国際的な租税回避スキームとして典型的なのはスターバックスかなと思います。
はじめに
前回の記事で、タックスヘイブンにペーパーカンパニーを作ったとしても、そこに資金を移動するだけでは、脱税ならともかく、租税回避にはならないという話をしました。
つまり、租税回避をするためには、ペーパーカンパニーに資金ではなく利益(=所得)を移転する必要があります。
あくまで、タックスヘイヴンに利益が計上される理由がなくてはなりません。
そこで登場するやり方に大きく二つあるのですが、実際に業務の一部を移転する方法と、無形固定資産の管理を移転する方法です。
この二つをやっているグローバル企業で、しかも非常にわかりやすいのがスターバックスです。
業務移転
まず、業務移転に関しては、コーヒー豆の仕入統括会社がスイスにあります。
スイスは、コーヒー豆のようなコモディティ商品(大豆とか小麦とか)の売上所得にかかる税率は5%ですから、コーヒー豆に関してはタックスヘイヴンです。
具体的には、スターバックスグループでは、スイスにコーヒー豆仕入会社を作り、そこがまとめてコーヒー豆を仕入れて、その会社経由で世界中の店舗というか、各国の地域会社に20%増しの価格で卸しています。
100円の豆から300円のコーヒーが出来るとします。面倒なので、店舗家賃とか人件費は無視します。
すると、200円の利益がでて、これが日本なら200円×30%=60円の法人税が日本でかかるのが本来です。
しかし、実際はスイスの会社が100円で仕入れて日本のスターバックスには120円で売りますから、日本で計上される利益は180円で、180円×30%=54円の法人税が日本ではかかります。
その一方でスイスに20円の利益が付きますから、スイスで法人税を払わなくてはいけないのですが、税率は5%なので、法人税は20円×5%=1円です。
つまり、ビジネスから生じる利益の一部を税金の安い国に付け替えて、トータルで5円節税しました。
ここで、じゃあコーヒー豆を3倍の値段で売ればよいじゃないかと思うかもしれませんが、そうすると、本来は日本で払われるべき法人税を節税のためだけに(不当に)スイスに付け替えたことになり、日本政府も黙ってはいません。
しかし、実際にスイスに会社があって、そこで活動している以上、仕入れたものを20%増しで売ることは特段問題ある行為ではありません。ふつうの小売業と同じです(このギリギリのラインを考えるがいわゆる国際税務コンサルタント)。さらに、日本の税務当局が、それ以下の値段で売って日本で払う税金を増やせと言っても、今度はスイス政府が黙っていませんから(スイスにとっては重要な税源です)、どうしようもありません。
タックスヘイヴンの難しさはこの点にあり、国際会議で話し合っても解決しないのも当然です。スイスのように、資源も産業もない国は、こうでもして少しでも自国に落ちる税金を増やす必要があるからです。
しかも、スイスだと、金融業が発達していたり、政治が安定していたり、3か国語くらいペラペラの人が当たり前にいたり、グローバル企業にとって一定の国際的業務の拠点を置く理由には事欠かず、「スイスでビジネスする理由があるんです!」という理論武装には完璧だったりします。
その結果、各国政府及び税務当局としては、明らかに租税回避スキームだとわかっていながら、よほど極端でない限り手が出せないという状況になります。
無形固定資産移転
これは今流行りで、しかもかなり問題になっているやり方。最後の参考文献に税制調査会の資料へのリンクを貼っておきます。
上の方法も実際はペーパーカンパニーに近いものの、実体っぽいものが少しはあります。しかし、この方法は完全にペーパーカンパニーに近く、実体なんてありません。しかし、権利・ライセンスだけがある。
スターバックスで言うと、スターバックスブランドの商標権をオランダの会社に移転しています。
その結果何が起こるかというと、各国のスターバックスは、あくまでオランダの会社からブランド(ロゴとか)の使用許諾を受けて活動していることにして、両社で契約を結んで売上の6%を商標権使用料としてオランダの会社に払うことにしているようです。
先ほどの例で言うと、スイスの会社から120円で豆を仕入れて300円でコーヒーを売るから、本来豆の原価は100円で日本の利益は200円だったのが、スイスの会社を経由したせいで180円になりましたが、そこからさらに、売上300円の6%の18円を商標権使用料の名の下に経費としてオランダに払うことになります。結局日本で30%の法人税を払う対象は162円になるわけです。
そして、オランダでの税率は参考文献によると16%らしいから、やっぱり節税できます。
100円の豆から300円のコーヒーを作っている限りグループ全体の利益は200円のまま変わらないものの、スイスと同様、税金の安いオランダに商標権使用料の名の下に世界中から利益を吸い上げて、グループ全体の税金を減らしているわけです。
これまた、商標権管理にかんしては、オランダに移転する理由をオランダ政府がきっちり作ったりしていて(知的財産権保護法制がやたら権利者に有利等)、「節税目的じゃない、どう考えても商標権はオランダで管理した方が有利でしょ!」といった理論武装も完璧だったりするのかなと個人的には勘ぐっています(これはただの予想)。
まとめ
以上のような方法で、専門的にはCash Boxというのですが、税金の安い国に何とか利益が集まる会社を作って、しかも、それが合法になるようにしっかりと理論武装しています。このスターバックスのやり方は非常にわかりやすく、しかも、ちょっと節税しただけのかなり優等生的なスキームです。
しかし、スターバックスは、イギリスでこれが結構なニュースになってしまい、大規模な不買運動に発展して、イギリス法人が、本来納めるべき(法律上は納めなくてもよい)法人税を自主的に(なんの法的義務もないのに)納付する事態になりました。
この問題の難しさの一つとして、資源や産業がない国(一部は先進国)が積極的にタックスヘイヴンになっている点があります。自国の税率を自分で決めて何が悪いのかという主権の問題がありますから、国際会議なんて言ったところで、非常に難しい問題があります。しかも先進国の場合、本当は自国に税金落としてほしいだけなのですが、企業に有利な仕組みをきっちりと用意していて、税金は別にしてその国でビジネスする理由を理論武装できるようになっています。
また、欧米諸国では、合法の枠内で少しでも税金を減らして株主に配当するのは経営者の当然の義務であると考えられており、「きっちり自分の国に税金を払べき」なんていう経営者はすぐに首にされて終わりです。そして、租税回避スキームを駆使して、利益を増やして、多額の報酬で優秀な人材を雇って、膨大な研究開発費を払い、競争力あげて他国のライバル企業をやっつけて、一層利益を上げて、その一部が献金として政治家の手に回るわけですから、解決なんて程遠いわけです。
制御しようにもできない状況になっているわけです。
参考文献
第24回 税制調査会(2015年10月23日)資料一覧
資料のうちの概要はさすが官僚、良くまとまっています。