湊かなえ『告白』を読んだ感想


面白くて寝ずに読み切ってしまった。

はじめに

先日、浜松町の本屋をふらついていたら、文庫本のところに、令和に語り継ぎたい平成の名作なんてコーナーが出来ていました。

見てみると、聞いたことあるけど読んだことないものがたくさん。

いくつか買ってきて今読んでいるのですが、湊かなえさんの『告白』は確かに面白かったです。

1章だけ読んでいたのですが、昨夜寝る前に2章から読み始めて、そのまま朝4時までかけて読み切ってしまいました。

そんな『告白』の感想文です。

内容

この話、ジャンルはミステリーでいいと思います。

湊かなえさんという今では有名なミステリー作家のデビュー作にして最高傑作と言われる作品で、本屋大賞1位、「週刊文春ミステリーベスト10」1位を受賞した作品です。

ストーリーは、自分が受け持つクラスの生徒二人(AとB)に自分の娘を殺された中学校の女性教師の話です。

復讐劇と言っても良い面はありますが、練りに練った作戦で復讐を果たしていくといったような復讐に重点を置く話ではなく、むしろ、関係者の内面に焦点を当てつつ、先生の復讐を含む事件の一連の展開を描いていく作品です。

全6章で、先生、A,Bの同級生、Aの母親、A、B、再び先生、のモノローグ(独白)からなります。

この構成が見事で、余計な風景描写などなしに、一人称で語られるのでとにかく読みやすいです。

そして、各モノローグにより少しずつ事件の核の部分が明らかになるのですが、各人の内面も明らかになることで事件の背景的な部分も明らかになってきます。

しかし、それでいて、衝撃的な出だしもさることながら、各モノローグごとに事件の細部が明らかになってくるだけではなく、意外な事実が明らかになったり、どんでん返しがあったり、先を読みたくなる工夫満載で、練りに練られています。

ポイント

この作品のポイントは、面白いミステリー作品を作るという作業に徹していることにあります。

感想はとにかく面白いの一言です。

私は文学はさっぱりですが、そんな私でもえらそうに語りたくなるくらい、デビュー作にふさわしく文章は素人っぽいです。

作家さんが書いたって感じはなく、素人がすごい熱量で一気に書いた感じがして、その勢いこそが全てともいえる作品です。

細かい設定を見ていけば、だいぶ非現実的な部分も多々あるのですが、作者自身が、そんなことを気にせず、スピーディーな展開を心がけています。

「相棒」や「踊る大捜査線」をみて、非現実的だと非難することほどナンセンスなこともないですが、それと同じで、大事なことは、ストーリー展開における、速度、意外さ、納得感であり、そこを見事に仕上げています。

この作者、自身が相当のミステリー好きで、とにかく、寝ずに一気読みしたくなるように「面白いミステリー」を書こうとしているのだと思います(そして成功しています)。

凡庸なプロット

凡庸なプロットなんて評論家みたいですが、そうとしか表現しようがないので続けます。

登場人物はみな、ちょっと問題があり、しかも現代的です。

物事を、「理解すること」と「理解した気になること」は全く違います。

しかし、私たちは多くの場合「理解した気になること」で済ませてしまいます。

現代社会は、複雑な世の中を単純化して適当に済ませるだけの、それっぽい言動であふれており、それを鵜呑みにしてオウムのように繰り返す人が後を絶ちません。

それは、答えのない問いを深く考えることが面倒だからというのもありますが、物事の表面をなぞるだけのような「理解したつもり」には、同時代的な共感に包まれる心地よさみたいなものがあるからだと思います。

上辺だけの共通認識的な社会の問題点やその解決策を語ると、何一つ真相を捉えていなくても、同じ時代を生きる一体感によって安心感が得られます。

スポンサーリンク

その点、この作品に登場する人物たちは見事にステレオタイプです。

自己満足的な熱血教師、夢見る毒親、平凡さに悩む中学生、その他大勢、見事に、表面的で現代的でステレオタイプな「問題児」達です。

なんとなくお酒でも飲みながら「いるよねー」と同調できそうな、けど決して実在しない「問題児」達です。

そのおかげで、各モノローグを読んでいると、なるほどこういうやつだったかと妙な納得感があり、現代社会や人間の心の闇を見事に描いているなんて、うっかり語ってしまいそうになります。

社会に対する、表層的であるけど誰もが持っているような問題意識をプロットに利用することで、読者との距離を近く保ち、バーチャルなリアリティというか納得感を見事に演出しています。

事件の詳細も後から遠しで見ればなんの工夫もない「よくある」話なのですが、それだけに作りのうまさが光る作品です。

これぞ作家の腕かと思います。

作り物感

その反面、こういった感想文を書こうとして、登場人物について良く考えると、共感とか批評とかは到底無理で、作り物としか映らないくらいリアリティに欠けます。

そういった意味においては読書感想文の課題図書向きではありません。

人形に感情移入しろと言っても無理な話です。

テレビ番組のリハーサルで、Tシャツ着たスタッフが、首からタレントA、タレントBといった紙をぶら下げて画面映りをチェックしたりしますが、それと同じような、娘を殺された先生役、殺人を平然と犯すように至る中学生役、といったキャラ達が芝居をしているようです。

ひたすらそれっぽく、独白に納得感があるので、グイグイ引き込まれてどんどん進むのですが、立ち止まって考えると、設定や行動に飛躍がありすぎて、まったく現実的ではありません。

しかし、だからこその疾走感と言ってもいいような、作品全体を通す展開力があって、一気に読ませる作品になっています。

最近は妙にリアリティにこだわってつまらない作品も多い中、些末なディティールにこだわらず、読者をひきつけながらどんどん展開していくというミステリーの本質的な部分で真っ向勝負する姿勢があり、ドラゴンボールや北斗の拳を読んでいるような面白さがあります。

おわりに

早朝までに寝ずに読書なんて久しぶりだったので感想文を書いてみました。

本当のところ、超面白い、以外は不要の作品です。

読み返してみると、批判的なようですが、偉そうなことを言いたい私の人格の問題であり、まったく批判的ではなく、ミステリーはこうあってほしいという思いを実現してくれていて、星5です。

この人の作品初めて読みましたが、これからGWもあるので、まとめて読んでみようかな。