最近流行りのサブスクリプションモデルについて


今年の流行語はサブスクリプションモデルでしょうか。


はじめに

先日のアップルの製品発表会は、新製品の発表というより、新サービスの発表という感じで、アップルが製造業からサービス業へと本格的に舵を切ったと言えます。

ただ、この方向は大方の予想通りとも言え、数年前から、スマホ需要の頭打ちに伴うiPhoneの苦戦は報じられており、何より多くのアナリストたちが、アップルはサービス業への転換を図るべきだと指摘していました。

その背景にあるのが、「これからはサブスクリプションの時代」というビジネス界隈での流行です。

サブスクリプションというのは直訳すれば「定期購読サービス」ということになりますが、本質は課金モデルではありません。

確かに継続課金にすることで、将来の売り上げが読めるようになる、キャッシュフローが安定するという財務上のメリットもあるのですが、ビジネス本位の目線からは、継続的に課金しながら、それに見合う(顧客が満足する)サービスを提供し続けることにポイントがあります。

顧客との関係を、製品を売って終わりという点の関係から、継続的な線の関係にすることで、収益を増やすのがポイントです。

アップルの文脈で言えば、アップルは、製品を開発してそれをどうやって売るのかに注力するビジネスモデルから、すでにロイヤリティの高い顧客が高いたくさんいるのだから、一人一人の顧客からのマネタイズを最大化するビジネスモデルに転換するべき、と数年前から言われていました。

もうiPhoneの個別的な販売をやめて、毎月1万円くらいのApple Primeを始めて、動画や音楽は見放題に加えて、毎年最新端末に交換、さらに、データ通信・通話料も全部込みにすればいいなんて、私も思います。

このように、サブスクリプションモデルというのは、切り口次第でいろいろな理解ができます。

ということで、サブスクリプションモデルの解説書としては一番有名な下記の本を読んでみました。

そうしたら結構面白かったので、書いてある事例をいろいろ紹介しながらサブスクリプションモデルについて書いてみます。

アドビの転換

サブスクリプションモデルの話をすると必ずアドビが出てきます。

アドビというのは、フォトショップやイラストレーターのアドビです。

アドビは2011年から、従来のようにフォトショップやイラストレーターのパッケージ版を売るのをやめました。

その代わり、クラウドサービスに移行して、毎月課金でそれらのソフトウェアの最新版を提供することにしました。

プロ向けには数十万のパッケージを売っていたのが、翌年の売り上げは最大でも5万くらいにしかならないので、この方針転換は発表当時、アナリストや投資家からは大不評で株価は大暴落するわけですが、それを乗り越えて今の大成功があります。

ソフトウェアのCDを売るのをやめて、月額課金モデルに変えて何が変わったのか。

製品の改良や開発は変わりません。

しかし、売り場でどこに置くのかのウォルマートとの交渉、年末商戦に向けてのキャンペーン、市場調査やライバル調査などに代表される、開発した商品をどう売るかという努力が会社から消え、会社のすべてのリソースが今いる顧客への価値の提供に向けられるようになったと言われています。

つまり、従来型の開発販売ビジネスモデルから月額課金型のサブスクリプションモデルへの変更の本質は、会社のリソースを全て、今いる顧客へのソリューション提供に向けることにあると言われています。

顧客目線での経営なんて言うのは昔から言われているわけですが、サブスクリプションモデルに変えて初めて、会社のリソースのすべてを顧客のための活動に投入することができるようになったというストーリーです。

フェンダーの話

この本を読んで知った面白い話の1つにフェンダー社の話があります。

フェンダー社とは、エレキギターのフェンダー社です。

近年ギターの売り上げは落ちていたらしく、あれこれマーケティング施策をやってみたものの、なかなかうまくいかなかったそうです。

そんな中、フェンダー社は、ギター習得における挫折率の高さに気づきます。

ギターは大人になって始める人が多く、約9割がまともに曲が弾けるようになる前に挫折してしまうそうです(私もその一人)。

しかし、その反面、ある程度上達すると、その人のギターとの付き合いは一生続くそうです。

そこで、フェンダーは、ギターの売り込みではなく、購入者の挫折を防ぐことにビジネスリソースを注ぎます。

定額課金のオンラインギター教室をはじめ、スマホ用チューニングアプリをリリースしたり、ギター練習者同士がつながれる仕組みも整えました。

その結果、ギターの挫折率が大きく減り、結果として、売り上げが伸びたそうです。

ギターを買うのは、ギターを弾きたいからですが、買った瞬間に弾けるようになるわけではないのですから、ギターの製造に主軸を置くのではなく、ユーザーがギターを弾けるようになる過程に注目してビジネスを組み立てることが成功につながったわけです。

このように、サブスクリプションモデルといっても、ただ月額課金のサービスを導入すればいいわけではなく、ユーザーに継続的にかかわり、一人一人の顧客のユーザー体験の向上に注力することが本質であるとされます。

そう考えてみると、決して新しい考えではないです。

アマゾンVSウォルマート

最近アマゾンは、リアル店舗への進出を急いでいます。

その反面、リアル店舗の雄であるウォルマートはEC事業へのすさまじい投資を続けています。

これはなぜでしょうか。

顧客とのつながりという点から考えるとよくわかります。

ユニクロが、昨年自分達は情報製造小売業になると宣言したように、これだけ情報化が進むと、製品に関する情報が最初に顧客の眼に入るのはオンライン上ですから、そこで目に入らなければ競争になりません。

まずはオンライン上での情報戦を制する必要があります。

しかし、どれだけIT化が進もうと、私たちがTVゲームの主人公のようにオンライン上で生活する日は来るはずはなく、リアルでの生活は続きます。

アメリカでは、どれだけアマゾンが伸びたと言っても、未だ小売り業のEC比率は15%にも行っておらず、全体の85%はリアル店舗で起きています。

したがって、リアル店舗での付加価値の高いユーザー体験を制する企業が小売りを制すると言われています。

入口のデジタル体験で集客し、それをリアル店舗に誘導して、顧客の実生活の質の向上に貢献する企業こそが生き残るわけです。

一時期、リアル店舗の店頭で実物をチェックして、アマゾンや楽天で買う人が増えたことを受けて、自分達はEC企業の見本市じゃないと、文句を言ったり、そういう客を冷たくあしらったりした企業があり、もうリアル店舗は終わりなどという論調がありました。

しかし、その客はわざわざリアルな体験をしに来店しくれたわけで、その行動は当のアマゾンにとっては喉から手が出るほど欲しい情報であり、そこで質の高い体験を提供する企業が出てきたら自分達は勝てないことをちゃんと認識していて、ただ製品を並べてるだけとは異なる、次世代型のリアル店舗の計画を立てていたわけです。

このように、アマゾンはコンビニ進出したり高級スーパーを買収したりしてリアル店舗の進出を狙いつつ、ウォルマートはEC市場が成熟したのを受けて、Allposters買収などにより、質の高いオンラインモールを作ろうとしています。

オンラインかオフラインかではなく、どちらが自分達の会員に付加価値の高いユーザー体験を提供できるかこそが勝負です。

アマゾンVSウォルマートはこれからなわけです。

Allpostersが日本から撤退:ウォルマートの戦略

Netflix対ディズニー

Netflixとウォルト・ディズニーの対決も目が離せません。

Netflixは動画配信の雄として、アドビの次くらいにサブスクリプションモデルの成功例として挙げられます。

しかし、油断することなく、オリジナルコンテンツ拡充にすさまじい投資をしています。

先日も料金を少し値上げしましたが、年間1.4兆円くらいコンテンツ拡充に使うらしいです(NHKの予算が年間7000億くらいらしい)。

ネットフリックス、番組予算を「年間1.4兆円」に拡大

なぜ、こんなにもオリジナルコンテンツの拡充に突っ走るのかと言えば、裏にはディズニーなどのコンテンツ配給会社の動きがあります。

ディズニーは、スターウォーズを持つルーカスフィルムやアベンジャーズシリーズのマーベルを傘下に擁していますが、先日、自前の動画配信サービスをついに始めました。

いずれ、Netflixからも引き上げるのも確実ですが、そう考えていくと、Netflixというのは典型的な中間業者でコンテンツの権利者が自前で配信などを始めたら、滅びる運命にあります。

そうした観点から、Netflix絶賛のビジネス評論家に対しては、結局コンテンツが全てと冷や水を浴びせる見解もあります。

しかし、当のディズニー自身は、滅茶苦茶焦っているようです。

最終的にコンテンツを持っている自分達が勝つとは思っていないようです。

なぜか。

ディズニーにはファンがたくさんいますが、ディズニー社には、ファンとの接点はディズニーランドくらいしかないからです。

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グッズを売っているのはアマゾンやウォルマートであり、作品はAmazonやNetflix経由で配信されています。

顧客がどんな作品が好きか、しかも一人一人のニーズや動向といったビッグデータを持っているのはAmazonやNetflixなのです。

Netflixには質の高いオリジナルコンテンツが多いと言われますが、あれば顧客の行動分析の賜物で、クリエイターに自由に作らせているのではなく、既存の会員が見たいであろう作品をビッグデータに基づいて作っています。

Netflixは顧客が最後まで見たのかだけでなく、何分で見るのをやめたかも把握して分析しています。

こう考えると、ディズニーには、ヒット商品を生み出す天才集団がいるのでしょうが、決して油断できる状況ではありません。

動画配信というサブスクリプションモデルにおいて、コンテンツを持っている者が勝つのか、顧客データを掴んでいる者が勝つのか、その対決も始まったばかりです。

ウーバーと自動車産業

サブスクリプションモデルの本質を月額課金ではなく、製品本位のビジネスモデルから顧客本位のビジネスモデルへの転換ととらえると、ウーバーの話は避けて通れません。

サブスクリプションモデルやシェアリングモデルの流行に伴い浮かび上がってきたのは、人が欲しているのは車ではなく移動手段であるという点です。

ウーバーというとタクシー業界の破壊者であるかのような捉え方をされていますが、少し違います。

彼らが、全面的に定額課金モデルに移行する日はいつになるかはわかりませんが、彼らはタクシー2.0で終わる気はなく、究極の移動手段提供会社を目指していると言われています。

具体的には、車を、車輪のついたスマホのようなとらえ方をしています。

彼らの将来像は、何らかの形で移動が必要になると、自動運転車がすっと自分の元にやってきて、乗り込むと、好きなスポーツチームの中継が流れたり、Netflixのドラマの続きが見られたり、病院につながったり、仕事もできる環境の提供を目指しています。

移動という行為に伴う制限をなくすのが目的で、自動車は、そういったトータルソリューションに必要なツールの1つでしかないわけです。

しかし、唯一の誤算がありました。

これは、シリコンバレー全体にとっての誤算でした。

それは、GoogleもAppleも多額の投資をしたのにも関わらず自動車が作れなかったことです(Appleはまだわからないけど)。

パソコンの雄であるIBMはマイクロソフトのウィンドウズ登場とともに、ウィンドウズを動かす機械の提供者の1人となり下がり、大打撃を受け、その二の舞な決して踏まないと、2004年に一般ハード部門から撤退し、高度技術やソリューションビジネスに特化しました。

同じ勢いで、ソフトこそが価値の本質であり、ハード部分はすぐに標準化できると、シリコンバレーで総力を挙げて自動運転車の開発に取り組んだのですが、出た結論は、自動車を作るのは無理というものでした。

すさまじい技術の結晶である自動車はパソコンのようにはいかなかったわけです。

したがって、安価で標準化された自動運転車をそろえるとともに、ソフトウェアの部分で優位に立ち、究極の移動手段提供企業になるという夢はとん挫しました。

その反面、既存の自動車業界は、交通と輸送のソリューション企業としての新たな位置づけを模索中です。

強固な財政基盤に基づいて、すさまじい勢いでソフトウェア部分に投資をしています。

街どころか国中に存在する大量の自動車群でどのようなネットワークを作り、どのような大規模ソリューションを提供するのか、今後の動向が楽しみな状況となっています。

ホンダやトヨタが車いすみたいな一人用の乗り物を開発しているのもその流れであり、自動車シェアリング企業や、自動車に代わるモビリティ手段を開発しているベンチャーの後塵を拝する気はさらさらなく、自分達にしか作れない自動車を中心にして、朝起きてから夜寝るまでに存在するすべての移動手段をトータルで提供するソリューション企業になろうとしています。

だいぶ先でしょうけど、毎月定額で、移動手段が全部カバーされる日も来るかもしれません。

GEのデジタルツイン

シリコンバレーの連中が自動車作成に挫折したころ、別のところで、製造業の執念を見せた企業があります。

それはGE、ジェネラル・エレクトリックという、飛行機のエンジンなどを作っている会社です。

この会社が開発したのデジタルツインという技術。

何かといえば、今ニューヨークに向かっているボーイングのジェット機があるとします。

GEは、その飛行機に搭載されているエンジンの状況をパソコンに再現できます。

ジェットエンジンについた無数のセンサーが、回転数や出力、それどころか構成するパーツの消耗度など、特定のエンジンを完全にデジタル上に再現できるとされています。

デジタル上の双子という意味で、デジタルツインと言います。

今や風力発電装置や医療機器など60万台以上の製品にデジタルツインが搭載されているようです。

そうすると何がおきるのか。

例えば、医療機器など、これまでは病院に売ったら使い方を説明し、壊れたらサービスマンが駆けつけるなんてやっていたのですが、今後は、GEの本社で、利用状況や整備状況などをリアルタイムでモニタリングできるわけです。

壊れる前に整備可能ですし、なにより、製品のテストではわからなった、現実の使い方に応じた消耗状況や摩耗状況が把握できて、フィードバックできるわけです。

したがって、病院相手に機器を売るというよりは、一括でサービスを受注して、病院が望んでいるサービスを実現するとともに、使われた分だけ請求するというビジネスが可能になるわけです。

実際にGEはすでに、ジェットエンジンに関して航続距離に応じた課金モデルを始めています。

これも、毎月定額課金ではないですが、サブスクリプションモデルです。

まさに、サービスの時代というか、ソリューションの時代というか、クラウドの時代というか、サブスクリプションなんて新しいことのようで、実は従来から言われてきたことと大して変わらないわけですが、技術革新により、本格的に目指していることができるようになってきたわけです。

なお、AppleがApple watchにこだわり、熱心に心電図などの医療機能を付けているのは、何十年先かはわかりませんが、人間自体のデジタルツインを作れるようになった企業が、次世代医療ビジネスの覇者になるからです。

おわりに

以上、『サブスクリプション』に登場する様々な事例を紹介しながら、私自身の見解も多少付け加えながら、最近流行りのサブスクリプションモデルを見てきました。

こうして見てみるとよくわかるように、典型的な流行語という感じで、その本質に迫れば迫るほど、新しい概念ではありません。

顧客目線でビジネスを提供しようというだけです。

ただ、技術革新で顧客目線のビジネスがもう一段階進みつつあるということでしょうか。

そいう意味では、これからはサブスクリプションの時代である!、なんて声高に叫ぶのは少し恥ずかしい話です。

しかも、よくよく考えてみると、ジャニーズ事務所なんて何十年も前から、非常に洗練されたサブスクリプションモデルやっています。

さらに言うと、お茶、生け花、武道、やったことある人は分かると思いますが、日本の伝統芸能なんて見事なサブスクリプションモデルです。

ちょっとした満足感と引き換えに、これでもかっていうくらい、門下生をマネタイズしていきます。

武道なんてほんとは、黒帯と白帯しかなく、一定以上にならない限り白帯だったのですが、とある流派が色帯という制度を設け、9級とか8級とか、こまめに目標と達成を設定するとともに、青帯や黄色帯など、道場のみんなに分かる形でレべルわけし、その反面、毎月のように昇給審査やって、審査料を取っていきます。

まさにサブスクリプションモデルです。

黒帯になるまでは初心者と同じ白帯なんていうのは、まったく顧客目線ではありません。

そんな、新しいようで我々にはなじみのあるサブスクリプションモデル。

知識を整理するにはもってこいの良い本なのでぜひどうぞ。

なお、触れませんでしたが顧客データの利用を説明する箇所で、著者が自分が一番最初にアマゾンで買った商品を振り返る箇所があります。

この著者は、「7つの習慣」だったそうです(意識高いなあ)。

へえーと思って、私もアマゾンの購買履歴から、一番最初に買った商品を見てみました。

私のアマゾンでの最初の買い物は2006年5月。

買ったものは・・・

こんなものを買うために会員になったのか・・・