時機に遅れるとはこのことか。
消費税が10%になって、もう2週間以上経ちます。
なので、完全に遅すぎる記事なのですが、書き忘れていたことを思い出したので書いてみます。
消費税増税に伴い、10月から電車の運賃も値上がりしました。
そこで、増税前の9月までなら定期券も旧価格で購入出来るということもあって、9月中に駆け込みで定期券を買った人や、従業員に買わせる会社も多かったそうです。
この件、消費税に全く詳しくない人からすると、特に深く考えることもなく受け入れられます。
しかし、所得に課税されるのが所得税だとしたら、消費に課税されるのが消費税というわけわからない理屈を多少勉強したことある人には、少し疑問に感じるようです。
9月末までに買ったとしても、10月1日以降の消費にかかる分は、10%の税率を適用しないといけないのだから、定期券代も110%にならないとおかしいだろと。
また、その件に関して解説しているニュースもいくつかあったのですが、分かりにくい。
電車の運賃に関しては特例措置があるから云々、間違っていないのですが、根本のところを解説していないから今一つしっくりこない人も多いかと思いますし、そもそも、「特例措置があるから」というのは、厳密には正しい説明ではないです。
一番正しい説明というのは、「定期券をいくらで売るかは鉄道会社の自由だから」となります。
まあそういっても投げやりにしか感じないと思うので、簡単に解説してみます。
まず、商店からすると、消費税には2つのやり方があって、税抜き方式と税込み方式。
税抜き方式というのは、価格表示で『税抜100円』などと表示する方法で、小売業界ではこの方が一般的で、レジに持って行って、改めて税込みの支払総額を見て、消費税が高くなったなあと感慨にふけることも多くなりました。
しかし、飲食店などでは、最初から税込み価格のみを表示しているところも多いです。
『A定食1000円』とか。
だから何だという話なのですが、実はこの2種類あることが大きくて、消費者からすると、100円のものを購入したのに、店には108円とか110円とか余分に払うのが消費税という感覚なのですが、事業者からすると少し違います。
事業者は、消費税の納税の時には、税込み売上の8/108とか、10/110を払います。
こういうルールになっています。
税抜き方式と税込み方式のどちらを採用していようが、消費税申告の際には、税抜き部分の8%とか10%という計算はせずに、税込み売り上げの8/108とか10/110を計算して納めます。
増税に伴い、従来から税抜き方式で『税抜き1,000円』などと表示していた小売店では、10月1日から税込み価格は1,080円から1,100円に変わりました。
この場合も、申告の際は、税抜き1,000円×8%の80円とか10%の100円と計算するのではなく、1,080円の8/108の800円とか1,100円の10/110の100円とか計算するわけですが、どっちにしても同じなので何の説明もいりません。
しかし、税込み方式で『A定食1,000円』の所の場合、消費税増税というのは、従来は1,000円売り上げに対して、8/108である74円を納付していたのが、10月1日以降は10/110たる90円を納付しなくてはいけないというルールの改定を意味します。
その一方で、税込み価格を泣上げするかどうかはお店の自由になります。
しかし、同じ売り上げに対して消費税の納付額が増える結果、税抜売上が926円から910円に減ることを意味し、実質値下げしような形になりますから、実質的な所得を維持するために、値上げという形で対応することになります。
もっとも、もともと税込み方式の特徴はその簡明さにありますから、消費税増税に伴い、1,000円×100/108×110/100=1,018円なので、1,000円から1,018円に値上げしますなんてやらず、1,050円くらいに値上げして、ご理解くださいなんてやっているところも多いかと思います。
ここで重要なことは、税込み方式の場合、消費税増税に伴い、客から従来よりも多めに受け取らなくてはいけない義務というものは存在しないということです。
これは電車の運賃の場合も同じです。
電車の運賃も、飲食店同様、税込み方式採用の代表例です。
今年の1月1日から3月31日までの3か月の定期券があり、32,400円だったとします。
この場合、3ヶ月とも消費税8%の期間ですから、消費税の納税額は32,400円×8/108で2,400円です。
しかし、これが、9月1日から11月30日までの3か月間だったとしたらどうなるかというのが、この記事のテーマです。
上述したように、税込み方式の場合、価格をいくらで設定するかは会社の自由ですから、9月1日から11月30日までの3か月間の定期券を32,400円で販売することに何の問題もなく、鉄道会社としては、9月分に相当する10,800円部分に関しては8/108の800円、10月分と11月分に相当する21,600円については10/110の1,963円を決算期末後に納付すればいいだけです。
こうするのは鉄道会社の勝手なのですが、それだと鉄道会社としては実質値下げになって消費税納付後の実質売り上げが下がってしまうので、原則通り考えれば、自主的に、10月以降の分は運賃の値上げに伴い定期券も値上げして、上の例であれば、9月分10,800円、10月分11,000円、11月分11,000円の合計で33000円と、鉄道会社の意思で値上げするはずです。
しかし、今回の消費税の増税の場合、特例措置というものがあって、電車の運賃に関しては10月1日以降の利用分でも9月末までに購入したものに関しては、8/108を納付するでいいよとなりました(そうしないと、回数券などは、10月1日以降に利用に関しては利用の都度差額を払わせるという面倒を利用者に求めるか、それとも鉄道会社が実質値下げを甘受するかの二択になってしまう)。
ということから、鉄道会社は上記の例のような増税前と増税後にまたがる定期の場合、増税後相当分に関しても8/108を納付すれば良いという特例的取扱いになったので、増税後部分について値上げをする必要がなくなり、結局、増税前の価格で販売したということです。
まとめると、定期券をいくらで売るかというのは鉄道会社の自由なので、消費税が増税したからといって、値上げする必要は無いのですが、その反面、増税後の期間ににかかる部分については実質値下げとなってしまうところ、特例措置により、実質値下げとならないことかが認められたため、鉄道会社としては、定期券の10月以降部分についてのみ日割り計算で値上げ計算するという難しい計算をせずに、従来の価格のまま定期券を販売できることとなったわけです。
また、同様の利用により、利用者は少ないかもしれませんが、9月中に買った回数券を持っている人も、差額を払うことなく10月以降の使用できるわけです。
原則通りの業務の複雑さを考えると、この特例措置はまあ合理的と言えます。
分かりやすくしたつもりがかえって分かりにくかったかもしれませんが、これが、電車の定期券を9月中に買うとお得だった理由です。
せっかく消費税の話したので、小話を一つ。
先日、青汁王子という人が、脱税で捕まりました。
まあ、有名人なので大きく報道されるのは仕方ないのですが、個人的には執行猶予付き(4年)とは言え、懲役刑(2年)が課せられたのにはびっくりしました。
と思ったら、法人税の脱税だけではなく消費税の脱税も認定されている模様。
法人税というのは、会社にかかる所得税のことですから、分類的には所得税であり、ビジネスで儲かった額(会計では利益といい税法では所得という)の何割かを税金として国や地方に収めなさいという法律です。
そこで、交際費など、どこまで経費に認められるか、無数の論点・テクニックがあり、税務調査で捕まっても、よほど悪質じゃないかぎり、こんなの経費になるわけないでしょとか、あれこれ修正を強制されて、再計算された所得に基づく法人税額と実際に納付した額の差額を利息付きで納付させられるだけで終わります。
ここでポイントは、所得税・法人税というのは、あくまで自分や会社が儲けた分の何割かを納付するという制度。
しかし、消費税は違います。
個々の整理は税抜き方式で考えるのが分かりやすいですが、本来的に商品の価格は100円なのに、お店としては108円とか110円を消費者から受け取ります。
しかし、その余分に預かった8円や10円は、「一時的に預かっているお金」として必ず納付しなくてはいけませんし、預かったお金を自由に運用できるというのもずるいので、もうかっている企業は、消費税というのは毎月納付しなくてはいけません。
あくまで、負担者は消費者であり、その帰属先は国であり、お店は一時的にそれを預かっているだけでしかないので、金額もきっちり計算して納めなくてはいけなくて、さらに、一時的に預かった分を利用して運用することすら許されないわけです。
その結果として、税務署は消費税に関しては無茶苦茶厳しいです。
所得税・法人税の計算で多少無茶やったところで、ある意味自分のもうけを出し渋っただけとも言えるので、大目玉食らうくらいで済みますが、消費税をポケットに入れる行為は、国庫からお金を窃盗したのと同じなので、税務署は許しません。
これが消費税。