正しいフォームを身に着けたいと考える人が読むべき本


今回は、筋トレにおいて、正しいフォームが何よりも大事と考える初心者が読むべき本を紹介します。

お勧めの本というか小説は中島敦の作品です。

中島敦というと、高校の教科書に山月記という名作が載っているもののそれ以外は知らないという人も多いかもしれません。知っていても新潮文庫で入手可能な李陵くらいでしょうか。

もちろん、李陵も名作です。

結局何を言っても言い訳にしかならないという思いと、これは言い訳をしているわけじゃないんだという思いの板挟みの中、何も言うことが出来ずに、声なき声を上げ、涙なしに泣きながら剣の舞を踊る李陵に心を打たれない人はいないでしょう。

もっとも、筋トレ初心者に推薦したいのは、少しマイナーですが、「悟浄出世」と「悟浄歎異」という2作です。

これは、岩波文庫で買わないと入っていない作品だと思います。

中島敦は著作権が切れているので、電子書籍なら全作品無料で読めます。全集を100円で買ってしまうというのも手っ取り早いですが(良い時代になりました)。

Kindle Paperwhite (ニューモデル) Wi-Fi

両作とも作品名からわかるように、西遊記の沙悟浄に関する話なのですが、正確に言うと、沙悟浄の話というより、沙悟浄が沙悟浄目線で語る話で、人生に悩んだり、なんなんだあのか弱い坊主は、なんて乱暴な猿なんだ、あの豚はどこまで快楽をむさぼれば気が済むのだ、どういう理由であの連中が一緒に旅しているのだ、などとニヒルに分析したりする奇妙で面白い話です。

「悟浄出世」というのは、沙悟浄が三蔵法師一行に出会うまでの話で、人生に悩む沙悟浄が、川の底の妖怪タウンで、様々な哲学者や知識人たちを訪ね歩く話です。そして、散々訪ね歩いて教えを受けても、結局わからなくなるばかりで、

スポンサーリンク

5年に近い遍歴の間、(中略)、悟浄は結局自分が少しも賢くなっていないことを見出した。賢くなるどころか、何かしら自分がフワフワした(自分でないような)訳の分からないものになり果てたような気がした。

となります。

そして最後には以下のようにつぶやきます。

「『お互いに解ってるふりをしようぜ。解ってやしないんだってことは、お互い解り切ってるんだから』という約束のもとにみんな生きているらしいぞ。こういう約束が在るのだとすれば、それをいまさら、解らない解らないと言って騒ぎ立てる俺は、なんという気の利かない困りものだろう。まったく。」

そして、例の一行に加わってからの「悟浄歎異」で、悟浄は一緒に旅する孫悟空のことを考えます。

孫悟空という猿の妖怪は、合理主義・実利主義の塊で、無駄なことは一切考えずに、目的を達成するために最短の行動をとるキャラとして描かれています。

非常に粗野で、すぐに怒って仲間を罵倒したり暴力を振るったりする、他人に何の配慮もない乱暴者ですが、敵に出会えばいささかの無駄のない動きで敵を倒し心強いことこの上なく、目の前のことだけに集中して、常に肉体と精神が一つになって瞬間瞬間を全力で生きる実行的な天才とされています。

そして、悟浄は、考えてばかりで行動の伴わない自分は、考える前に行動する悟空から学ぶことがあると考えています。

とある渓谷で一行は野宿します。

夏とはいえひんやり冷える真夜中に、星空を見ながら悟浄は、考えてばかりいて現実に飛び込むということをしない自分を反省するのですが、

「燃え盛る火は、自らの燃えていることを知るまい。自分は燃えているな、などと考えているうちは、まだ本当に燃えていないのだ」

などと考え、結局ニヒルな分析根性が出てきてしまいます。しかし、すぐに、自分に足りないのは行動であり、こんなことばかり考えているからダメなんだとなります。

こんなことではいつまで経っても学べるわけがない。もっと悟空に近づき、いかに彼の荒さが神経にこたえようとも、どんどん叱られ殴られ罵られ、こちらからも罵り返して、身をもってあの猿からすべてを学び取らねばならぬ。遠方から眺めて感嘆しているだけでは何にもならない。

と考えるに至ります。

考えるよりとりあえず行動を。これは筋トレも同じです。もしかしたらどこか痛めてしまうかもしれませんが、それは仕方ありません。

自分が正しいフォームで出来ているか気になって仕方ない、どこに行けば教えてくれるのか、という人には上記の2作を是非一読をお勧めします。

私のブログを読んで、私が正しいフォームを含む正しい筋トレ法なるものを理論的に追及していると思ってしまう方も多いかもしれませんが、実際に私のスタジオに来ても、現実の私は、「いいからやってみてください、最初から全部教えられないし、回数こなすことが解決することの方が多い。」といったことを平然と言います。

体験レッスンなどでは、他のジムと迷っている方も多く、このスタジオのポリシー・特徴は何ですかと聞かれますが、「いいから重いもの持てよ」が私のポリシーですと答えます。また、”答え”を教えてほしい人は、別のところに行った方がよいとも正直に話します。