エビデンスと科学について少し


偉そうに語ってみます。

最近はすっかりエビデンスという言葉もお茶の間に浸透しています。

ネットにはいい加減な情報がたくさんあるから、エビデンスをしっかり確認することが大事。

その通りだと思います。

しかし、自分の頭で考えることも大事だと思います。

もう時効だろうから書いてしまいますが、3年くらい前に、スタジオに無料カウンセリングと称して、道場破りのような方が来ました。

その人は、1時間か2時間か忘れましたが、短時間睡眠法なるものを実践している方でした。

私が、メインブログの方に、トレーニングしたら、たくさん食べて、良く寝て、十分な休養を取ることが大事と書いていることがどうやら気に入らないらしい。

特に、良く寝た方が良いとはどういうことか、と私に直接聞きに来たわけです。

筋肉の成長に十分な休養と栄養が必要であることは理解しているが、良く寝る方が休養できるというエビデンスはあるのか、というのが質問でした。

私としては、少し面食らってしまったのですが、「寝ない方が休養になると仮定して研究してる人がいないからそんなエビデンスはないと思います」とゴニョゴニョ言うのが精いっぱい。

相手「ん?、結論として、エビデンスに基づいてブログに書かれているのですか?」

私「いや、良く寝た方が良いというエビデンスはないです」

相手「ですよね。エビデンスはないわけですよね(ニヤリ)。」

と言った感じで、非常に満足したように、インチキトレーナーの私を哀れみながら帰っていきました。

このように、エビデンスというのは、議論を危険な方向に導きます。

何年か前、林先生が出ている初耳学というテレビ番組で、「最近太ったと聞かれると本当に太る」ことが科学的に立証されたという話をやっていました。

結論としては、ストレスがたまるとコルチゾールというホルモンの分泌量が増えるわけですが、コルチゾールは水に溶けにくいので、その分泌量が増えると体内の水分量が増え、すなわち、体重が増えます。

そして、紹介された論文は、ストレスが増えるとコルチゾールの分泌が増えることを測定したというだけの論文だったわけですが、それだけだとインパクトがないので、論文誌に載せてもらうべく、「最近太ったと聞かれると本当に太る」という論文のタイトルにしたわけです。

「最近太った?」と聞かれたら、ストレスがたまるはずだし、コルチゾールが増えれば水分量が増えるから間違ってないだろと。

まあ、風が吹けばが桶屋が儲かると同じなわけですが、いずれにせよ、これをもって、「最近太ったと聞かれると本当に太る」ことが科学的に立証された、エビデンスがある、と言っていいのかどうかは怪しい話です。

少なくとも「最近太った?」と聞いて体重の推移を発表したものではありません(もちろんそんなもの論文にならない)。

他にも、運動前のストレッチは体に良くないという話もあります。

ストレッチも、筋肉を伸ばす過程で筋肉に少しダメージを与えるから、ストレッチをすると、しない時よりもパフォーマンスが悪くなるというのが論文の内容です。

それをもって、運動前のストレッチは有害であると主張する人も増えてきました。

最新の科学的エビデンスがそう言っていると。

しかし、ブラジリアン柔術や総合格闘技の道場にいって、練習前にストレッチをしている人に、無駄だからやめた方が良いですと言っても誰も聞かないでしょう。

なぜかと言えば、関節を逆方向に曲げ合う競技をやってるわけで、準備運動の過程で、各部位について少しずつ伸ばして、体の感覚を確認せずに、技の練習やスパーリングなどするはずがありません。

そもそも、スポーツ科学の分野というのは、どうしても、体にセンサーつけて筋力などの測定可能なものを測定するという方向に行きがちで、無数の要素が絡み合うアスリートの技・感覚の分析は非常に困難です。

だから、ストレッチについても、寝技系の人以外でも、多くのアスリートは、練習前のストレッチは、体の柔軟性を高めるためというより、自分の体の感覚を整えるためにやってるわけですが、その感覚については研究しづらいというか、個人個人の話で、一般化しづらいですから、研究も無ければエビデンスもないことが多い。

野球選手で、ネクストバッターズサークルでバットに重りをつけて素振りする人がいますが、あれもスポーツ科学的には、重いバットを振ると筋肉が少し疲労するので止めた方が良いとなるわけですが、別にプロ野球選手は、自分の打順を待つ間に筋トレしているわけではなく、下半身で振る感覚を確認したりするために重りをつけるわけですから、重りつけて全力で振っているはずもありません。

なにより、ストレッチにしろ、重りをつけた素振りにしろ、一流アスリートがやっていることに対して、論文片手に科学的にはあまり意味がないと平然と否定するようないう態度が、「科学的」だとはどうしても思えません。

科学というのは、物理も化学も生物も地学も、究極的には全て「分析」であり、「そうである現実」の理由を説明するものです。

したがって、目の前の現実というものには謙虚でなくてはいけないはずが、どうも実験室であれこれやってるうちに、その結果を過大評価して、本来の守備範囲を超えて一般化してしまう人が多い気がします。

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このように、科学というのは、厳密な実験や測定が求められる反面、それが可能なものしか結論は出せないので、ある論文すなわちエビデンスがあったとしても、それが、奇々怪々の現実に当てはまるかどうかは慎重な洞察が求められます。

もちろん、基本的にはエビデンスに基づくべきなのですが、その適用範囲はしっかり考えないと危険という話です、念のため。

そして、コロナの話。

コロナウイルスとの闘いというのはまだ未知の体験すから、エビデンスなんてものは無いわけです。

どこかの国会議員が、エビデンスはあるのかと安倍さんに問いただしていましたが、あるわけがない。

また、エビデンスどころか、統計データだってないです。

もちろん、死者数や感染者数というデータ風のものはありますが、検査を全員にしたわけでもなく、そもそも検査の精度すらわかってないわけですから、科学的な意思決定をするための統計データとは言えません。

テレビでよく見る赤い髪のおばさんが、日本は死亡率が高いとか言っていましたが、検査数が少ない以上分母たる感染者数が少ないわけですから、死亡率が高いのは当たり前で、テレビで散々検査を増やせと言っておきながら、その一方で死亡率が高いとは、ほんとに科学者かなと疑ってしまいます。

そんなこと言ったって、今あるものでやるしかないじゃないかと、的外れな反論をする人がいますが、そんなのは当然の話で、ただ、あるもので間に合わせるというのは、科学でもなんでもありません。

無いものは無い、科学的な思考をするためのデータが無いのであれば、科学的な議論はできないというのが、科学的な態度です。

X^n + Y^n = Z^nを満たす3以上のnはないというフェルマーの最終定理に関して、コンピューターと使って、何兆個何京個の数字を試したところで、どうやらないらしいとは言えても、どれだけの数を試しても、それが証明になることはありません。

で、結局何を言いたいのかと言われると、2つあります。

まずは、マスクの話。

マスクは感染症の予防策として意味がない、そういうエビデンスがもうすでにあると主張する科学者がたくさんいます。

私としては、またエビデンスかよ、という感じです。

現実のコロナの感染者数をみると、マスクするアジアの国家が何とか抑え込みに成功している反面、マスクに意味はないと主張している欧米では感染が爆発しています。

にもかかわらず、マスクには意味がないと主張する専門家が多いこと。

X:日本で感染者が増えないのはなんでだろうか?

Y:みんなマスクしてるからではないか?

X:いや、それはない、マスクが感染防止に意味がないことはエビデンスがある。

このやりとり、おかしいと思わないのだろうか。

未知のものと戦ってるんじゃないのか。

目の前の現実に注意を払わないで、どこが科学者なんだろうか。

エビデンスと目の前の現実を比べて、目の前の現実を不思議がるというのは、どうも違和感があります。

専門家まで、エビデンス病に犯されている気がします。

2つ目に言いたいことは、未知のものと戦っている以上、エビデンスも信頼できる統計もないということ。

だから何かといえば、日々浮かび上がってくる新情報を受けて、過去の意見を変える方が正常。

騒動の発端のころから一貫して同じことを言っている人がいたら、その人こそ怪しい。

だから、推移を見守る国民としても、専門家・政治家・官僚に対して、「あんたそれ、前に言ったことと違うじゃないか」という追及は絶対にしてはいけないと思います。

日々新しい情報が出てくる中で、専門家たちが自由な議論ができる環境を提供することが重要で、意見を変えたことを悪いことであるかのように追及する空気をつくって、専門家や政治家などが、私は間違ってないと、感情的にかたくなな態度を取りだして、前言撤回や方針転換を自由にできなくなるのが一番怖い。

不完全ながらも最新の情報にもとづいて意思決定して、日々更新せざるを得ないわけで、その過程に、余計なバイアスを与えるのは本当に良くないと思います。

以上、まとまりがないですが、わからないものはわからない、エビデンスも使いよう、未知との遭遇では意見が変わることも普通に起こりうる、という話です。

地球は球体ではなく平面だと主張している地球平面協会という団体がアメリカにあります。

テスラ社の社長のイーロン・マスクが面白がって、なんで火星も平面だと主張しないのと聞いたら、火星は丸いからに決まってんだろ、見て分かんないのかよ、と反論しました。

地球が丸いというのは陰謀だと信じていて、自力でロケットを作って飛ばして、地球が平面であることを確認しようと奮闘してる団体です。

そこの会長にあるジャーナリストがインタビューして、こう聞きました。

「本当に地球は平面なんでしょうか?」

すると、会長は下記のように答えました。

「私の意見なんて聞いてはいけないし、他人の意見を信じてもいけない。大事なことは自分の頭で考えることなんだ。」