LINEとみずほ銀行の提携もこの伏線でしょうかね。
目次
はじめに
先日、LINEが2つの重要な発表をしていて、一つ目が信用スコアビジネスへの参入、2つ目がみずほ銀行と提携してLINE Bankなる銀行を作るというもの。
この2つは連動していると思われますが、信用スコアビジネスの方が面白そうなので、そっちを中心に解説します。
なお、LINEが目指しているのはアリババの芝麻信用でしょう。
芝麻信用(ジーマ信用)とは
芝麻信用と書いてジーマ信用と読みますが、これは中国でアリババが始めたサービスです。
中国ではQRコード決済が急速に普及した結果、キャッシュレス社会になっています。
ということはその反面、2大QRコード決済サービスである、アリペイ(アリババのサービス)やWeChat Payはかなり個人の消費行動に関する情報を持っています。
そして、アリババはすでに個人の信用格付けサービスを開始しており、これがなんと結構普及していて、それがジーマ信用といわれるスコアです。
具体的には、
1.個人特性(買い物履歴)
2.人間関係(SNS上の交友関係や社会的地位)
3.返済能力(現在の資産状況)
4.信用履歴(クレジットカードの返済履歴など)
5.素行(トラブルなど)
の5項目で、個人を950点満点で信用格付けするというものです。
5項目目の素行とは何ぞと思うかもしれませんが、居酒屋のドタキャンとか、タクシーでの暴言とか、みんなアリペイで支払っているので特定可能なわけです。
そして、これらを隠すわけではなく公表することで、効率的な経済社会を築いていこうというものです。
具体的には以下です。
信用スコアの利用方法
具体的には、ジーマ信用でふるいにかけることで便利なサービスを提供することが出来ます。
例えば、
1.不動産賃貸の敷金免除
2.レンタカーなどでデポジット免除
3.カーシェアなどのシェアリングビジネスの入会条件
4.傘やスマホ充電器の無料レンタル
5.婚活サイトの入会条件
6.無人コンビニの利用条件
などなど、いろいろあります。
信頼関係が前提となるサービスにおいて、信用スコアが一定以下の悪人を排除することでサービス全体のコストを下げつつ、優良顧客には低価格で良質なサービスを提供することが可能となります。
中国では結構普及していて、目先の出費に直結することも多いため、若者はこの信用スコアを気にしながら行動しているようです。
行動履歴をベースに、個人の信用をスコア化するなんて言うのは、究極の監視社会到来かという気もしますが、実際には、モラルハザードを防ぐというか、悪人を排除することで信頼関係が必要なビジネスの効率性をあげることを目的としています。
LINEの目指すもの
LINEもコミュニケーションを握っているので、個人の信用スコアをある程度はすでに把握していると言えます。
すでにFacebookは交友関係、すなわち周りにどんな人間がいるかを基にその人の信用スコアを数値化する仕組みについて特許を取っています。
したがって、LINEだって、悪い人とつながっているとか、思想的に過激な発言が多いとか、暴言が多いとか、発言履歴をベースにその人の人格を数値化して、婚活サイトと提携したり、採用担当の企業の人事部と提携したりできます。
しかし、やはり一番重要なのはお金周りの行動履歴であり、個人の信用を精緻にスコア化するには、公共料金の支払いとか、どこでお金を使っているかとか、そういった情報がどうしても欲しい。
そこで、LINE Payを頑張って普及させようとしているわけです。
そして、信用スコアがある程度揃ってきたら、もちろんやりたいことは金貸しで、スコアに応じて金利が下がりますなんてふれこみで消費者金融の覇者を目指しているのかもしれません。
そのためにみずほ銀行と提携したように思われます。
しかし、上述したように、貸金業以外にも結構いろいろ使い道は考えられます。
まあ、Facebookとアリババの真似しているだけ感は否めないですけどね。
とすると、もうすぐ楽天参入ですかね。
いずれにせよ、大注目の信用スコアビジネス、日本で普及するのでしょうか。
論点整理
ここから先はいろいろ考えていきたいのですが、長くなりそうなので、頭出しだけにします。
一生懸命書いた記事があまり読まれないと妻に愚痴ったら、長すぎるんだよといわれたので、おかしな考察は別記事にします。
監視社会の到来か
これは難しい。
確かに、みんなが特定企業が採点するスコアを気にして行動し始めたら監視社会ですし、個人情報なんてあってないような中国だからこそ普及しているのかもしれません。
しかし、上述したように、一部の素行不良の人間のせいで、従業員の負担が増えたり、デポジットを要求されたり、その他大勢の普通の人が余計なコストを負担させられているのは間違いないです。
ほんのわずかな悪人を排除するだけで、コストが大幅に下がるサービスは多いかもしれません。
したがって、みんなをいい子に誘導しようというより、トラブルさえ起こさなければハイスコアであり、信頼関係の必要なサービスから少数の悪人を排除するだけのサービスなのであれば、普及しそうで怖い。
怖いと言ったのは、メリットを理解しつつもやはり監視社会だと思うから。
私は平和的なゲームしかやりませんが、銃で人を打つようなゲームをやってる人はスコアが下がったりするのかな。
それとも、夜中に長時間ゲームやってる人間は保険料が高くなったりするのだろうか。
また、部屋の消防点検に来たときに、部屋が汚いかどうかチェックされて、敷金が割り増しになる日が来るのかな。
そう考えると、自分がどこで悪人判定されるか分かったものじゃなく、居酒屋の利用なんかではグループ単位で連帯責任を負わされたりするかもしれなく、やはり監視社会でしょうね。
しかも、素行のスコア化なんて、変な店員に逆恨みされて、「威張った客」認定なんてされたらたまりません。
仕組みに納得がいかない時に、これどうやってスコア化してるんですかなんて質問して、AIがやってますなんて答えられたときに、暴言を吐いたりしないように気を付けないと。
結局、監視社会になるかどうかは、何がどの程度信用スコアに反映されるか次第です。
とは言え、監視社会になればなるほど普及しなくなるという部分もあるので、良い方向に行く可能性もあるかも。
信用スコアをめぐる迷走
これは、リーマンショックのころを思い出します。
つまり、証券化ビジネスの暴走を支えた格付け機関の失態。
ろくに中身を見ないでよくわからない証券にトリプルAを連発していました。
その理由は、格付け機関にお金を払っていたのは、証券を売りたい金融機関だったからで、結局お金を持ってる人の力が強くて、評価が歪められたわけです。
これは個人の信用スコアにもいえるかもしれません。
信用スコアを基準にサービスというかお金が動くようになると、今度はお金が信用スコアに影響を与えるようになります。
これは、既存の信用調査にも言えますが、消費者金融からお金を借りてきっちり返した人の信用度が高いなんて言うのは、お金を借りていない人からすると腑に落ちるような落ちないような。
このように、あるビジネスが個人信用スコアを利用するのは良いのですが、「個人信用スコアに基づいた効率的なビジネス」への投資といった、もう一段階レベルの大きなお金の流れが増えると、個人スコアに対して色んな思惑が交錯して、証券化バブルの時の格付け機関のように、本来の中立的な評価が出来なくなる可能性があります。
サービスが拡充すればするほど、よくわからないスコアになっていく可能性もあります。
ハイリスクビジネスバブル
証券化バブルを思い出すと、自然にハイリスクビジネスも思い出します。
証券化バブルの原因の一つとして、トリプルA評価の低リスク証券が実は低リスクではなかったという点がよく挙げられますが、実はハイリスク商品もバブルでした。
大量のローンをまとめて、それを低リスク、中リスク、高リスク部分に分けて証券化するというのが証券化ビジネスですから、必然的に高リスク証券も生まれます。
普通は限られた人しか高リスク商品には手は出さないのですが、当時はそこでもバブルが起きました。
なぜかというか、充実した資本と頭脳をもつ、ゴールドマンサックスとかジョージソロスのファンドとかが、ち密な計算をしたうえでそういう高リスク商品に手を出すわけですが、すると、ゴールドマンサックスが欲しがったらしいというだけで買いたがる連中がたくさん湧いて出てくるわけです。
俺も欲しい私もほしいとなって、ハイリスク商品を高値でヘッジファンドから買い取る銀行とかも出てきて、そういうのも証券化バブルの時には起きていた事態です。
したがって、個人の信用スコアビジネスも、低スコアの人が社会からあぶれるかというと、そこにビジネスチャンスを見いだす人たちが登場します。
ジャンク債市場のように、うまくリスク評価が回っているうちはいいのですが、常に火薬庫としてそびえる可能性もあります。
結局、どんなに個人行動を信用スコア化しようとしても、絶対に真実は分からないし、また、上述したように、資本家の力関係で必ずスコアは歪められます。
したがって、経済の効率性を増す予定が・・・、からのいつものバブルを引き起こすきっかけになるかもしれません。
効率性と公平性
これは、社会保険とかに関する話。
社会保険には、経済学で言う、「逆選択」と「選択」という問題があります。
保険料は個人の生活態度は変わりません。
したがって、健康に気を付けている人たちは、基本的に保険料に不満です。
なぜ、不摂生な連中のリスクを自分がカバーしないといけないのかと。
そうして、低リスクな人たちほど集団保険に入らなくなり、高リスクな人たちが残るようになり、保険料もあがる、そうするとまたより低リスクな人たちが不満を持って抜けるようになる。
こうして保険が成り立たなくなることを「逆選択」といいます。
逆選択が起こると、高リスクな人たちに引っ張られて保険という仕組み自体が成立しなくなるので、経済の効率性を阻害します。
この原因は、保険会社が一人一人の生活態度を知りようがないことから起きます。
これを回避するためには、個人の生活態度を指標化して、精緻な保険料モデルを作ることになります。
しかし、そうすると、低リスクな人たちは適正な保険料で満足するわけですが、保険会社が高リスクな人たちが切り捨てるという問題が起きます。
これが「選択」の問題。
とは言え、昨年あたり問題になりましたが、不摂生の奴なんて自業自得だから死ねとも言えず、誰かが救う必要があります。
そのためにあるのが公的保険。
これは効率性ではなく公平性の問題(ニコラス・バーはさておき)。
にたようなことが信用スコアにもいえるかもしれません。
つまり、数値化することでリスク評価の正確性を高め、ビジネスの効率性を高めることはできても、その反面高リスクの人がサービスからはじき出されることが想定されるわけですが、こぼれてしまった人達を自業自得と放っておくわけにはいきません。
必ず公平性の議論も裏側では登場し、いわゆる社会を二極化する方向で議論は進みます。
そして、健康のように分かりやすいトピックと違って、よくわからない指標になると、こぼれてしまった人の不満は強くなります。
大して効率化しない割に、社会は不穏になったなんて言うことにならないといいですけどね。
ポピュリズムとグローバリズム
最近は、トランプ現象、ブレグジット、ヨーロッパにおける極右政党の躍進など、ポピュリズムという言葉をよく聞きます。
しかし、移民排除をめぐっては面白いことが起きています。
一部のメディアが極右勢力の躍進なんて間違った報道をしていますが実はそうではなく、いわゆる右派だけが自分たちの固有の文化が壊されると言って移民排除に動いているわけではない点です。
実は、リベラルな左派も、男女平等や人権尊重を絶対的に認めないイスラム教徒を批判し、普遍的な価値観を尊重しないなら入国を許すべきではないとなって主張するようになっています。
また、国全体がリベラルな北欧でも、福祉国家という視点から、さすがにこれ以上の負担は受け入れられないという声が出てきています。
つまり、最近の動きは右も左もなく、どちらかというと、理念先行で社会変革を進めようとするエリート層に対する下からの運動になっています。
これと信用スコア事業の何が同じなのか。
テクノクラートが政府権力とかを否定するのはよくわかる。
テクノロジーにより政府などの関与を排して、より自由な社会をつくろうと。
仮想通貨なんかはその最たるもので、理想が暴走してる気がしますが、中央銀行のない社会を目座しています。
これは理解できる。
しかし、同じような立場の人たちが、このビジネスを絶賛しているのは少し腑に落ちない。
確かに、情報の非対称性を解消することで経済を効率化しますが、それだけでなく自助努力も促すことで公平性の出番も少なくなって、国家の関与が少なくなるかもしれない。
しかし、この事業では、民主的なコントロールの及ばない、巨大権力が発生するのは不可避な気がする。
政府は嫌いだけど、巨大企業による帝国主義は否定しないのかな。
個人の自由に干渉する巨大権力が嫌いなのかと思いきや、実態は、官はダメだが民はOKみたいな形式論なのだとしたら、右派も左派も黙ってないだろうな。
「これからの時代トーク」が好きな人たちは、これについてはどう思ってるんだろうか。
この話を考えると、アップルのクックCEOがフェイスブックを批判したのはよくわかる。
個人情報をコソコソ集めて売ってんじゃねえよ、モラルとかねえのかよと、クックCEOは言いました。
確かに、アップルはハードもソフトも牛耳ってるけど、Google、Amazon、Facebookのいずれとも違って、ユーザー情報を集めたりしてなくて、Apple Payの仕組みを見るとよくわかりますが、ユーザーのプライバシー確保にものすごい力を入れています。
こう考えると、ジョブズがクックを後任に指名した理由がわかる気がする。
今一つ掴みどころのない人ですが、そういう所は絶対に流されない人かもしれない。
悪の陳腐さについて
これはまだ頭が整理されていません。
ナチス親衛隊の将校で、アウシュビッツなどでユダヤ人の大量虐殺を実行した人にアイヒマンという人がいます。
この人は戦後逃亡していたのですが、1960年にアルゼンチンでイスラエルの情報機関のモサドに発見され捕まえられて、イスラエルに送られて裁判を受けます。
当時、世界中の人が、どんな大悪党が裁判に登場するのかと成り行きを見守っていたわけですが、実際に現れたのは全然見当違いな男でした。
出てきたのは大悪党ではなく、上司の命令に従っただけなのに何が悪いんですか的な、ザ・サラリーマンな男が登場したわけです。
この男は、上司の命令やナチスの法律に従っただけで、自分のやったことに対し自分なりの思考はありませんでした。
その過程は、ハンナ・アーレントが『エルサレムのアイヒマン』という本にまとめていますが、その副題は、『悪の陳腐さについて』です。
つまり、ユダヤ人の大量虐殺という巨悪を現実に実行した男は極めて凡人だったわけです。
学生時代や社会人を通してどちらかというと目立たなくてうだつの上がらない男で、成績もよくないのですが、出来ないなりに言われたことはとりあえずやるというタイプで、ナチス親衛隊に入ってからは一生懸命上司に従って出世にまい進した人でした。
これは、個人の信用スコアにもいえることで、こういったスコアが登場すると、自分がスコア化されることに疑問を抱かず、とりあえず高い点数を目指して頑張るというタイプの人はたくさんいます。
ナチス親衛隊や怪しい新興宗教のようなカルト集団の常とう手段として、信者に詳細なランク付けを作ります。
そして、上の方に行けば行くほど「秘儀」が伝授されるような仕組みなっているわけですが、そういう環境に入ると、目の前に競争に忙しく没頭して、上司の命令や自分のしていることに何の疑問に思わなくなる人というのはたくさんいます。
そういう人たちが、スコアを気にして行動するようになると大変です。
悪い人たちからすると、そういう連中をスコアを使って操縦するのは簡単だからです。
進撃の巨人世代
私はドラゴンボール世代です。
したがって、闘うと強いキャラと弱いキャラに分かれ、強いキャラの地位が高いの当然であり、縦関係の序列は自然なものです。
しかし、一個下の世代はワンピース世代らしい(読んだことないので、間違っていたらファンの人ごめんなさい)。
登場人物は海賊船の乗組員で、リーダーだろうが、平社員だろうが、コックだろうが、全員に居場所があり、誰が欠けても世界は回らないようになっています。
つまり、縦関係というより、並列な横関係があります。
これが今の若者の人間関係の特徴で、別名キャラ文化。
あいつは貧乏キャラとか、勉強できないキャラとか、運動音痴キャラとか、旧世代からすると縦関係のようなものまでキャラの名の下に並列化されています。
それを聞いて、へーと思っていたら、さらに下の世代は進撃の巨人世代といわれるらしいです。
特徴は、自分達は嘘で出来た社会に閉じ込められていると考えているそうです。
約束のネバーランドなんかもその流れですかね。
確かに、ネットにしか自分の居場所は無かったなんて言う殺人鬼の言葉を昔はポカーンとして聞いていましたが、分かるような気もしてきました(私がアブナイ人になっているわけではない)。
社会生活のいたるところで配慮が求められていて、嘘をついているわけではないですが、いい人を演じたり、家族、仕事、サークル、様々な集団ごとに、気を配りながらうまく立ち回って微妙にキャラを使い分けている自分を振り返ると、確かに嘘の世界に閉じ込められています。
そう考えると、今までは見られなかった行動まで監視されて信用スコアなんてものにされ、それを気にしながら生きるなんて言うのは、そろそろ心も限界かもしれません。
高級品だけLINE Payで買い、怪しいお店では100%現金払いになりそうですね。
一時期、クレジットカードのプラチナカードをゲットする方法として、どんな店で使ったかがチェックされているらしいなんて情報があり、毎月ヴィトンに言って一番安いキーホルダーを買うことで、ヴィトンの常連を装うなんて方法がありました。
そんな嘘ばっかりの生活になるのでしょうか。
そこから出ると巨人に食べられるという比喩も言い得て妙ですね。
もちろん、そんな大げさな話ではなく、トラブルさえ起こさなければいいだけといわれると反論できないのですが、そうはいってもねえ。
おわりに
LINEが信用スコアビジネスに参入するというので話題になっていたのでコメントしてみました。
みずほ銀行と提携する当たりかなり本気ですが、パンドラの箱を開けないといいのですが。
LINE Payは仕組みが複雑なものの、既存のLINEユーザー数を頼りにメディアで宣伝しまくって大攻勢を仕掛けていますが、この個人スコア事業進出が大ブレーキになったりして。
今回は、いつも考察部分が無意味に長すぎるという指摘を妻から受けたので、短くして頭出しだけにしてみました。
別の記事でしっかり掘り下げていきたいと思います。