『人類50万年の闘い マラリア全史』を読んで

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ビル・ゲイツに勧められたので読んでみました。

この本、ネットで見つけた、ビル・ゲイツがおすすめする科学ジャンルの本という記事に載っていて、面白そうなので読んでみました。

結論から言うと、滅茶苦茶面白いです。

この本、自分はマラリアになんて興味ないよという人も、もし、身近に医学部や生物系や人類学系を目指す若者がいたら、プレゼントしてあげてください。

きっと感謝されると思います。

自分も、こういう本は、高校生ぐらいのときに読みたかったなと思います。

出版当時の2010年でさえ、約3億人が感染し、100万人が死んでいると推計されるマラリア。

この本は、人間と蚊を50万年も手玉に取り続けるマラリア原虫と人間との闘いについて、様々な視点取り入れて解説する本です。

この様々視点というのが面白く、単にマラリアの生態を解説するだけでなく、それが人類の歴史に及ぼした影響、薬剤の発見とその挫折、殺虫剤との戦い、そして最終的に途上国支援の在り方といった話になっていきます。

マラリアに困らせられているのは人間だけでなく蚊の方もそうで、マラリアは蚊の体内で増殖し、人間の体内で増殖し、蚊による吸血の際に、蚊から人間にうつるとともに、人間から蚊にも移ります。

盗んだ車で銀行強盗をするようなことをするわけで、人間だけでなく蚊の免疫にも激しい抵抗を受けるのですが、生涯を通じて、7種類以上に姿を変えることで見事やり遂げます。

そして、蚊は危険を冒して何度も吸血するように仕向けられ、人間は熱を出して蚊に刺されやすくなります。

もちろん、人間だって黙っておらず、ダフィー抗原欠失、オバロサイトーシス、鎌状赤血球、など、各種突然変異体の誕生により、マラリアの猛威を生き残ります。

しかし、マラリアの脅威を乗り切り、生活圏を拡大する度に、人類は新たな種の蚊と出会い、体内のマラリアが、より生命力の強い蚊と出会うことになり、マラリア感染は新局面を迎えます。

また、生活圏の拡大に伴って必然的に蚊の繁殖を助けるような水溜りも増えるのが、さらに事態を悪化します。

そして、飛翔力の強い蚊が、マラリアのない地域までマラリアを運び、マラリアが大流行するとともに、それにより人間側の対抗策に対応したマラリアの突然変異体も出てくるわけです。

こういった感じで、人類がマラリアを克服し新たな生活を始めるたびに、新しいマラリアが襲って来るという感じで、対マラリア戦争は終わりません。

もちろん、マラリアについてあれこれ研究する人たちもいます。

しかし、蚊が媒介するという点になかなか気づかない。

蚊の媒介に気づくまでの主力説は、瘴気説といって、汚れた沼地などから湧き上がる瘴気が原因でマラリアになるという説。

問題なのは、この説に基づいて、沼地を避け、窓を閉めて、汚れた空気に触れることを避けるという対策が一定の効果を示していたこと。

高地の涼しく空気の綺麗な土地に居を構えることでアフリカでマラリアを避けることには成功するものの、免疫を持ちつつも体内にマラリア原虫を宿すアフリカ人奴隷をアメリカ大陸に連れていき、そのアフリカ人奴隷をアメリカの蚊が刺したときに何が起こるかの予想が出来なかった。

その結果、アメリカ大陸とくに、南米の中継地点であり、ジャングルの広がるパナマなどでは最悪の事態を迎える。

アメリカ南部へのヨーロッパ人の入植はマラリアにより壊滅的な打撃を受けて、17世紀、サウスカロライナで生まれたヨーロッパ系アメリカ人の新生児は、20歳になるまでに86%がなくなっているとのこと。

もっとも、アフリカ人奴隷は免疫を持っているので、アメリカ大陸ではますますアフリカ人奴隷に依存する体制になっていったそうです。

特に、地元のマラリアに『熟練した』奴隷には、現地先住民奴隷の2倍の対価が支払われたとか。

また、マラリアのせいで、長い間ヨーロッパによるアフリカ諸国の植民地化というのは進まず、奴隷貿易の拠点が沿岸部に作られるだけでした。

このように、近代にいたるまでの世界地図の形成にマラリアが非常に大きな影響を及ぼしていることが、詳細に解説されます。

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マラリア対策の薬はなかったのかというと、17世紀にはキナという木の樹皮から取れるキニーネという薬が効果があることは分かっていたのですが、キナの木の量産が出来ない。

もともと、アンデスの海抜2000メートルくらいの高地に生えている木で、しかも10年くらいたたないとキニーネを生産できるほどの樹皮にならない。

しかし、オランダがインドネシアのジャワにプランテーションを作り、園芸史上に残る30年の苦闘を経て量産を成功させる。

1940年ころまで、キニーネが唯一のマラリア特効薬。

そして、第二次世界大戦がはじまると、ドイツはオランダに侵攻し、商店にあるキニーネを片っ端からベルリンに送ります。

さらに、ジャワのキナの木プランテーションは日本軍に陥落。

こうして、世界のキニーネの95%がドイツと日本に抑えられます。

この重大性に連合国側、特にアメリカが気付くのが遅く、アフリカ戦線と東南アジア戦線で、連合国側はマラリアよって甚大な被害を受けます。

マッカーサー元帥が語ったところによると、東南アジアではアメリカ兵の60%がマラリアに罹患。

最終的に、フィリピンのバターン島で、兵隊の85%がマラリアにかかって戦闘不能になり、アメリカ兵1万5千人とフィリピン兵6万人が、日本軍に降伏するという事態が生じます。

これを受けて、マッカーサーが、本国の科学者にマラリア新薬の開発の大号令をかけます。

そして、ドイツに先を越されるのですが、キナクリンとクロロキンという二つの新薬の開発に成功。

こうして、連合国側のマラリア問題はひと段落します。

しかし、第二次世界大戦中にちょっと気になることが起きる。

それは、クロロキンを十分に服用することで、マラリア患者は劇的に減るのですが、どの部隊もゼロにならない。

当時、上層部はまじめに服用しないやつがいるだけと考えていたわけですが、うすうす気づいてきます。

どんな薬を使っても、耐性を持つマラリアが出てくると。

そして、第二次世界大戦は終結しますが、大量生産可能でキニーネを葬ったクロロキンの耐性をもったマラリアが大量に発生する日が来ます。

しかも最悪の場所で。

それは、ベトナム戦争の南北分断地帯で大量発生することになります。

このおかげで、北ベトナム軍、とくに強制的に北側から連れてこられた免疫のない兵士たちが続々と倒れます。

アメリカ軍は、忘れられていたキニーネを引っ張り出してきて何とか乗り切る。

しかし、北ベトナム軍にはキニーネを調達する方法は香港の闇市で調達するしかない。

この様子を見ていたのが毛沢東。

そして、中国では、極秘プロジェクトプロジェクト523が始まります。

新薬を見つけるべく、膨大な量の化学物質が試験されるのですが、抗マラリア活性をもつ物質は発見されずに時間だけが過ぎていく

しかし、ついに、当時39歳の屠呦呦博士が、紀元340年の漢方の古文書から、マラリアの特徴である断続的な発熱に聞くとされる解熱剤を発見(この功績で2015年にノーベル生理学賞を受賞した)。

当初は、実験室で化学的に抽出しようとしてことごとく失敗するも、古文書の通りに、新鮮なクソニンジンの全体を水につけてお茶にして飲むという方法を再現することで、何とか成分の抽出に成功。


クソニンジン(Wikipediaから引用)

これが、現在最強の抗マラリア薬、アーテミシニン。

これをノバルティス社が買いとって、他の薬剤と合わせた有効成分を二つ持つ薬剤を開発。

有効成分が二つあると、両方に対応した突然変異体というのは発生可能性が極めて低い。

しかし、他の製薬会社が、より安価な、アーテミシニンのみを含む薬剤を作って配布したりして、結局、アーテミシニン耐性をもったマラリアの兆候がすでに報告されつつある現状。

こんな感じで、薬剤療法とマラリアの闘いも詳細に語られます。

他にも、マラリアが蚊に媒介されることの発見や、数千種類の蚊の中からマラリアの運搬をする蚊の同定をめぐる科学者たちの奮闘と競争。

殺虫剤DDTブームとその終焉、そして中途半端に終わった対蚊絶滅戦争の結果として、生き残ったDDT耐性を持った蚊の繁栄。

最終的には、人類の対マラリア戦争がどうしてうまくいかないのかに話が移ってきます。

アフリカ諸国に薬剤を大量に配ったり、DDTで世界中の蚊を根絶やしにしようとして途中でやめたり、こんどは蚊帳を大量に配る運動が始まったり。

短期的な運動しかされておらず、なかなか長期的な対策が取られない。

しかし、一番の障害は、マラリア頻発地域では、マラリアが生活の一部となってしまっていて、その対策の重大性が理解されていないこと。

大量の蚊帳を送っても、貧困支援や治安維持や開発資金などではなく、国連から大量の蚊帳が贈られることの意味が伝わらない。

ナミビアでは、蚊帳を使って漁をするのが流行ったりする。

結局、現地の生活様式を変え、また、貧困自体をなくさないと、驚異的な生態系を持つマラリアによって、どんな対策も出し抜かれ、より強力なマラリアを生み出すだけで終わることを主張しています。

そして、先進国ではマラリアは制圧したかのように思われているけど、マラリアを媒介するハマダラ蚊はそこら中にいて、いつ大流行してもおかしくないことを書き留めています。

まあ、後半はちょっと著書の熱が帯びすぎていて、特定の団体や有力者への毒が強すぎる気もしますけどね。

ただ、誰もが聞いたことあるけどよく知らないマラリア。

そのマラリアについて、ありとあらゆる視点から解説を試みる本書。

こういった本というのは、有りそうで無く、しかも、マラリアぐらい人類と長い付き合いがないと書けないかもしれません。

医学、薬学、人類学、歴史学、そして社会学と、様々な視点から、人類(と蚊)とマラリアの歴史について解説する、非常に面白い本です。

最終的に、マラリアを通して、自分さえよければいいわけではないという、国際協力の必要性に至るところは、国際協力を訴える下手な本よりリアルで説得力があります。

興味ある人は是非どうぞ。

おもしろくないという感想は絶対に生じない本だと思います。


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