QRコードの規格統一のインパクト


JPQRなる統一QRコードにするようです。


目次

はじめに

最近、政府主導のキャッシュレス決済推進が話題ですが、その一方でQRコード決済の乱立による混乱というニュースもよく見ます。

そんな中、3月末に、経産省主導のキャッシュレス推進協議会が、QRコードの統一規格であるJPQRの詳細とガイドラインを発表しました。

QRコード決済のブランド乱立が消費者にとっては良いこととは言えませんが、だからといってQRコード規格の統一が良いことばかりとも限らないので、そのインパクトを考えてみます。

よこペイ、よかペイ、ゆうちょペイ

QRコードの統一で何が起きるか、まずは、具体的に考えてみます。

もうすぐリリースされる新QRコード決済サービスにゆうちょペイというものがあります。

これは、ゆうちょ銀行が始めるもので、スマホで店頭のQRコードを読み取ることによりキャッシュレス決済ができるわけですが、代金はゆうちょ銀行の口座から即時に引き落とされます。

要するに、デビットカードがスマホのQRコード決済アプリに変わるようなサービスです。

ゆうちょペイとほぼ同じサービスで、横浜銀行がやっているのがよこペイ、福岡銀行がやっているのがよかペイです。

他の銀行ペイも続々と登場しそうです。

さて、ゆうちょ銀行のユーザーは多いので、私も早速、自分用のQRコードを設置して、自分のスタジオでゆうちょペイを使えるようにしたとします。

この時に、QRコードの規格が統一していれば、同じコードで、よかペイやよこペイを使いたいお客さんが来ても使えるようになるということになります。

また、他の銀行が似たようなサービスを新たに始めても、店舗側が追加で何かする必要がなく、同じQRコードで決済ができるようになります。

これが、一番わかりやすいインパクトです。

QRコード決済のクレジットカード化という表現が近いかもしれませんが、理解しにくいかもしれないので、そこをもう少し深堀りしてみます。

クレジットカードの乱立

最近は、なんちゃらペイが次々と登場してわけわからない、あれこれ使い分ける必要があるならかえって不便、という声を聴きます。

では、クレジットカードはどうか。

よくよく考えてみると、クレジットカードも無数にあって、わけわかりません。

しかし、わけわからないから使えないとはなっていません。

なぜかというと、ある店で使えるかどうかは国際ブランドで決まるからです。

確かに、三井住友カードとか、ニコスカードとか、ジャックスカードとか、たくさんあってよくわかりませんが、どこで使えるかは、VISA、Mastercard、JCBといった国際ブランドで決まります。

そして、国際ブランドは、VISA、Mastercard、JCB、アメックス位なもので、どんなクレジットカードを持ってようと、カードが使える店なら、大抵どれも使えるので、ほとんど気になりません。

実は、QRコードの統一とは、乱立するQRコード決済を統一規格でまとめるということですから、クレジットカードのように、無数の決済アプリがあるけど、QRコード決済が使える店ならどこでも使えるようになるということを意味します。

そういう点では、クレジットカードなら、VISA、Mastercard、JCB、アメックス、ダイナース、ディスカバー、銀聯と正確には7つありますが、QRコードの場合は、JPQRという1つの統一規格になるということです。

ということは、クレジットカード決済をするときに、いちいち「三井住友カードで」なんて言わず「カードで」で済むように、QRコード決済も、いちいち「ゆうちょペイで」などという必要はなく、「QRコードで」と言えばいいだけになるということです。

決済インターフェース

この動きを少し俯瞰して見てみると、要するにプラスチックの板がスマホのQRコードアプリになるというだけです。

これまでは、銀行口座を開設するとキャッシュカードをもらえますが、最近ではデビットカード機能がついているものがほとんどでした。

そして、デビット払いをするときには、そのデビット機能付きキャッシュカードというプラスチックの板が必要でした。

しかし、今後は、「ゆうちょペイ」のように、各銀行がデビット払い用のアプリを作り、提供するようになるということです。

デビット払いがしたければ、各自が口座を持っている銀行が提供するQRコードアプリをスマホにダウンロードして使えばよく、自分がどの銀行に口座を持っていようと、店舗側がQRコード決済に対応してさえいれば、「何とかペイで」などという必要はなく、「QRコード払いで」と言いだけで、デビット払いができるようになるということです。

実は、これは、クレジットカードにも言えます。

今までは、クレジットカード払いには、プラスチックの板が必要でした。

そうでない場合は、Apple PayとかGoogle Payに自分のクレジットカードを登録して使うしかなく、それらのアプリに対応したカードしか使えませんでした。

しかし、今後は、各クレジットカード会社が、自分の顧客用にQRコード決済アプリを提供すればよく、クレジットカードの種類が無数にあるとはいえ、自分が持っているカード会社のアプリを使えばよく、店舗にQRコードさえあれば、何に対応しているかなんて気にせず、「QRコード払いで」と言うだけで、使えるようになるということです。

これまで、プラスチックの板を発行していた会社が、それぞれのQRコードアプリを出すだけということになり、何とかペイという名前など誰も気にしなくなるわけです。

最近なんちゃらペイが増えて混乱していますが、混乱の本質は使える加盟店がまちまちだったことにこそあり、もう少し時が過ぎて統一QRコードが普及し、何ペイであれどこでも使えるとなれば、誰も何とかペイという名前は気にもしなくなり、要するに、プラスチックの板がQRコードアプリに変わるだけでしかないということになります。

従前より一部の有識者たちが声高に叫んでいましたが、結局、QRコード決済というのは、決済方法ではなく、その裏側にあるクレジット払いやデビット払いを媒介する決済インターフェースでしかないということです。

そう考えると、QRコード規格の統一はユーザーにとって良いことのように思えます。

しかし、話はそう単純にはいきません。

決済代行会社の存在

上で、QRコードが統一しているということは、私が自分のスタジオでゆうちょペイの取り扱いを始めれば、お客さんがよこペイのユーザーだったとしても問題なく使えるようになると言いましたが、実は問題があります。

確かに、QRコードが統一していれば、お客さんが何ペイを使おうとしても私のQRコードを読み取ることが出来ます。

しかし、ゆうちょペイでの支払いを認めるということは、お会計時に現金が動かない以上、ゆうちょ銀行から後日代金を受け取る必要がありますし、お客さんがよこペイで払ったら横浜銀行からお金をもらわなくてはいけません。

しかし、横浜銀行が私のことや私の銀行口座を知らなければその代金のやり取りは不可能です。

つまり、統一規格によりQRコード自体の相乗りは物理的に可能だとしても、店舗側としてはなんちゃらペイの1つ1つと後日の現実の代金振り込みに関する加盟店契約が必要なわけです。

しかし、一つ一つ契約していくのは面倒で、そこで、決済代行会社という会社が登場します。

現在もクレジットカードでは、VISA・Mastercard・JCB・アメックスと言った国際ブランドがありますが、店舗側がそれぞれと加盟店契約を結ぶことは稀で、どこか決済代行会社と契約をします。

例えば、決済代行会社が、VISA、Mastercard、JCB、Suica、楽天Edyに対応している場合、その会社と契約をすれば、まとめて審査を担当してくれて、通過すれば、それらの決済をすべて受け付けられるようになります。

新規のなんちゃらペイが増えても、決済代行会社が追加対応してくれれば、加盟店側ではほぼ自動で(もちろん追加審査がある場合もある)使えるようになります。

そして、お客さんが様々な決済方法を利用しても、契約している決済代行会社がまとめて一定の期日に合計金額を振り込んでくれます。

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つまり、QRコードの規格が統一するということは、既存のQRコードの普及に後乗りできるので、新たに何とかペイを始めようとした会社としては、新規加盟店獲得のための営業努力をしなくてもよくなるわけなので今後ますます増えていくことになるわけですが、その反面、社会全体としてみると、決済代行会社が不可欠な世の中になります。

それがどういうことかと言えば、決済手数料は増えます。

その人たちの取り分だけ利用者のコストは増えるようになるということです。

というより、決済インターフェースがプラスチックカードからQRコードになるだけで、何も変わらないといった方が正確でしょうか。

クレジットカードに無数の種類があれどあまり気にせず使えるのは、どのカードも、結局VISAやMastercardやJCBの決済ネットワークにいずれにかに、相乗りしているからです。

そして、利用の都度、加盟店は決済手数料を負担しますが、カード発行会社以外に、VISAにネットワーク手数料を払い、NTTにカード決済端末の専用回線手数料を払い、決済代行会社にも分け前を配布します。

QRコードの場合、専用回線の手数料はなくせるとしても、VISAネットワークに変わるようなJPQRネットワークが登場し、また、決済代行会社も依然として存続するわけです。

統一のQRコードに複数の決済業者が相乗りするということは、事業者を識別する仕組みが必要で、誰かが、あなたは1番、あなたは2番と、加盟事業者に通しの識別番号を割り振る必要があり、当然そこには管理コストが発生します。

今回の統一QRコードも、高いセキュリティ基準の要求とか何とか云いながら、クレジットカード決済の仕組みに準拠して設計されました。

Paypayやそのお手本のアリペイなどは、そういった中間業者を排除して、ほぼ0%に近い手数料を実現したわけですが、統一規格のQRコードの登場は、どこか独占企業が登場せずに、無数決済アプリが乱立しながらも気にせずに使えるようになる半面、中央管理ネットワーク的な存在が継続することを意味し、決済手数料は従来と大して変わらない可能性があります。

ということは、逆に言うと大して普及しない可能性につながります。

決済でしかない

もう一つ、QRコード決済の統一規格を作るということは、QRコード決済が決済以上の機能を持たない方向に行く可能性があります。

なんだかわからないと思うので解説します。

中国でアリペイが爆発的に普及したのは単なる決済アプリで終わらなかったからです。

典型的なのは、客がレストランのテーブルにあるQRコードを読み取ると、そのスマホから注文もできるという機能。

このように、アリペイとQRコードを使って、サービス全体の向上を心がけたから、普及したわけです。

しかし、もし、決済、つまり代金の支払いという局面だけに限定すれば、Felicaでピッとやる方が圧倒的に便利です。

決済プロセスだけにおいてQRコードVS Felicaを考えれば、Felicaに分があるのが当然で、QRコードなんて過渡的な技術にすぎません。

しかし、決済を含む一連のサービス全体の改善に様々なアイデアを提供したから、中国ではQRコード決済が主流化したわけです。

この点、クレジットカード決済の仕組みに準拠した今回のQRコード決済の統一規格は、今後様々な銀行やカード会社が独自のQRコード決済アプリを提供するためのものであり、第2のアリペイを目指しているのなんてPaypay位なもので、その他大勢は後追いしているだけで革命を起こそうとはしていませんから、QRコードで決済ができればいいのであって、決済のことしか考えていません。

つまり、統一規格JPQRの登場とその普及は、QRコードを利用した斬新なサービスの登場を邪魔する結果になりかねない可能性があります。

(統一規格のQRコードの機能に対する私の思い違いだったらすみません)

Paypayの動向

先日、総務省が統一QRコードを使った実証実験を和歌山県、福岡県、長野県、岩手県で行うこと発表しました。

これには、Line Payやd払いなどの10社ほどの事業者が参加して結構大規模にやることになったようですが、Paypayだけが参加を見送りました。

これは、上記の流れを考えれば当然です。

Paypayは、決済代行会社を通さずに自分達の営業部隊を使って、直接の加盟店契約をしています。

そして通信は通常のインターネットを使います。

だからこそ、格安の決済手数料を実現しているわけで、これがクレジットカード決済の仕組みに準拠した統一規格のQRコード同盟に参加したら、これまでの加盟店獲得の営業努力はじめ、今後の計画がパーになります。

また、中国版のLINE PayであるWeChat Payとの激戦を勝ち抜いたアリペイを見習っているから、将来的に決済機能のみの提供で勝負する気はないでしょう。

しかし、決済機能しかないQRコードなんて使ったら、決済以外のサービスは提供できませんし、それが出来なければ、SNS機能を有しているLINE Payに最終的に負けるのは明白です。

そういったことから、Paypayは今回のQRコード規格の統一は、かなり苦々しく思ってるんじゃないかと思います。

統一規格の狙い

これまで見てきたように、今回のQRコード規格統一というのは、メガバンクやVISAなど主導の動きで、既存のデビットカード・クレジットカード発行業者団体が、新興の決済事業者のスタンドプレーを潰し、既存の枠組みに引きずり込もうとする戦略です。

カード端末を設置するのが面倒な地方の商店などでもQRコード決済なら導入しやすい。

そこを狙って、PaypayやLine Payが大攻勢をかけているのですが、統一QRコードを普及させてしまえば、既存のキャッシュレス決済ネットワークのQRコードという新しい決済インターフェースが追加されるだけで、だれもが財布に入っているプラスチックの板がスマホで使えるようになるわけで、新たにPaypayなどのユーザーになって購買情報を提供しなくても、これまで通りの財布運用でキャッシュレス決済が利用できます。

ということは、逆に言えば手数料は大して安くならないわけですが、既存のカードユーザーがそのまま移行できるメリットは大きく、しかも統一規格で全部カバーできるわけですから、加盟店の増加は望めます。

他方で、そういった統一規格があるなかで、仮に手数料が安くとも、あえてPaypayに個別的に対応するなんて店は減るはずです。

最終的に普及を決定づけるのは加盟店サイドではなくユーザーサイドでの普及度だからです。

また、キャッシュレス決済導入の最大のハードルである手数料問題がクリアできないことでQRコード決済が大して流行せずに終わっても、もともと非接触型を推している、JR、NTT、JCB、VISA、Mastercardなどは何にも困らないわけです。

メガバンクサイドも、資金移動までできるATMをスマホに落とし込んだアプリの開発・普及こそが本丸で、最後に払う場面など、QRコードでも、Felicaでもなんでもよく、流行した方に乗ればいいだけです。

ただ、メガバンクにしろ、既存Felica連合にしろ、新興勢力に資金が流れるのさえ止められればいいわけです。

つまり、QRコードが流行っても良し、流行らなくてもそれも良し、という戦略になるんじゃないかと思います。

終わりに

QRコード決済の規格統一を受けてそのインパクトを考えてみました。

まだ頭が整理できてない気がしますが、一気に書いてしまいました。

ただのインパクトで終わらせる予定が、勢力争い的な話に突っ込んでしまったので、読みづらくなっていたらすみません。

そうであれば本当は、ここから、Line Payの狙いを踏まえた上で、みずほ銀行のJ-coin payと、セブン銀行がやるであろうセブンペイの話をして、ATMをスマホに落とし込むことこそが日本におけるキャッシュレス革命の本丸なのかもという話をしたかったのですが、もう少し頭の整理が必要なので、記事を分けます。

今回のQRコード決済の規格統一、ユーザーの利便性向上のためのようで、その実、Paypay潰しというか、既存の既得権益グループがその政治力を見せつけたという所でしょうか。