【感想文】植物はなぜ薬を作るのか


なぜ植物の中には、薬や毒を作るものがいるのでしょうか。

はじめに

先日テレビを見ていたら、ナスを自家栽培して食べている夫婦が毒物中毒になった話をしていました。

原因は、ナスというのはアサガオ科らしいのですが、その自家栽培に使っていた木が、何とかアサガオという毒を持つアサガオの品種に接ぎ木したナスの木だったらしく、その影響で毒を持つナスがなり、それが原因だったとのこと。

基本的に野菜嫌いの私としては、野菜=ヘルシーみたいな風潮を面白く思っていないので、ほれ見たことかと思いつつ、接ぎ木で毒を持つナスができるというのは不思議な話だなと感心しました。

そこで、少し植物の本を読んでみようかなと思ったのですが、そもそも、動物と植物で全然異なる生き物なのに、なぜ植物が、人間の体に影響を与えるような薬や毒を作るのかを不思議に思ったので、下記の本、『植物はなぜ薬をつくるのか』を読んでみました。

最初に結論

この本、正直5段階評価で4から3.5という感じで、ちょっと問題点があるのですが、植物がなぜ薬を作るのかという結論は面白いです。

植物がなぜ薬を作るのか、私たちは自然の恵みとか言っていますが、植物としては、動物に食べられたくない一心で作っているようです。

考えてみれば当たり前で、薬というのも飲みすぎると毒になるという点で毒と本質的に変わるものではありません。

そして、植物の場合、危機が迫っても走って逃げるわけにはいかないという性質上、捕食者が食べた場合に、後悔するような品種が生存競争で生き残っていきます。

コーヒーがカフェイン作るのも、タバコがニコチン作るのも、ケシがモルヒネ作るのも、ヤナギがアスピリン作るのも、ジギタリスが強心剤作るのも、日々草がビンブラスチン(抗がん剤)を作るのも、全て、捕食者にダメージを与えて二度と食べないようにさせるためです。

野菜をヘルシーとやたら持ち上げたり、植物を神聖視して、薬草を自然の恵みなんて言ったりします。

また、漢方薬の生薬なんて、実験室で合成された薬品と違い、自然そのままだから副作用が少ないとか、体に優しいなんてことを言う人もいます。

よくよく考えれば、そんなわけねーだろと。

煙に巻かれる

この本では、ニコチンやモルヒネなどの、植物由来のさまざまな成分が、使われようによっては薬になるけど、本質的には毒と大して変わらないことが前半で説明されます。

現在、臨床で用いられている植物由来の抗がん剤は4種類あるそうです。

そして、これらの成分(タキソールとかカンプトテシンとか)の特徴は、細胞分裂に必要なプロセスを阻害することにあるのですが、人間の大人の場合、体は一通り出来上がっており、増殖するのはがん細胞だけですから、その細胞分裂を止めて増殖を阻害することで抗がん剤として機能するわけですが、人間の体の中では、成長はしなくても日々新陳代謝は行われているわけで、がん細胞だけに作用するわけではありませんから、体全体における細胞分裂機能に多大な影響を与えるがゆえに抗がん剤というのは強い副作用を持っています。

語弊を恐れずに言えば、抗がん剤というのは毒そのものです。

そういった話が前半に登場し、それではなぜ植物はこういった物質を作るように進化したのでしょうか、次章ではそれを詳しく見ていきますなんて、話になります。

こっちとしては、ドキドキワクワクしながら次章に読み進めます。

すると、植物はなぜそういった動物にとって毒(薬)となるような物質を作るようになったのでしょうか、それは、自分を食べた捕食者にダメージを与えて、捕食者がもう二度と食べないようにするためです、といった説明がなされます。

この説明で腑に落ちないの私だけ?

植物はなぜ毒を作るのか?

それは、動物にとって毒だからそれを作るようになったのです。

どうも話がぐるぐる回っているだけのような気がしてならない。

ここのがっかり感だけで星4から3.5としていて、間違いなく登場する話は面白い本です。

勝手に補足

どうも腑に落ちないので、私の方で勝手に補足します。

進化というのは、様々な突然変異や有性生殖(両親と異なる子が誕生)が起きる中で、環境に適した種が生き残り、その種が蔓延するだけですから、そもそも「なぜ」という問い方に対して、結果論以外では答えられません。

目的論的展開ではなく、偶然の結果論として、この物質をつくる種は周りの動物が食べなくなり、生き残ったという説明ができるだけです。

タバコとしても、「よーし!毒を作って食べられない体になろう」と思いついてニコチンを合成するようになったわけではなく、たまたまニコチンを作る種が誕生し、それらが生き残っただけです。

問題は、なぜそんな物質ができるような突然変異が起きるのか、素人の疑問はそこなんだと思います。

カンプトテシン

タキソール

こういった物質を作るようになる突然変異がいったいどうして起きるのか。

酵素の突然変異

私は学生時代の専門が有機化学なので、こういった化学式が専門ですが、理学部化学科の有機化学なので、出発点がベンゼン(ただの6角形)とかで、こんな複雑な物質をどうやって作るのかと頭を抱えます。

しかし、生化学屋と言われる、同じ有機化学が専門でも、薬学系や生物系の生体内で作られる物質の専門家の人達は、上記のような複雑な物質を見てもピンときます。

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これって光合成の過程でできる中間物質Xにひと工夫すればできるんじゃないのなど、植物や動物の細胞の中にある基本的な物質の延長線上に置けるわけです。

結論から言うと、実は、植物由来の毒や薬は無数と言っていいほどありますが、合成の系統は5種類くらいしかないようです。

そして、動植物の体の中では沢山の物質が存在し、代謝と言って化学反応を繰り返してますが、そのエンジンは酵素という物質です。

酵素というのは、複雑な立体構造を持つ物質ですが、動物に例えるとサソリのような物質です。

ある物質を両手のハサミで挟んで固定し、しっぽの毒針をプスっと刺すようなイメージです。

しかし、酵素はサソリよりはだいぶ高等で、両手のハサミの部分が、たこ焼き器とかたい焼き器の鋳型のようなポケットなっていて、鍵と鍵穴の関係のように、特定の物質だけを捕まえるようになっています。

つまり、人間の体に、アルコールの分解のように、A⇒B⇒Cという化学反応経路がある場合、AB変換酵素、BC変換酵素というのがそれぞれあって、Aを捕まえてBに変換する酵素、Bを捕まえてCにする酵素が存在します。

それとは別にX⇒Y⇒Zという経路があれば、同様にXY変換酵素、VZ変換酵素があります。

そして、AB変換酵素は分子の立体構造上、Aを捕まえてBに変換しますが、CやXやYやZは捕まえないようになっています。

しかし、ここでDNAの複製ミスで突然変異が起きて、酵素の立体構造上、ターゲット物質を捕まえるポケットの形が変わる時があります。

特に、ポケットが少し大きくなる時が厄介で、AB分解酵素であれば、物質Aだけを捕まえてBに変換するはずが、変異型の場合ポケットが大きくなったせいで、たまたま同じ細胞内に存在するXまで捕まえて、Xに対して変な操作を加えると、未知の化学物質X2が誕生するわけです。

もちろん、それがどんな効能を持つかは未知ですが、たまたまその個体を食べた動物がダメージを受けて二度と食べなくなったりすると、その変異型の種が長い年月の中で生き残るようになります。

こういったプロセスを進化と呼び、結果論的に、植物は、危険が迫っても逃げられないという弱点を有する中で、毒性物質の合成能力を獲得し、生存競争を勝ち抜いてきたなんて説明したりするわけです。

まあ、究極的には全て偶然の産物で、それが植物が薬を作る理由。

一番知りたいところの解答は、一見複雑に見えても、見る人が見ると、細胞内にある代謝物質の延長線上の物質であるという所と、酵素のポケットの突然変異で本来のターゲットじゃない物質を捕まえてしまうことで、未知の物質が合成されるようになるという所でしょうか。

なぜ植物自身は平気なのか

植物自身は自分が作る毒に対してどうして平気なのか。

ここは、この本の中で結構詳しく説明されていて、おもしろいです。

無害化されてある場所に保存されており、それとは別の場所に無毒化を解除する物質が用意されていて、動物などに捕食されると、つまり細胞が破壊されると、2つが混じって有毒化するなど。

全部偶然の産物なんでしょうが(毒の合成と耐性の獲得の同時進行)、様々な工夫があって本当によくできてるなと感じます。

そして、ここは研究の最先端のようです。

ある抗がん剤に関しては、それを使っていると耐性をもったがん細胞が発生してきてその物質が効かなくなるらしいですが、実はそのがん細胞が獲得する耐性こそ、その抗がん剤を生産する植物がもともと持っている性質だったりするそうです。

つまり、これまでは薬効成分を持つ物質を見つけることに重点が置かれていましたが、その植物がどうして自身は影響を受けていないのかという仕組みの解明は、将来的にその薬が効かなくなった時の原因の解明の鍵にもなるようです。

種の多様性の重要性

最後に、種の多様性の重要性について。

新薬の約6割は天然物(動物や微生物含む)の成分由来だそうです。

しかし、まだ地球上の植物の10%も研究されておらず、その一方で日本だけでも1,700種が絶滅にひんしています。

まだ見つかっていない新物質を発見したり、また、その植物を研究することで耐性に先手を売ったり、植物の研究は宝の宝庫(?)と言えそうです。

そのためにも、種の多様性の確保は重要なんでしょうね。

おわりに

面白かったのですが、それだけに期待外れな部分が気になったので(期待はずれかどうかは主観的な話ですが)、補足しながら感想文を書いてみました。

一言で言うと、生物屋じゃなくて化学屋が書いた本。

面白いのは生物屋が書く本で、化学屋はどうしても分子構造とか合成経路とかゲノム解析といったミクロの話に行くので、素人的にはあんまりなんですよね。

特定の植物に注目して、その中でも薬効成分を作る種と似たような物質を作るがその物質に薬効が確認されているものがあり、進化の途上と考えられるなんて話が少し登場するのですが、そういった話をもう少し拡充してくれた方が素人には面白いかな。

まあ、でもテーマ的に知らないことだらけで面白いからこそ、不満が残るというだけで、面白いかどうかと聞かれたら、面白い。

一気に読み終えるのは間違いないと思います。

興味を持った人は是非どうぞ。