本物のパイレーツオブフィンテックが登場しました。
目次
はじめに
先日リリースしたCASHというサービスが、サービス開始後16時間で、申し込み7500件、3.6億円のキャッシュ化となり、ベンチャー企業ということもあり、殺到する取引希望にサービスが追いつかなくなり、キャパオーバーで一時サービス中止となりました。
そして、それがすごい話題となると共に、一部でそのサービス内容に批判が起こっているそうです。
私としては、このサービスのアイデアに感心しきりなので、批判も含めて検討してみます。
なお、私は法律はど素人ですから、私の法解釈は信用しないでください。ポイントはそこではないです。
CASHの概要
CASHのサービスは非常にシンプルです。
手持ちの物、例えば衣類や小物や電化製品などの写真を撮って送ると、買取相当額がすぐに口座に振り込まれるというものです。厳格な査定とかはせずに、類型的にポンと査定するのがポイント。
そして、後に詳述するように、この後が面白くて、2か月以内にその物を送るか、送らない場合にはキャンセル料と称する15%の加算金を加えて返済しなくてはならない、というサービスです。
形式上は、中古品の買取ですが、2か月以内であれば、キャンセル料15%を払って、買取契約をキャンセルできるというものです。
まとめるまでもないですが、まとめると下記です。
1. 中古品の写真を撮ると買取金額がすぐに振り込まれる。
2A. 2か月以内にその物を送る。
もしくは
2B. 2か月以内に15%増しの金額を返還する。
という、非常にシンプルなビジネスです、
法律上の問題点
上述のサービス内容を知った人は、直ぐに、実質的に質屋なんじゃないの?、もしくは実質的に金貸しなんじゃないの?、と考えたのではないかと思います。
実際その通りで、このサービスを巡って最初に議論になっているのは法律上の問題で、CASHが質屋もしくは貸金業に当たるのではないかという点です。
もちろん、不要な物の写真撮って、すぐにお金が振り込まれ、入金を確認次第直ぐにその物を送って取引終了という場合は、単に中古品の買取です。
しかし、物を送らずに2か月後に15%増しの代金を返還する場合が存在するからややこしくなります。
しかし、CASHは、古物商の許可は取得していますが、貸金業と質屋営業の許可は得ていないようです。そこが問題視されています。
つまり、
CASHのビジネスが、法律上質屋営業に当たるのであれば無許可営業ですから、違法となり、処罰の対象となります。
他方、CASHのビジネスが貸金業に当たるのであれば、それも無許可営業ですから違法ですし、さらに、出資法の対象になりますから、利息の限界は年20%で、2か月で15%、つまり年利90%というのは、余裕でアウトです。
なお、質屋営業も金貸しみたいなもんですが、どうやら質屋であれば、109.5%までは利息とっても良いらしく、90%はセーフのようです。
では、法律上CASHは質屋なり貸金業に当たるのでしょうか。そこを検討してみます。
法規制1:質屋なのか
まず、簡単な方から。すなわち、CASHは質屋営業なのか。
これは、該当しないでしょう。
何でかというと、中古品を送ってしまえば、もう取り戻せないからです。
実は、この点は、利用ガイドを読んでも明確に書いていないので、正確にはわからないのですが、2か月以内に写真を撮った中古品を送付して、CASHがそれを受け取った時点で、中古品買取契約は完了で、2か月以内であっても、「やっぱり115%払いますから返してください」とは言えないのだと思います。
まあ、たまたま、CASH側の手元に残っていて、査定ミスのとんだ不良品であれば返してくれるかもしれませんが、基本的にCASH側が受け取った時点で、CASH側が100%完全の所有権を取得して、転売しようが捨てようが自由なんだと思います。
とすると、どう考えても質契約には該当しないと思います。
もちろん、別パターンの方、つまり物を送らずに2か月以内に115%払って済ます場合には、トータルで見ると中古品を担保にした質契約に近いようにも見えます。
しかし、質契約というのは、法律上、現物の移動が必要となっている契約で、質契約という契約書に実印を押そうが弁護士立会いの下で硬い握手をかわそうが公証人の前で誓おうが契約通りに現物が実際に移動しないと契約は未成立で成立しないという変てこなルールになっていますから、現物が移動しない以上、質契約が始まりません。
そして、上述のように、現物が動けば、その瞬間に売買完了で、関係終了です。
つまり、物を送る、115%返金する、という2択がありますが、いずれも質契約は成立しないので、どう考えても質屋営業にはならないかと思います。
法規制2:貸金業なのか
では貸金業に該当し、出資法違反になるのでしょうか。
これも、2パターンあるうちの、現物を送る気満々で申し込んで、実際その通りにして終わる場合は、ただの中古品の買取ですから、関係ありません。
しかし、もう一つの方(より厳密にはさらに2パターンに分かれますが)、はどうでしょうか。
すなわち、写真は取るものの現物を渡すつもりは最初からなく、2か月後に115%返還する場合と、2か月後に115%用意できなくて、泣く泣く現物を送るケースです。
これらの場合は、実質的には、中古品を担保にした利息90%の貸金行為に該当しそうです。傍から見ると、借金以外の何物でもありませんから、年利90%は暴利な気がします。
ただ、写真を送って申し込んだ時点で、内心は物を送るつもりなんか無く、その物を担保にお金を借りるだけのつもりだとしても、利用者とCASHとの間にあるのは、キャンセル特約付きの中古品の買取契約でしかありません。
少なくとも、利用者の内心はさておき、契約時点で、契約上、お金を借りて(貸して)、一定の期日に利息付きで返します(返してもらう)という合意はどこにもないでしょう。
つまり、形式的に、これは金の貸し借りだから貸金業法・出資法違反だ!ということは出来ないと思います。
そうはいっても、形式上は中古品の買取でも、実質的には金の貸し借りなんだから、貸金業法・出資法違反だろ、という主張も考えられるかもしれません。
しかし、『実質的には』というなんとなくのマジックワードを付け加えれば、自動的に、形式的には中古品買取契約に、貸金業法や出資法が適用されるわけではありません。
つまり、実質的な貸金契約として貸金業法を適用するには、貸金業法を適用する実質的な理由が必要となります。
そこを考えてみます。
そもそも、何で貸金業法や出資法という法律があるのかと言えば、それは、金貸しが借り手の困窮に付け込み暴利をむさぼる恐れがあるからです。
金利を対価にお金を貸すのは良く、リスクに見合った金利は当然としても、放置しておけば、闇金のように、弱者に付け込みむしり取れるだけむしり取るという、資本主義経済における自由競争として放置しておける限度を超えた不正義が行われる可能性があるからです。
困窮した人に超高利でお金を貸せば、金利の支払いのせいで、ますます生活が苦しくなるという事態は容易に想像がつきます。
さすがに、それを自己責任と放置するわけにはいきません。
それが貸金業法や出資法の存在意義だとすると、写真を撮った手元にある中古品を送ればそれで解決するCASHのサービスにはそれらを適用する必要はあるんでしょうか。
私は個人的に無い気がします。
怖い人が家まで来て、金返せー、利息払えーとドアをドンドン叩き、さらにはいくら返しても元本が全然減らないなんて言う事態を防ぐためのものが出資法なのであれば、このCASHのサービスにおいては、手元の品をおくればそれで終わりなわけですから、実質的には貸金だ!として、出資法を適用する意味はない気がします。
だからこそ、ある意味実質的には貸金業なのに、従来から質屋営業には出資法が適用されないのでしょう。指定したものを渡せばそれで終わりという点で、抜け出せない負のスパイラルは想定されませんから、109.5%以上という、あまりに異常な金利でない限り、許容されると考えられているのだと思います。
長々と素人解釈を披露しましたが、なんとなくで「実質的には貸金業だから違法だ」というのは、実質判断の中身がなんとなく過ぎてあまり賛同は出来ないです。
貸金業法や出資法を適用する必要が無いんだから、実質的に考えて、適用しなくてよいのではないでしょうか。
以上から、CASHのサービスは、貸金業法や出資法違反ともならないと思います。
CASHの本質
確かに、CASHがグレーゾーンなのは間違いありません。
ただ、やってることは、グレーというより、白と黒の両方でもあります。
つまり、ごちゃごちゃ難しいこと言わずにポンと貸すから(優しい)、2か月で15%の金利払ってね(厳しい)、というところでしょう。
貸金業は、消費者金融も最近はずいぶんと簡易な手続きになったように宣伝していますが、実際にはいまだにごちゃごちゃ書類を記入したり、収入を証明したり大変なようです。
そして、事務作業が増えると、何が問題かっていうと、1件当たりのコストが高くなるから、少額の貸金業がなかなか面倒になります。
また、大手金融機関だと、担保の査定を厳密にしなくてはと無意識に思っているので、不動産以外ほとんどの物が査定不能で貸せませんとなってしまいます。
消費者金融に行って、ビンテージジーンズを差し出して、携帯代金の支払いがヤバいから5000円だけ貸してくれなんて言っても追い返されるだけでしょう。
他方、迅速に貸すという点では、闇金の右に出るものはいません。
しかし、暴利なだけでなく、現物弁済をなかなか認めずに、金利を散々膨らませてから、家にある金目の物を根こそぎ持っていたりします。
その点、CASHは少額ならポンと貸し、さらには、返せなくても最初に写真を送った中古品さえくれればそれでチャラにするということで、借りる側の生活を追い込まないような配慮もあるわけです。
ただ、その分、お金を返すのであればちょっと金利は高いよと。
ポンと貸す代わりに高利を取る闇金のような黒い一面と取引時点で明確にした一定以上は追い込まないという白い一面の両面を持っています。
これがCASHです。
CASHの意義
このサービス、マイクロファイナンスとして、非常に有意義なんじゃないでしょうか。
確かに、金利は高いです。しかし、そもそもが少額融資だし、現物での返済を明確に約束しているんだから、そこまで悪徳でもないというのはダメなんでしょうか。
結局、いまだに闇金が跋扈している理由は、真っ当な貸金機関の機能不全があるからなんだと思います。
そして、どこに機能不全の本質があるかというと、通常の貸金とマイクロファイナンスでは、適用すべきルールを分けた方が良いのに、うまく分けられていないということなんじゃないでしょうか。
既存の貸金ルールの借り手を追い込まないような配慮が、一部の消費者を守っている一方で、マイクロファイナンスの実現を困難にしているとも言え、闇金の被害者を作り出しているのでしょう。
そこで、ざるの査定でポンと貸し、しかも現物返済の約束をしてあげて、その代わり高金利。
そもそもが少額融資なんだから、手間暇かけずにポンと貸すのが大事です。しかし、当然その分高金利にならざるを得ない。
しかし、あらかじめ現物返済用の中古品を限定しておくことで、終わりのない負の連鎖にはならず、悪徳度は特に感じられない。
あとは、このビジネスが成立するとすれば、多くの買取目的利用者がゴミを不相応な価格で買い取ってもらえる代わりに、一部の借金目的利用者が不相応な高金利を払ってそれを支えることになるという点でしょうか。
しかし、これも、迅速にマイクロファイナンスをするという全体としてのシステム維持に必要な犠牲ということで正当化されると言ってはダメなのかな。
いずれにせよ、今まで既存のサービスが満たせなかったニーズを満たす、非常に有意義なビジネスだと思います。
ギリギリのところで、ほんのわずかな支払いのために闇金に頼ってしまい、真っ逆さまに落ちていく人を減らす可能性があるんじゃないでしょうか。
少なくとも、闇金から借りるのはやめましょうなんて言うスローガンよりははるかに効果的でしょう。
にもかかわらず、外形だけ見て、実態は質屋だ貸金業だ違法だという論調はどうかと思うわけです。
実質的判断
私が、この記事を書こうとしたのは、この問題に関する、とある弁護士先生の記事を読んだからです。
実質的に貸金業や質屋営業となる可能性があり、違法の疑いがあるなんてことを言っています。
ただ、その『実質的な判断』において、このビジネスの意義がまったく考慮されていません。
取引の外側だけ観察して、「これは貸金だー!」じゃなくて、貸金として関連法の規制に服させるべきかどうかを考えた上で、貸金とすべきなのかどうかの判断をするべきなんじゃないでしょうか。
法律が現実に追いついたことなどなく、だからこそ専門家がいるわけです。
専門家なんだから、法律のことしか知りませんではなくて、新しいビジネスの意義と本質を考えて、既存の法律を当てはめるべきか、それとも回避すべきか、その判断を披露してほしいと思うわけです。
このビジネスが、質屋にあたるか、貸金業に当たるかの、神のみぞ知る客観的で真実な答えがあるかのように想定して、一切の主観を排除してそれを追求するのが専門家の仕事なのだとしたら、そんな専門家は1分1秒でも早くAIに置き換えられてほしいです。
形式的には質屋でも貸金業でもなく、ビジネス的にも質屋営業法なり貸金業法なりを適用する必要もないのに(必要あると考えているなら別ですが)、『実質的な判断』を通して実態は貸金業としてそれらを適用して違法とするのであれば、その『実質的な判断』の意義は何なんでしょうか。
大きくみれば担保付きの貸金と言えなくもないですが、昔からある不動産担保融資とは全く性質の異なるものでしょう。
物を担保に金を貸すという外見だけの『実質的な判断』にもとづいて、十把一絡げに、2か月で15%は暴利だ、違法だと主張するのは、実質的なようで、形式的だと思います。
おわりに
今話題のCASHについて考えてみました。
良く思いつきますね、こんなビジネスモデル。
採算が取れるのかはわかりませんが、軌道に乗れば、間違いなく私たちの生活を激変させるサービスですから、今後が楽しみだし、頑張ってほしいです。
ただ、メルカリの記事でも書きましたが、辺境の地に海賊が登場すると、新しいものの意義を考えることなく、既存のルールで取り締まろうとする勢力が出現します。
新しい土地で新しいことをやっているのに、従来の土地のルールを新しい領土でもそのまま適用しようとするわけです。
もちろん、既存大勢力が、新天地をそのまま支配しようとするのであれば理解できますが、そうではなく、純粋に、既存の延長で新天地を捉えようとする人達も出てくるわけです。
いわゆる学歴主義の弊害ともいえるやつで、覚えた知識が金科玉条になって、結論が妥当かどうかは関係なく、必要はないけどそうせざるを得ない、それが法律論だ、みたいなことを言い出すわけです。
ただでさえ法律は社会の変化に不寛容なのに、専門家までそれじゃ、変わるべきところも変われずに社会は停滞してしまいます。
それにしても、査定がざるっていうのがすごいですね。
日ごろからアンチ金融機関の私ですが、文句いうだけで、こんなサービスは思いもよりませんでした。
いやーすごい。本当に感心。