人は石垣、人は城


これは武田信玄の言葉です。

正確には「人は城、人は石垣、人は堀・・・云々」と続くらしいのですが、そもそも武田信玄が本当に言ったかどうかが怪しいらしく、”正確には”なんて話自体が無意味っぽいので、語呂を優先して「人は石垣、人は城」とします。

経営コンサルタントなる人たちは戦国武将の名言なんてものを引用するのが大好きで、この言葉についても、google先生に尋ねると、登場してくる解説はそういう人たちによるものが多いです。

しかし、いまいちな解説も多い。

まず、この言葉を解釈する上で重要なのは、武田信玄は立派なお館に住んではいたものの、生涯、城を作らなかったという事実です。

そして、この事実が上記の名言の解釈にも影響を与えるのですが・・・。

まずはちょいちょい見かけるトンでも解説。

「武田信玄は、大事なのは城ではなく、人であると知っていた(ここまではよい)。城はなくとも、現実に相手と戦う人こそが城や石垣になると考えていた。そして、実際に自分の館の周りに家臣の館を配置していた云々」という「人間の盾」的解釈。「人は石垣、人は城」を文字通り、人が物理的な城や石垣になってくれると解釈する。

そんな馬鹿な。

そこから広げて、正当な人材評価の重要性や、部下との信頼関係構築の重要性を説いても、そんな解釈するリーダーに誰が付いていくかよと思います。

次によくあるのが、「人こそが重要」説。

「どんなに強固な城があっても、実際に城を使って戦うのは人であり、城よりも人材育成や組織力向上の方が重要である」という解説。

これはわからないでもない。ただ、屁理屈つけると、この解説では武田信玄が城を作らなかった理由は説明できない。

この解説は言い換えると、「城だけでは十分ではない、優れた人材・組織が必要となる」ということになる。

しかし、そうであるならば、城も必要だが人材育成の方がもっと重要だよというだけで、城を作らなかった理由にはならない。

さて、私の解釈です。

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それは、「ハードパワーよりソフトパワーだ」と言っているのだと思います。急にカタカナでぼかしてすいませんが、他にうまい表現が見当たらないのです。

情報ネットワークが作り出すソフトパワーの前では、物理的なモノなど何の役にもたたないという過激な意見だと思います。

人だって、機能的には、情報処理装置でしかなく、呼吸したり心臓が動いてるだけで究極的にはモノですが、10年後の人工知能は別として、過去の情報が固定化されたモノと違って、想定外の事態に想像力を駆使して臨機応変に対応するのは人しかありません。

確か2004年だっと思いますが、IBMが製品部門を中国のレノボに事業譲渡しました。その理由は、ビジネスソリューションの提供というコア事業に専念するためです。

当時、私はこのニュースを消化できていませんでした。もっと言うと、ITソリューションという言葉の意味するところ、また、それが作り出すパワーをわかっていなくて、製品部門を売却すると何が残るんだろうかなどと考えていました。

しかし、今となってみれば、ハードなんてどうでもよいとまではいきませんが、どこの企業も似たり寄ったりのモノを持っていて、ただ、それを使ってビジネスのカタチを改善して、どこまで人の能力を発揮できる状態にしているかで大きな差が出ています。どんどんモノの重要性は下がっています。

そんな未来を読むだけでなく、製品部門を売却するほどに確信していたIBMという会社は本当にすごいと思います。この決断のおかげで、中国メーカーや韓国メーカーとのし烈な争いなんてものとは無縁で、まさにIBMしかできないソリューションビジネスで突っ走っています。

山梨県で商売をしている知り合いが、武田信玄は本当に先見の明がなかったという話を酒の席でしていました。その理由は城を作らなかったことにあるらしく、立派な城さえ残してくれていれば、今頃他県のようにたくさん観光客が来ていたはずで、山梨県はもっと潤っていたということでした。

冗談はさておき、私に言わせれば、武田信玄は「人は石垣、人は城」といって、人の重要性を説くだけでなく、実際に城を作らなかったわけですから、ものすごく先見の明があった人だと思います。