ライザップの赤字と負ののれんについて


ストップ安が止まりませんがどうなるでしょうか。


はじめに

先日、ライザップグループが2019年3月期の中間決算を発表し、2018年4月から9月までの6か月間の業績で、△85億の赤字を計上するとともに、通期の業績予想を株主に帰属する純損益ベースで従来の160億の黒字から、△70億の赤字へと230億ほど下方修正しました。

これを受けて、株式市場は大荒れとなっています。

ここら辺の一般的な情報はニュースで報じられているのでそちらを参考にしてほしいのですが、この会社の決算書を読む上で不可欠の「負ののれん」についての解説は、決算分析の中でさらっと触れられているものが多く、突っ込んだ解説をしているものが見当たらなかったので書いてみます。

なお、この記事を書いている私の職業はパーソナルトレーナーであり、経済とか会計に関して、何の知識もないのに知ったような顔でとんちんかんなことを書くことで有名なので、くれぐれも鵜呑みにしないでください。

ライザップグループの概要

ライザップというのは、ご存じ、糖質制限と筋トレでダイエットをコミットするプライベートジム企業です。

結果にコミットするのですが、その分値段が高いことでも有名で、称賛する人も多いですが批判も多く、正に賛否両論の企業です。

したがって、ライザップが大赤字という今回のニュースについても、Yahooニュースの下の方の掲示板を見ると、あのやり方はぼったくりだとか、リバウンドするから客がリピートしないとか、客離れが進んだもしくは飽きられたという意見も多いです。

しかし、こういった意見は、ライザップグループについて何もわかっていないと言っても過言でない意見です。

なぜかというと、このライザップグループ、特徴を一言で言うと、「M&A狂」で、ここ2年で子会社を60社近く増やしており、現在80社以上の連結子会社を有する得体のしれない企業グループとなっています。

もはや本業のダイエットビジネスがどの程度の割合を占めているのかわかりません。

2019年9月末時点で、子会社の中に上場企業は9社もあり、その中には、ジーンズメイト、ぱど(フリーペーパー事業?)、ワンダーコーポレーション(新星堂というCD屋)など、いわゆるライザップからは関係なさそうな会社もたくさんあります。

ライザップというと、ダイエットジムが本業で、最近ゴルフや英会話に進出しているといったイメージですが、実態はイメージと異なり、ここ数年、毎月1社では済まないペースでM&Aを重ねていて、ものすごい勢いで巨大化しています。

しかも、M&Aの方針がよくわからず、M&Aに積極化しだした当初の、「健康事業だけで終わらず、自己実現や自己投資という視点で大きくビジネスを展開していく」というのは理解できたのですが、だんだん、自己実現にどう関係してくるのかよくわからない大型M&Aを繰り返し、謎の巨大企業グループとなっています。

とは言え、決算発表をする度に好業績・高成長を見せていたので、評判は良かったのですが、一部のアナリストたちからは、この会社は危ないという声は数年前から出ていました。

その理由として挙げられたのが「負ののれん」でした(まあ、そんな細かい話しなくても、決算説明資料の出来がかなりひどくて、一見するだけでこの会社大丈夫なのかという気はしますが)。

2017年3月期は営業利益が102億で負ののれん代は59億、2018年3月期は営業利益が136億で、負ののれん償却益が74億計上され、つまり、ここ2年間、営業利益の半分以上が負ののれんの償却益でねん出されていました。

なお、ライザップは国際会計基準を採用しているので、経常利益という概念が無く、すべて営業利益であることにご注意ください。

「負ののれん」とは

「負ののれん」とというのは、赤字の会社を買収したときに発生するマイナスののれんで、一括償却となるので多額の利益が計上されます。

これだけだと会計に強くない人にはさっぱりわからないと思うので、以下詳述します。

資産10億の会社を6億で買いました。

そうすると、連結会計上の仕訳は下記になります。

(借方)
資産10億
(貸方)
現金6億
利益4億

ここで会計上利益が出る理由ですが、会社の買収とは言え、実態としては会社資産の購入で、10億円の資産を6億円で買ったわけですから、4億円得したということで利益になります。

ここで、「いやいやおかしいでしょ、6億円で買ったのであれば、その資産は6億円の価値しかないってことではないか」と思った人、鋭いです。

しかし、買収するときにはデューデリジェンス、いわゆる資産査定業務が入ります(それが無ければそもそも買収交渉が出来ない)。

そして、どこかの監査法人とかコンサルティング会社とかが、この会社の価値は10億だと査定したわけです。

にもかかわらず、6億で買えたから、4億得したね、4億円利益が出たねということです。

通常の仕入業務において、仕入れのカリスマと称される達人が、商品を5,000円で仕入れたときに、これは15,000円で絶対売れる、超お買い得だと言って、仕入れた時点で10,000円の利益を計上するとぶっ飛ばされますが、似たようなことがM&Aの時は許されてしまいます。

理由は、正当な第三者の専門機関等を利用し、買収企業の資産査定をしっかりやるルールになっているからです。

負ののれんの発生する状況

では、なぜ10億円の会社を6億円で買えたのでしょうか。

それは、赤字会社だからです。

その会社を持っていても、赤字が継続でお金は出ていくばかりで、資産はどんどん減少していくので、誰も買い手がいなくて、結局6億円でいいから引き取ってくれないかという話に落ちついたわけです。

とすると、もう一度、そうであるならその会社の価値は6億円ということにしかならないだろと思った人、鋭いです。

ここで、正ののれんで考えると会計基準上の理屈は理解しやすいです。

急成長中のベンチャー企業を買収する場合など、現状をベースに会社の価値が10億円と評価されても、欲しい人がたくさんいるので、俺は12億出す、いやうちは15億出す、とどんどん値上がりしていきます。

この場合に、会社の資産価値の10億と、買収金額の15億の差の5億円は、のれんとして資産に計上されます。

どんどん値上がりして行きプレミアムが付くのが通常のですから、買収金額=買収企業の価値とするわけにはいきません。

あくまで、会社の価値を独立に算定し、差額としてのプレミアム分(正ののれん)の金額を算定しなくてはいけません。

この一般原則がある以上、赤字企業の買収であっても、独立に会社価値を測定し、買収金額との差額を出し、それがのれんであり、正か負かは結果論ということになります。

あくまで、ちゃんと資産査定をすること/できることが前提で、資産は資産で適正に評価され、専門家が査定した金額が10億なら会社の価値は10億なわけです。

そして、実際に6億で買えば、4億得したねという結論になります。

とは言え、資産の反対は負債であり、利益になるとはどういうことという疑問もあるかもしれません。

資産の意味

ここで、どんどん話がややこしくなっていきますが、避けられない話なので、会計上の資産の意味を説明します。

資産というのは最終的に費用になります。

資産というのは、商品とか、工場とか、株式とか、お金を稼ぐ源泉のことですが、いずれ費用になります。

会社というのは法人です。

法人とは、自然人以外で法律上人間として扱われる存在です。

「会社は法人」という制度があるからこそ、実際に契約書に印鑑押すのは社長だとしても、押すのは個人印ではなく会社印であり、あくまで会社名義で契約したり売買したりできます。

登記することで法律上は人として認められ、会社君という人は実在しませんが、会社名義で事務所を借りたり、商品を仕入れたり、従業員を雇います。

当然、会社君が物を買う場合には、会社君の財布からお金を払う必要があります。

つまり、会社を作った場合に最初にすることは会社君の財布を作ることであり、その財布に最初に入れた金額を会社の資本金と言います。

そして、その金で、商品を仕入れたり、事務所を借りたりして、ビジネスを始めてお金を増やしていきます。

この時、最初の財布に10,000円入れたとして、10,000円で商品を仕入れて、12,000円で売ったら、財布には12,000円の現金があることになり、会計上利益は2,000円です。

利益というのは元手を使っていくら増えたかの指標ですから、回収額―投下資本額で計算され、その回収額を売上、その売り上げのための投下資本額を費用と言います。

したがって、12,000円で商品が売れたとしても、その商品の原価が10,000円であれば、利益は売上12,000円―費用10,000円=利益2,000円です。

これは、株式トレーディング業務でも同じで、10,000円で買った株を15,000円で売れば、利益は5,000円です。

計算は、売上15,000円-費用10,000円=利益5,000円です。

さらに、これは工場を作った場合も同じです。

10,000円で工場を作って、20年間工場が動かなくなるまで稼働させ何かを作り、25,000円稼いだとします。

その場合、20年間合計で利益は15,000円です。

20年間の合計ですが、売上25,000円-費用10,000円=利益15,000円です。

(なお、工場の場合、費用は減価償却費という名前で20年間毎年500円ずつ計上されます。)

このように、時間軸をトータルしてみると、

利益=回収額(収益)―投下資本額(これを費用と呼ぶ)

で計算され、まだ回収されていない投下資本額が資産として決算書上には計上されます。

BSの借方に、商品とか、株式とか、工場とかが資産として載っていますが、資本金がそれらに投下され、いずれ現金として回収されるのを待っているという意味です。

そして、どんな資産(投下資本)もいずれは回収され、その時には引き算の右側に費用として登場する運命にあります。

正ののれんの意味

こう考えていくと、正ののれんの意味は簡単です。

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10億円の会社を15億円で買収すると、正ののれんというよくわからない資産が5億円計上されます。

ここで、大事なことは、こののれん5億円も、資産である以上最終的に費用になるということです。

つまり、買収した会社としては、この会社の資産10億円とのれんの5億円の15億円が投下資本として将来費用となることを意味します。

そして、これは、買収した企業が15億円以上の収益(回収額)を生まないと利益は計上されないことを意味し、経営者の責任という意味では、15億円で買収した以上、15億円以上の収益(回収)を計上しない限り利益を計上して、業績アピールすることはできないよ、ということになります。

確かに、資産として「のれん」というものがB/Sに載ると、何だこりゃという気はしますが、金を使った以上は、投下金額以上の収益を上げて初めて利益にすべきという意味では、資産に計上せざるを得なくて、会計上当然の処理ということになります。

さあ、負ののれん。

正と負の違い

10億円の会社を6億円で買収したので4億円利益が計上されます。

これは、正ののれんのように優良企業の取り合いになってプレミアムが載ることは起こりうるけど、逆のパターンは基本的にないだろうという理解に結びつきます。

赤字企業の買収では、取り合いになってプレミアムが付くなんてことはおろか、引き取り手探しが難航し、時価相当額よりやや安めで第三者が引き取るのが通常で、まあ、その差額は交渉上手の結果としての一時的な利益にするしかないだろうと。

正ののれんの逆で、押し付け合いによりどんどん値が下がっていき、時価より大幅に安く売るのは考えにくくて、なぜかというと、そんなことするぐらいなら売らない方がましだからです(一般論として)。

つまり、多額の負ののれんの計上がされる状況は想定されないし、実際にそんなことが起こったら、理屈上は、資産査定が間違っていると考えるのが筋です。

問題は、資産査定が理屈通りいかないことなわけですけどね。

負ののれんの裏側

さて、抽象的な話が続いたので、具体的に見ていきましょう。

10億円の会社を6億円で買収したので4億円利益が計上されます。

この場合、最大のポイントは4億円の利益ではなく、資産が10億円計上されてしまうことです。

つまり、買収した企業にとっては、6億円で会社を買収したのに、その会社が10億円以上の収益をあげないと利益が出ないことになります。

6億円しか投下していないのですが、10億円の資産を計上した以上、将来この10億円の資産は必ずどこかで費用になりますから、10億円以上の収益を計上しない限り、利益は計上されません。

これは、結局4億円の負ののれん代というのが、利益を見込みで計上してしまったのに等しく、要するに、事前に見込み計上してしまった4億円以上の利益を計上して始めて、会計上の利益が発生するということです。

もちろん、4億円を上回る利益を出せずにぐずぐずしていると減損会計の危険もあります。

10億円の資産を計上しても、毎年その資産価値を査定し、この資産を使っても6億円しか稼げないとなれば、資産価値を6億円に減らし、差額の4億円を減損による損失として計上しなくてはなりません。

では、再生をあきらめてその企業を売却した場合はどうなるでしょうか。

10億の資産を6億で買ったことにして4億の利益を出したわけですが、やっぱり再生できずに売却するとなったとき、10億で買ってくれる人が出てくれるわけもなく、売却額はどんなに高くても6億でしょうから、10億の資産を6億で売ることになり、結局売却損が最低でも4億出ます。

結局、4億利益計上した以上、どこかで本当に4億を上回る利益を出さねばならず、それがでいないと利益が計上できないばかりか、いずれ4億円の損失が計上されることになるわけです。

やっとライザップ。

ライザップの場合

ライザップでは2017年3月期に59億、2018年3月期に74億の負ののれんの利益を計上しています。

ということは、買収金額より、それぞれ59億と74億、合計で133億多い資産が計上されていることになります。

これは、企業再生をビジネスとしている企業としてはありえない話です。

通常の場合、企業再生ファンドなど、あの手この手で、自分達の手により赤字会社の経営が建てなおったことをアピールします。

そのためには、自分達が経営に参加したタイミング以降、買収企業が赤字から黒字に転換したことを見せることが重要になってきます。

したがって、その会社の資産額つまり将来の費用額をできる限り買収時点に下げておきたいわけです。

にもかかわらず、ライザップは一時的な利益計上と引き換えに、合計で133億も余分に資産を積み上げてしまいました。

これは、簡単な数字例で上述したように、企業再生が上手くいっても、その会社が133億以上余分に業績回復しない限り1円も利益が計上されないことを意味します。

133億円上乗せしたトータル資産計上額以上の収益が見込めない場合、その差額は減損会計の危機にさらされていることになります。

つまり、買収したタイミングで、133億円の利益を計上したということは、スナップショットで見れば会計マジックと言えないわけもないですが、本当のところ会計にマジックなんて存在せず、どこかで必ずつじつまは合うのであり、133億円の利益を計上した以上、将来133億以上余分に再生しないと買収企業には1円の利益も計上されないことになりますし、それが達成できなければ、133億円分余分に減損されるリスクが存在することになります。

企業を再生してみせると言いつつ、一時的な利益計上と引き換えに、ものすごく再生のハードルを上げていることになります。

そういう意味では、安く買ったんだから、一時的な利益計上なんてやめて、資産評価もそれに合わせて低くしておけば、再生もやりやすかったはずなのに。

とはいえ、よほどのもの好きじゃない限り買収しそうもない企業も買収していて、やはり企業再生は建前で、負ののれんによる利益計上が目的だったのかな。

今期の業績予想の修正

ライザップグループは、今回の中間決算の発表とともに通期決算の予想を修正しました。

当初から230億円下方修正したわけですが、その内訳の中に、新規M&Aの凍結による103億円の下方修正というものがあります。

「M&Aをしないことによる損失」なんて聞いたことがありませんが、おそらく、今期も負ののれんの計上で103億円ほど利益を計上する見込みだったんだろうと思います。

そもそも、2019年3月期の業績予想では、2018年3月期より100億円増益する予定だったわけですが、その裏付けが、新規M&Aしかも赤字企業の買収による負ののれん代だったのかと思うとびっくりですね。

ただ、よく考えればそれもそのはずで、買収した時点で133億円も利益を先出してしまうと、企業再生に成功しても事実上利益は計上されませんから、増益なんてするわけがないともいえます。

監査法人の責任

これだけ決算内容が荒れているのに、まだ監査法人の話が登場しませんね。

今回の中間決算では、新規のM&Aの凍結を表明するとともに、過去のM&Aの見直しを表明し、構造改革費用として70億くらい損失に計上しているようです。

これは、上述した減損リスクが現実のものとなったとも言えます。

しかし、買収してから早すぎないか。

10億円の会社を6億円で買収したという場合。

買収したとき
(借方)
資産10億円
(貸方)
現金6億円
利益4億円

こういう処理しておいて

6か月後
(借方)
減損損失4億円
(貸方)
資産4億円

ってやるの、監査法人としては、買収時の処理をよく見てませんでしたって認めるのと同じだと思うんだけどなあ。

会社が、ポジティブシンキングから慎重姿勢に転換しますと宣言して、前期利益計上してその分資産計上したけど、やっぱり一部減損しますって言って、監査法人はどう判断したんだろうか。

ハイいいですよって言ったのかな。

ここまで期間が近いと、前期決算修正マターになりうるような気もするけど(違ったらごめんなさい)。

まあ、いずれにせよ、監査法人が減損モードに入って、「保守的会計処理」お化けになるとおそろしいとだけ言っておく。

「前期までは何にも問題になってなかったのに、今期末になってから急に減損してくださいと監査法人の先生が言い出して、そんなこと急に言われても・・・」なんてドキュメント記事、さすがに見飽きたな。

いずれにせよ、前期と前々期で負ののれん関連で133億利益計上して、今回の中間決算で70億減損、残りの63憶はどうなるか。

V字回復狙うなら一気に損出しした方がいいと思うけど、監査法人としても、減損認めるイコール自分達の監査がザルだったと宣言するようなもんだからな。

とは言え、放置するわけにはいかない気も。

これだけ世間の目が厳しくなったのに、減損しないわけにもいかないだろうに。

でもズルズルやると、ずっと会社の足を引っ張ることになるな。

どうなることやら。

おわりに

最近話題になっていたので負ののれんについて書いてみました。

自分なりにわかりやすい記事目指しましたが、分かりにくかったら許してください。

しかも、ライザップはIFRS採用なのに、日本流のかなり伝統的な説明手法を取りました(実現利益中心ハイブリッド型)。

かえってミスリーディングだったらすみません。

まあでも、バリバリののれん償却派としては、のれんは償却不要で減損対象といういかれた会計処理は説明したくないし。

(なお、私はバリバリの持分プーリング法存続支持派で、あれの消滅は世界の会計史上に残る汚点だと思っています。)

それにしてもライザップの今後は要注目ですね。

どうなることやら。