了してしまいました。


はじめに

昨年末になって、Allpostersが日本語のサイトを閉鎖し、日本から撤退するという大事件が起きました。

Allposters.comというのは、複製画やアートポスターを額装も込みで200万点以上取り扱うアートビジネスの世界最大手で、ゴッホやモネのような超有名絵画だけでなく、ある程度知られている様な絵画ならほとんど入手可能なモンスターサイトでした。

私も何枚も買っていますが、一番のお気に入りは、自宅の居間に飾っているベックリーンの『死の島』です(ただの自慢)。

このAllpostersは、絵が好きな人ならみんな知っている有名サイトで、品揃えも良く、事実上ライバルが存在しないため、ビジネスは順調なのかと思っていたのですが、まさかの撤退。

そこでなぜかを調べてみました。

そうしたら、なんと、ウォルマートが買収していて、アメリカでは結構な話題になっていました。

CNBCのニュース
Walmart to acquire home decor site Art.com, further extending its e-commerce push

Forbesの分析記事
Walmart Goes After Young, Affluent Customers With Art.com Acquisition

日本では、Allpostersというサイトで小売りをしていましたが、本体はArt.comと言うらしく、Allposters以外にも、クリエイターが自分の作品を直販するサイトなど複数のサイトを運営しているようです。

今後は、既存のサイトを残しつつ、ウォルマートのサイトでも商品は売られるようですが(いまいちよくわかっていない)、買収に伴う業務整理の一環で、アメリカ本国以外での営業はやめることにしたようです。

ウォルマートの戦略

ウォルマートといえば世界一のスーパーマーケットチェーンであり小売業界の巨人と呼ばれていましたが、数年前にアマゾンに抜かれています。

その結果、どちらかといえば落ち目企業のような扱いを受けていますが、実はECサイトの拡充を鋭意目論んでいます。

そして、もっぱらの主戦場は家具です。

試着できないから通販は普及しないと言われていたファッションが陥落した今、ネット通販を中心としたバーチャル企業軍団が、次に狙いを定めているリアル店舗主流カテゴリーは家具です。

家具こそ、実物を見てみないとわからないと言われますが、消費者レビューやビッグデータに基づくリコメンド機能の活躍など、実物よりも情報流通こそが主戦場と化した今、考えてみると、インテリアというのはファッションに近いところがあって、1点物の高級家具はさておき、量販品などは、情報を握っているネット企業とは相性がいいかもしれません。

芸能人の別荘訪問番組なんかをみると、結構さえない家に住んでいる人は多く、お金はあるけどインテリアには苦戦しているという人はたくさんいて、ファッション以上に、一人一人のニーズにカスタマイズされた情報が求められている業界といえるかもしれません。

さらに、家具ビジネスというのは、カーテン、ソファー、ベッドなど、インテリア好きの人は毎年買い替えたり、引っ越しと同時にまとめ買いをしたりと、継続取引が発生しやすく、ボリュームの大きなビジネスなので、アマゾンなども非常に力を入れています。

もちろん、目先の敵はイケアやニトリなどのリアル店舗企業の雄で、そこから全力でシェアを奪おうとしています。

そして、通販サイトの拡充を図って、アマゾン相手に五分で戦おうとしているウォルマートも、家具分野の拡充を虎視眈々と狙っていて、そのために、アマゾンとの競争で苦戦している老舗の大手ECサイトを買収しまくっているようです。

Art.comは独自路線ですから、アマゾンに押されているわけではないと思いますが、アマゾンがアート分野に力を入れつつあるのは米国アマゾンなんかを覗くと明らかで、ウォルマートが先手を打って買収したということでしょう。

とは言え、今回のウォルマートによるArt.comの買収は、ウォルマートにとってどんなメリットがあるのでしょうか。

Art.com買収で得るもの

このウォルマートによるArt.comの買収、考えれば考えるほど、練られた戦略のような気がしてきて、私は非常に興奮状態にあるのですが、Art.com買収でウォルマートが得るものを考えてみたいと思います。

Art.comの持つ拡張現実技術

Art.comは200万点にも及ぶ名画のデータを持っているのですが、持っている資産はデータだけではありません。

最先端の拡張現実技術を持っています。

拡張現実技術って何ぞやという方もいるかもしれませんが、自分の家の写真や動画を撮っておくと、購入を検討している商品を重ね合わせることが可能で、購入前に、購入後のインテリアのイメージができるようになる技術です。

Art.comの場合、この技術はすでに実装されていて、主力商品は額入りの複製画ですが、大きさや額装を変えながら、飾ったときにどんな感じになるかを具体的にイメージしながら購入時に検討できます。

この技術は今後の家具販売の核になりそうです。

これがあれば現物を見なくてもいいとはならない気がしますが、これが無いのであれば現物だけみても仕方がないという状況はすぐにきそうです。

いずれにこの拡張現実技術は不可欠な技術となるでしょうから、最初にどこが実装できるかは大きな差を生むかもしれません。

Art.comが実装済みとは言え、まだ壁に掛ける絵画だけなので、ソファーやカーテンなど他の家具への応用はどのくらい壁があるのか、私は技術的な部分には弱いので何とも言えませんが、すでに実装している企業を(すでに利用している顧客とともに)獲得したのは大きいかもしれません。

アートを軸としたリコメンド機能

上述したように家具ビジネスの魅力の一つに、家に人が頻繁に遊びに来るようなインテリア好きの人はいろいろなアイテムを頻繁・継続的に購入するという点があります。

ファッションと同じで、暇さえあれば家具(や食器)を見ている人も多いです。

カーテンを買いなおしたら、ソファーも買いなおして、テーブルも買い替えたりと、インテリアグッズという範疇において継続的な購買行動が期待できます。

そういったビジネスの場合、AIやビッグデータを利用したリコメンド機能の充実が今後は非常に重要になってきます。

AmazonやNetflixなど、検索機能も便利ですが、検索対象の商品数が多すぎて、よほどピンポイントの検索をする場合以外は、リコメンド機能に結構助けられています。

これは家具も同じで、商品数がありすぎて、アマゾンでも楽天でも、すでに検索機能とリコメンド機能のどっちが便利なのかよくわからなくなっている状態です。

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したがって、拡張現実技術の整備も重要なのですが、それが整備されるとしても、無数の製品を価格順などで羅列するだけで、後は勝手に検討してねという姿勢では後手に回るのは必至で、このソファーにしたら部屋はどんなイメージになるかなと、拡張現実技術で遊んでみたくなるような、魅力ある商品をピンポイントで提案できる精度の高いリコメンド機能が求められます。

そして、これはインテリア関係者ならわかると思いますが(一応は私もペルシャ絨毯屋です)、お客さんがどんな絵が好きで購入したのかという情報はホームラン情報かもしれません。

これが分かればかなりインテリアの提案の精度が上がりますし、現状の対面型インテリア提案でも、もしインテリアデザイナーと客の好きな絵が違ったら、話は全く合わないような気がします。

年齢は人によってさまざまでしょうが、経済的な余裕が出て、インテリアに興味を持ち始める時期(本屋でインテリア雑誌を手に取り始める時期)はあるかと思います。

その時に、手始めにちょっと壁に絵でも飾ってみるかなんて言うのは良くある話で、家具屋にしてみれば、インテリアに興味を持ち始めた層向けにアートビジネスに力を入れておくのは新規顧客獲得の非常に良い入口です。

そして、最初の取引をきっかけに続く取引を提案したいわけですが、もし絵の好みが分かれば、家や部屋をどんな雰囲気にしたいのかのイメージが具体的につかめますから、魅力ある商品を提案しやすくなります。

こう考えると、これから来るITとリアルビジネスの融合という視点で、今後家具販売ビジネスを見たときに、入り口としてのアートビジネスというのかなり筋のいい着想な気がします。

ファッションの場合はブランドを軸にリコメンドできますが、家具の場合は、ブランドカラーは当然ありますが、ブランドが多様なラインナップを出していますから、ブランドや価格帯だけでは絞り切れないところがあって、アートに関する消費者行動はかなり有効なアプローチのような気がします。

Art.comの顧客層

ウォルマートがArt.comを買収することで手に入れられるものの3つ目、それはArt.comの既存の顧客です。

これが約12万人いると言われていて、しかも、高収入、高い教養、さらに若いという3つの要素を持っていると言われます。

マーケティングの世界では、典型的なHENRYと呼ばれる人たちで、High-Earners-Not-Rich-Yetの略で、高収入だけどまた金持ちには至っていない層のことを指し、若くて高収入にもかかわらず、意識が高く出費も大きいため金持ちにまではなっていないのですが、後々でかい家を建てたりする可能性がある層で、家具屋としては一番囲い込みたい層です。

Forbesの記事によると、この層は人口全体の25%しかいないのに消費の40%を占めるそうです。

この層は若いときから美意識が高いので、まだ出費も大きくお金持ちには至っていないものの、壁にアートポスターを飾ったり、手軽な方法でインテリアにこだわっていると言われています。

ウォルマートとしては、Art.comを入り口に、この層を若いうちに囲い込んでしまいたいわけです。

もっとも、この層は既存のウォルマートの顧客層とは異なります。

そして、ここにこそ従来のWalmartではなく、Walmart.comの戦略があるような気がします。

ポイントは、どうアマゾンと闘うか。

家具の通販の拡充を急いでアマゾンと真っ向勝負するといっても、アマゾンの真似をしたら勝てるはずはありません。

特に、従来のリアル企業が苦し紛れにリアル店舗延長の通販サイトを作ったり、何の戦略もなくネットスーパー始めて、ただ広告打つだけで特に何も起きずに終わっていますが、同じ過ちを踏む気はなく、完全にITベースの新事業としてECサイト構築を目指しているんだと思います。

私の個人的な予想ですが、おそらくウォルマートは、従来のスーパーマーケットチェーンWalmartからWalmart.comへと変革を急ぐ中で、ますます加速する二極化社会を見ている気がします。

そして、二極化社会の中で、上層部だけを相手にした、「洗練されたブランドショップだけからなる楽天」のようなECサイトを作ろうとしているのだと思います。

ウォルマートは、アマゾンに潰されたもしくは潰されそうな老舗ECサイトを買収しまくっているようですが、そういった既存のブランド力も利用しながら、精鋭多国籍軍的なECモールを使って、巨大化しすぎて収集つかなくなりそうなAmazonに対して明確な軸をもって対抗しようとしているのかなと思います。

そのためには、提供するサービスと同じくらい、Art.comが持っている既存顧客層が起爆剤になるかもしれません。

25%の人口ながら消費の40%を占めるHENRY層を常連にできれば、幅広く対応する巨人アマゾンに対して、非常に効率のよいビジネスで対抗できます。

おわりに

ウォルマートによるArt.comの買収から、家具通販の将来を考えてみました。

もともとスーパーマーケットという完全なるリアル店舗企業で、時代の流れとともに、アマゾンというIT企業に抜かれたのにもかかわらず、次世代のIT技術を駆使して、家具をはじめ生活グッズECサイトの覇権を狙ってアマゾンに真っ向勝負をかける雰囲気があって、さすがです。

腐ってもウォルマートという感じで、慌ててネットスーパー始めるだけのような、外形上まねしてるけど実質的に時代にまったく追いついていないとかではなく、最新技術を駆使して主戦場である情報戦を勝ちに行くだけでなく、さらに先を見据えたすごい構想を持ってそうで今後の展開が楽しみですね。

アマゾンも最近は相当家具やアートには力を入れていますが、この両巨人の激突の中でイケアやニトリのような、ただ併存する通販サイトを運営しているだけのようなリアル店舗型企業はどうするんでしょうか。

すでに黄金期は過ぎて業績に陰りが見えているようですが、なんとなくヤバそうな気がしますね。

ファッションに続き、ホームファニチャーも、ヴァーチャル企業軍団が制覇する日も近いかもしれません。

そういえば、そんな苦境に陥りつつあるニトリやイケアを見習うといって数年前に業態変更して、崩壊寸前になっている家具屋もありますけどね。

私の一番好きな本です。