ZOZOTOWNで考えるECサイトの未来


目次


最近話題のZOZOTOWNです。

はじめに

今回は、最近話題のZOZOTOWNについて考えてみます。

といっても、前澤社長の話ではありません。

病人に寄付したりお年玉を配ったり様々な議論を巻き起こしていますが、そこらへんは個人の価値観の問題だと思うので触れません。

私が注目するのは社長個人ではなくてZOZOTOWNのビジネスの方で、これが落ち目なんじゃないかという報道を最近よく目にするので、そこら辺を分析しながら、ECサイトの未来を考えてみたいと思います。

なお、この記事、いくら考えてもまとまらなかったので、まとまりがないですが、ご容赦ください。

ウォルマートの戦略

この記事を書こうと思ったきっかけは前回のAllpostersをウォルマートが買収したという記事です。

話を要約すると、ウォルマートはアマゾンに対抗できるECサイトの構築を急ぐ過程で、Art.comという、アートビジネスの最大手を買収したという話です。

そして、ウォルマートは何が欲しかったのかというと、いろいろあるのですが、その一つがArt.comの顧客であると言われています。

Art.comというアートビジネスの顧客層ははっきりと特徴があり、マーケティング用語ではHENRY層という、High-Earner-Not-Rich-Yetすなわち、若くて高収入な(だけども支出も多くまだお金持ちにはなっていない)層を指します。

このHENRY層は人口25%にもかかわらず、消費全体の40%を担う層で、ウォルマートの既存顧客層ではないのですが、ウォルマートの主要顧客層である低所得者層は、人口は多いものの、消費全体の50%しか占めていないらしくECサイト構築にあたっては、明確に方向転換をしつつあるような気がしています。

まだ不透明な部分はありますが、HENRY層を引き付けるようなハイセンスなブランドだけから構成される高級セレクトショップ的なECサイトを構築して、何でもありのAmazonに対抗しようとしているようにうかがえるわけです。

しかし、この方向転換には一理あるような気がします。

というのも、最近のAmazonを見ていると、かなりのカテゴリーにおいて、検索結果は、得体のしれない中華企業の粗悪品見本市と化しており、この傾向が進むと、安かろう悪かろうな商品は扱わない高級セレクトショップの需要が高まるような気がするからです。

オンワードの離脱

そんなことを考えていた矢先にZOZOTOWNからのオンワードの離脱が発表されました。

このオンワードの離脱、原因はZOZOTOWNの有料会員サービスのスタートにあります。

ZOZOTOWNはアマゾンのプライム会員のような有料会員サービスを始めるらしく、一定の会費を支払うと、すべての商品が10%OFFで買い物できるようになります。

この10%部分はZOZOTOWNが負担するので、ブランド側の負担はないのですが、ブランドとしては自分たちの商品が常時10%OFFで売られるわけで、デパートで売ったり、自社サイトで売ったりしているオンワードとしては、ブランド価値の棄損を避けるために、ZOZOTOWNからの撤退を決めたと報道されています。

前提として、オンワードは常時10%OFFのサービスが始まる以前から、ZOZOTOWNで販売することによるブランド価値の棄損を気にしていたといわれます。

ZOZOTOWNも最近は、Amazonや楽天に出品しているよくわからない中華企業が大量に廉価品を出品していて、検索結果は激安品が大量に並びます。

WEARといったアプリから、芸能人の私服をみて、この白いダウンのコートかわいいなとZOZOTOWNに飛ぶわけですが、そこには、調べたブランド物と似ている、安い白いダウンのコートがずらっと並ぶわけです。

そして、各社がクーポンやセールを乱発しており、そのせいで、ファッションサイトであるにもかかわらず、価格だけで商品を比較する顧客層が中心になっているようです(嫌な言い方ですみません)。

数年前と比較して、客の平均単価は5,000円台から3,000円台にまで下がっているらしく、衣料品のサイトで顧客単価が3,000円台っていうのもすごいなとは思いますが、オンワードはじめとしてそれなりのブランドの多くは、自分たちの製品が、価格だけで比較されるような状況に嫌気がさしていると言われます。

そこに追い打ちをかけるように、常時割引を内容とする有料会員サービスが開始され、ZOZOTOWNとしては例外ブランドは一切認めいない姿勢。

このような、ZOZOTOWN内において、価格だけで商品を比較して、ブランドの細かいこだわりなどが気にされなくなる動きが加速すること受け、オンワードは離脱を決めたわけです。

しかし、もう我慢がならないとキレて勢いで出店を止めたというわけではなく、ZOZOTOWNなしでもやっていける見込みがあるからこそ撤退を決めたわけで、その背景には自社サイトの好調があり、そもそもオンワードのオンライン売り上げの過半数は自社サイトだったからこそ決断できたと言われています。

そして、実はそれを支えている力の一つがAmazonなんですね。

自社サイトの復活

これを読んでいる人で、Amazon Payを使ったことがある人がどれくらいいるかわかりませんが、使うと結構感動します。

Amazon Payというのは、流行りのキャッシュレス決済ではなく(進出予定ですが)、オンライン決済の仕組みです。

私も昨年末Kappaのウェアを、Kappaのサイトのセールで買ったのですが、支払い方法でAmazon Payを選択すると、小さな別ウィンドウでアマゾンのログイン画面が立ち上がり、IDとパスワードを入力すると、いつものカードで支払い、いつもの場所に送ればいいですかと聞かれて、「はい」を押すとそれで買い物終了です。

ブランドの自社サイトなのですが、会員登録はじめ、住所の入力やカード番号の入力が一切不要で買い物ができます。

今までは、ネット通販でも何が不便といっても、IDやらパスワードやら住所やカード番号やら、会員登録が面倒でしたし、そもそも、カード情報の登録など、信用できないサイトもありました。

最近では、会員登録どころか新規のアプリのダウンロードすら面倒で、個別的なブランドの自社サイトなんてますます過疎化するかと思いきや、そこに現れた救世主がAmazon Payで、これを利用するとどんなサイトでも、新規登録など不要で、Amazonで買うのとほぼ変わらない手続きで買い物ができるようになるわけです。

同じような仕組みで楽天Payもあるのですが、オンワードの自社サイトも、Amazon Payや楽天Payの恩恵を受けているはずで、商品を見てカートに入れた後に待ち受ける、会員登録といった自社サイト運営で一番ハードルが高いところを一気にクリアするサービスが出てきているわけです。

ここ10年位、Amazonと楽天によって数々のブランドサイトが風前の灯になってきたわけですが、ここにきて、Amazonと楽天によって復活するようになってきました。

一体彼らの狙いは何なんでしょうか。

Amazon Payの狙い

なぜAmazonは、本来的にはライバルであるブランドの直販サイトを支援するようなサービスを提供しているのでしょうか。

その理由はおそらくシンプルで、Amazonというのは世界最大のショッピングモールですが、Amazon自身は、たぶん、ショッピングモール事業を自分たちの中核ビジネスに位置付けていないのだと思います。

そもそも、IT革命がビジネスに及ぼす一番わかりやすい影響は中間事業者の排除で、情報技術により、多くの場面で生産者と消費者が直接つながることが出来るようになりました。

そう考えると、リアルにしろネットにしろ、ショッピングモールが絶滅することはないのでしょうが、長期的な流れとしては、ブランド力のある生産者ほどお得意様を直接囲いこむようになるのは明白で、ショッピングモールでは、標準化された無個性の商品が主流となるはずです。

そしてそれは、薄利多売ビジネスですから、規模の経済を生かして大きなビジネスはできるとはいえ、小売業として決して筋のいいビジネスではありません。

ドン・キホーテのように店舗での買い物体験を売りにできれば別ですが、ネットだと際限ない価格競争が続くので、終わりのない消耗戦となり、カスリをもらうモール事業者としても規模は増えてもそれ以上にコストが増え旨味も大してないなんてことになりかねません。

その一方で実力のある生産者はモール業者に手数料を払わなくても自立するようになっていきます。

近年サブスクリプション型サービスというのが流行りで、要するにNetflixやAmazon Music Unlimitedのような月額課金サービスのことなのですが、アメリカではアンダーアーマーが、サイズや趣味のスポーツとともに、半年ごとに2万円などと登録しておくと、半年ごとに2万円以上のお得な新製品BOXを送るサービスを始めていて好評だったり、化粧品メーカーが毎月消耗品を定期便で届けるサービスを始めて好評だったりと、ここに来てブランド力のある生産者による直販ビジネスは大きく進んでいます(ここ面白いのでもうすぐ別記事書きます)。

このような流れはある意味当然であり、物販においては、結局、ブランド力のある生産者のほうが、間に入ってカスリをとるモール事業よりも優位なわけです。

とするならば、Amazonともあろう会社がショッピングモール事業に重点を置くはずもないわけです。

そこで登場するのが、Amazon Pay、Amazon フルフィルメントサービス、AWSというアマゾンの新ビジネス3本柱です。

フルフィルメントサービスというのは倉庫物流サービスのことで、AWSというのはAmazon Web Serviceの略で、いまやアマゾンの利益のほとんどを稼ぐと言われているデータセンタービジネスです。

そして、Amazon Payも含め、Amazonはこの3つを、上述のオンワードの自社通販サイトのような、ライバル企業ともとれるような会社にも提供しています。

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おそらく、Amazonとしてはショッピングモール事業にこだわるつもりはなくて、Amazon Pay、フルフィルメント、AWSの3つによって、技術革新がどのように進もうとも社会に存在し続けるであろう、金・モノ・情報の3つの流れを支配するインフラ企業になろうとしているのだと思います。

逆に言うと、金・モノ・データの流れを抑えて、無数のECサイトから決済手数料・配送保管手数料・データ管理料をもらえば、Amazonの看板なんてなくても、世界中がAmazonのショッピングモールみたいなもので、Amazonという看板が置かれた場所に意味があるわけではないことに気づているわけです。

将来一番必要といわれている消費者行動情報も入手可能ですし。

ZOZOTOWNの試み

このような流れを考慮するとZOZOTOWNの弱みというのも見えてきて、要するにZOZOTOWNというのは、あくまでショッピングモール事業であり、それ以上になれる見込みに関して視界不良なわけです。

ZOZOTOWNというのは、非常に優秀な企業なのですが、出自は明らかにIT企業で、つまり裏方企業。

一番有名なのは、各ブランドの服のサイズを人海戦術で全部自分達で測りなおしてサイトに表記することで、同じMサイズでもブランドごとにサイズが違うという、衣類の通販におけるサイズ合わせ問題という最大の障害を取り除いたことです。

このように、ファッションの通販は無理だと言われていた時期に、サイト運営や物流を徹底的に作りこみ、ファッション通販を可能にした点に革新性があります。

気鋭のIT集団がファッション業界に風穴を開けたのですが、長期的視点で見ると、IT革命の第一段階ともいえるECモールの発展という、第2段階としての生産者による直販が普及するまでの過渡期における潮流に乗っただけとも言えます。

上述したように、今後さらにビジネス革新が進み、ブランドが自社直販の途を見つけて頼らなくてもよくなってZOZOから撤退していくようになると、残るのはZOZOTOWNに頼らないとやっていけない認知度の低いブランドで、そこを相手にして利益は得られるものの、その仕組みがそのまま仇になり、コピー専門の中華企業でもZOZOTOWN内でビジネスができるようになるわけで、結局、低価格帯を中心とした価格競争が支配する場でカスリを取るという厳しいビジネスモデルに少しずつ収斂していきそうです。

もちろん、ZOZOTOWNとしても「モール事業者以上」になろうとしているのですが、そこが上手くいっていません。

以下ちょっと細かく見ていきます。

ZOZOスーツ

これは誰か止めなかったんだろうか。

一部の男性を敵に回しそうで怖いですが、おしゃれな人は一部の金持ち以外オーダースーツはあまり着ない気がします。

なぜかというと、自分の体形に合わせたスーツなんてダサいに決まっているからです。

ネットでZOZOスーツはかっこ悪いなんて意見がありますが、ZOZOスーツが格好悪いのではなく、大変恐縮ですが、オーダーした人の体が格好悪いだけなんだと思います。

そこをどうにかするのこそ職人の腕で、それを求めると価格はそれなりに高くなります。

サイズを測るところにすごい技術があったとしても、そのサイズに合わせて機械的にスーツを量産したら、それは格好悪いと思います。

ここら辺の技術偏重で本来のデザインを軽視したところに、ファッション企業ではなくIT企業(裏方企業)であるという出自が見え隠れしている気がします。

流通に革命を起こしましたが、ファッションに革命を起こすのは、それなりの経営資源が必要なんだと思います。

なお技術面でも、スマホを机の上に立てて、カメラをオンにして、その前でクルっと回るだけで体のサイズが測定できるアプリが出来つつあるようで、その点でもZOZOスーツは問題ありだったかもしれません。

広告事業への進出

ZOZOも広告事業に進出するらしいです。

ZOZOのサイト内に広告スペースを作り、広告主を募って広告料を取るというもの。

個人的にこの話を聞いて思い出したのが、昨年末のカプコンの騒動。

ストリートファイターという超有名ゲームの背景画像やキャラクターのウェア上に、現実のサッカーチームのように、実在するスポンサーのロゴなどを掲載したのですが、ファンが猛反発しました。

ゲームの世界にそういった商業的な要素を持ち込むなと。

私もゲーマーとしてこの気持ちはよくわかり、ハースストーンがそんなことしたら抗議します。

お金が必要ならしかるべき対価は払うから、ゲームの世界観を壊すようなことはしてくれるなとファンは思うわけです。

おそらくこれはファッションも同じような気がします。

1円でも安い場所を探してセールを行脚するファッション無関心層は気にしないかもしれませんが、本来の優良顧客であるファッション好きの人は、広告だらけのサイトから離れるんじゃないだろうか。

しかるべき値段を払うから、そのブランドの世界観を表現したようなサイト、じっくりと商品を選んで買い物したいと思う気がします。

まあ、そうはいっても最終的に安いところで買うんだというZOZOの読みが当たるかもしれませんけど、ファッションをビジネスしようとしているのは分かるのですが、ファッション業界のプレーヤーとしての思いを一切感じさせないところは、今後足を引っ張る気がします。

月額課金サービス

すでに上の方で触れているように、サブスクリプションサービスが最近は流行りですが、お得意様から定期収入を得られるようになればそれは大きいですから、これから多くの企業がこぞって参入していくようです。

しかし、サービス充実しまくりのAmazonプライム、オリジナルコンテンツの拡充にすさまじい投資をするNetflix、中華企業の品質が上がる一方でしっかりを差を維持いているアンダーアーマーなどが成功する一方で、片手間で流行りにのって在庫を適当に処分しようとしたアオキ(スーツの会社)が定額のスーツレンタルサービスを始めて速攻で撤退したように、狸の皮算用で顧客に月額課金しようとしても、それなりのオリジナリティのある高品質のサービスを維持しないとロイヤリティの高い顧客は維持できません。

この点、ZOZOTOWNも熱心なファンがいますから流行りにのって月額課金サービスを始めたわけですが、如何せんショッピングモール以上でも以下でもないから、常時割引以外にできることが無いわけです。

業界での圧倒的な地位に基づいて唯一出せる独自色が、他ではあまりセールをしないブランドもZOZOTOWNでは常時割引で買えるという特典です。

そこで、オンワードに対してやったように、月額課金サービスの対象者であれば、すべてのブランドが常時10%OFFで、ブランドに差は設けない、それが嫌ならZOZOTOWNから出て行ってくれと、各ブランドに踏み絵を踏ませているわけです。

ZOZOTOWNとしても、常時割引が嫌で自分達に出品しないで自社サイトでやろうというなら、低価格攻勢でつぶす気満々です。

まだ個々のブランドサイトが復活しきらない今のうちに二択を迫って、一気に戦争状態にもって行き、有名ブランドがZOZO内で割引販売するようにならなければこのサービスは意味が無くて、無名ブランドが常時10%OFFで買えてもそんなにうれしい話ではないので、この会員サービスは大失敗に終わります。

有名ブランドが自社サイト運営だけでの生き残りに不安を抱えている今のうちに彼らを押さえつけて割引販売させて、どんなブランドでも割引で買えるファッション・モールという唯一無二の存在になって、後々定価販売が基本のブランドサイト復活する可能性を潰しておかないと、モール事業としてのZOZOは衰退していく一方とも言えます。

しかし、安売りしか個性がないというのは、強いけど弱い。

ある程度名のあるブランドの撤退は加速するだろうし、中堅ブランドも、完全にZOZO傘下になるかどうかの決断を迫られるわけですが、そこにAmazonが出てきて、決済も倉庫・物流もサーバーもうちのシステム使えば?、歩合で払ってくれれば固定費用は要らないと言ってきているわけです。

やっぱり少しやや劣勢の気がします。

終わりに

IT革命の本筋が中間事業者の排除だとしたら、モール事業は一時的に隆盛を極めるけど徐々に衰退するのかもしれないという予想に基づいて、その中でZOZOTOWNがどういう立場にいるのか考えてみました。

ECサイトの未来という観点で考えると、最強最大のショッピングモールであるアマゾン自身が、とっくのとうにECモールビジネスの限界を見据えて動いているような気がします。

その点、良くも悪くもECモールでしかないのがZOZOTOWNで、ECモール以上になろうとしているものの、ツケ払いや常時10%割引など、低価格路線でしか目立てていないのが現状です。

そして、それを受けて、売上は拡大しているものの、客単価が3,000円台にまで落ち、薄利多売の消耗戦をする場となっているZOZOTOWN。

その一方で、前半に登場したきり出てきませんでしたがウォルマートは真逆の高級モールを作ろうとしています。

個人的に高級モールは生き残り策がありそうに感じますが、低価格路線で突き進むのは、前途多難のような気がしています。

特に、ファッション業界の特殊性に直面するのは本当はここからかもしれません(ユニクロもいつのまにか高くなってるし)。

とは言え、率いているのはあの前澤社長ですし、この会社のこれまでの飛躍のプロセスの裏側にあるのは、才能とかひらめきではなく根性と努力であるのも事実で、このまま衰退するとは思えません。

話題のZOZOTOWN、どう次の一手を打ってくるのかこの先要注目ですね。