たまには投資の話を。怪しくない範囲で。
目次
はじめに
今回は、iDeCoすなわち、従来は401Kなんて言われていた、個人確定拠出年金の話です。
iDeCoは大流行ですし、ネットの記事や本・雑誌なども出回っていますが、金融機関や商品の比較検討といった枝葉的な解説に終始しているものが多かったりします。
もちろん、そういった情報も有意義であることは間違いありません。
しかし、日本では欧米と異なり、投資に関する基礎教育がなされていませんから、多くの人が長期運用の基本を知らなかったりします。
様々な投資商品の特徴やリスクを検討していくのも重要ですし、iDeCoに対応した金融機関ごとに異なる口座管理の手数料や投資信託の信託報酬などのコストを比較するのも重要です。
しかし、年金資産という極めて大事な資産の超長期運用が対象ですから、あれこれいじるのも、まず長期運用の基本ともいえる大きなフレームワークを知ってからです。
そこで、この記事では、長期運用の基本を解説したいと思います。
iDeCoと定期預金
まずは、いくつか基礎的な解説をします。
基本的にiDeCoで投資対象となる商品は、定期預金か投資信託です。しかし、長期運用で定期預金というのは普通投資対象とはなりません。
リスクを取らず安定投資をするためには定期預金が良いのかというとそんなことはないのです。
定期預金にはインフレのリスクがあるからです。
iDeCoを定期預金で運用するというのは、利回りはほとんどありませんから、100円玉を、60歳になるまで絶対に開かない貯金箱に入れておくようなものです。
60歳になった時にその100円が出てきたら役に立つでしょうか。
今の100円を大事に貯金箱に入れて保管しておいても、20年後30年後には、缶ジュースが200円位になっている可能性はあります。つまり、お金をお金のまま保存する預金は、インフレが起きた時にその影響をもろに受けてしまうという欠点があります。
ここ20年くらい日本はデブレなので、自分が60歳になる時はもっとデフレになっているという未来にかけるのも一つの手ですが、それはローリスクではなく、ハイリスクの投資です。
デフレかインフレかという丁半博打にかけがえのない年金資産をかけるようなものです。
短期の投資で、無用なリスクを取りたくないというのであれば定期預金も候補ですが、20年30年といった長期運用においては、インフレリスクはかなり現実的な話ですから、その影響をもろに受ける定期預金は基本的に投資対象とはなりません。
定期預金というのは、経済危機が迫っている時などの緊急避難用の商品です。
インフレリスクが現実的なものとなる可能性のある超長期投資ではインフレリスクは取らないのが基本です。少なくとも、超長期運用では、定期預金=ローリスクではありません。
投資信託について
次に投資信託ですが、大きな二つのタイプを知っておく必要があります。
パッシブ型とアクティブ型です。
パッシブ型というのは、ある経済指標をターゲットとする投資信託です。インデックスファンドは同じ意味と捉えてよいと思います。
投資信託というのは、運営者がそのポリシーに合わせて、株式や債券といった複数の証券を組み合わせるのですが、その組み入れ証券の選択や保有割合に関するポリシーとして、ある市場の平均値に狙いを定めるというものです。
具体的に見ていくと、株式の投資信託だと、日本株インデックスファンドがあります。
これは、日本株の中から特定の株式をピックアップして持つのではなく、万遍なく持ち、日本の株式市場全体と同じ値動きを実現しようとするファンドです。
これは、短期的に見たら、日経平均が上がる時も下がる時もあるかもしれないし、雪印のように大企業が倒産する可能性もあるかもしれませんが、日本全体で考え、20年30年の長期的視野に立てば、全体的には成長していくだろう、という視点で投資する時の対象となる投資信託です。
内訳の個々の企業を個別的に見ていくと何が起きるかは不透明ですが、大企業何百社の株で平たん化しておけば、市場全体の平均は成長していくだろうという方針を持ったファンドです。
したがって、今東芝が粉飾決算で非常に問題になっており、当然東芝の株価下落を受けて日経平均はその分だけ下がっているわけですが、それを受けて東芝を売ったりはしません。とにかく、日本の上場企業株式を万遍なく持って、日経平均との連動を機械的に維持し続けます。
パッシブファンドの運営者が、「さすがに東芝はやばそうなので保有比率を減らしました」なんてことはありません。そういった、ファンドマネージャーの手腕に運命を託すのではなく、特定の市場の平均値になるように機械的な運用をするのがパッシブファンドです(今すぐにでもAIで運用可能)。
その逆がアクティブファンドで、特定の経済指標を上回ることを狙います。
例えば、日本成長株ファンドなんて言うファンドがあります。
これは、ファンド運営者が、これから伸びそうだという優良会社をピックアップする反面、今は大企業でも今後成長が鈍化しそうな企業は外して、日本の成長期待企業の株式からなるファンドを組成して、日経平均を上回ること狙いに行くわけです。
しかし、うまく行くか行かないかは運用者の腕次第で、世界的な不況の中で利益を上げる可能性もあれば、世界的には好況なのに見込み違いで損する可能性もあります。アベノミクスのような日経全体が上がっていく中で、肩入れしていた特定企業が不祥事で暴落し、全体としては下がるかもしれません。
経験の長い目利きのファンドマネージャーが厳選した成長株なんて言いながら、AIとかフィンテックとかビッグデータなど、流行の単語が踊るそれっぽい企業を適当に買っているだけの可能性は大いにあります。
丸々AmazonやらAppleやらにつぶされて大損する可能性は否めず、当然、損してもそのファンドを選んだ自分の責任になります。
パッシブファンドとアクティブファンドでは以上のような違いがありますが、機械的な運用をするパッシブファンドに比べて、アクティブファンドの方がファンドマネージャーの腕に依存するので投資家が運用会社に払う手数料(信託報酬)は高くなります。
利回りが2%でも信託報酬が0.5%であれば実質的に利回りは1.5%ですから、信託報酬は低いに越したことはありません。
さて、長々とイントロを話してきましたが、ここからが本題です。
長期運用の基本と金融機関
iDeCoのような長期運用においては、余計なリスクを取らない一方で、お金を寝かせるのではなくて投資する以上、安定的な利回りを上げることが重要です。
そのために絶対に頭に入れなくてはいけないことが一つあります。
それは、地球全体では成長は続いているということです。
アメリカ、ヨーロッパ、日本、これら先進国の未来についてはいろいろな予測があります。
AIや仮想通貨などの新技術によって、先進国はますます成長していくという意見もありますが、先進国はどこも、普通に暮らしていくには困らないモノ余り状態で、今までのような成長が続くかどうかは不透明という意見もいたるところで聞かれます。
しかし、アジア、アフリカ、中近東、南米に目をやれば、成長の余地はいくらでもあります。まだまだ未発達の部分はいくらでもあります。
これからも、荒れた土地の農地化、高速道路や電車の整備、IT環境の整備、高層ビルをはじめとした都市の構築、ダムや発電所の建設など、間違いなく豊かになっていきます。もちろん、局所的には戦争や内戦がおこるでしょうし、どこの国がどれだけ成長するかはわかりません。
しかし、世界全体の平均生活水準が少しずつ成長していくのは、自分が60歳になる時に核戦争でも起きていない限りほぼ間違いないと言えます(断言はできませんが)。
つまり、長期投資という観点に立って一番リスクを取らずに安定利回りを実現するには、経済予測の一切を捨てて、地球全体に分散投資をすればよいのです。
東南アジア・南米・アフリカの新興国への投資は、先進国と比べてリスクがあるなんて言いますが、それは短期の話で、投資機関が20年30年になると、新興国に一切投資しないのがローリスクとは言えません。
そういった世界全体への投資が長期運用の基本であり、それができる商品を扱っている金融期間を選ぶのが重要です。
セゾン投信の超分散投資商品
では、そのような世界全体に分散投資する商品はあるのでしょうか。
じつは、日本では今のところ一つだけあります。
それは、セゾン投信という、2種類の投資信託しか扱っていない会社が出している、セゾン・バンガード・グローバルバランスファンドという商品です。
これは、日本株、アメリカ株、ヨーロッパ株、アジア株、南米・アフリカ株、日本債券、米国債券、ヨーロッパ債券のそれぞれインデックスファンド(市場全体に投資するファンド)を組み合わせた投資信託で、組み入れ比率は、各市場の時価総額の割合で組み入れるため、まさに地球全体への投資を実現する組み合わせになっています(もちろん、世界全ての国の株式を全部持っているわけではない)。
日経平均とか、S&P500(米国平均みたいなもの)などの特定の市場全体に投資するインデックスファンドは結構あるのですが、世界全体の平均を目指すファンドというのはなかなかなかったりします。
しかも、バンガードグループという分散投資の世界最大手のファンドを組みあわせて、世界全体への投資を実現を目指す、安定的な資産形成に特化した非常に良い商品です。
では、この投資信託をiDeCoで買える金融機関があるのかという点ですが、これまた、一つだけあります。
セゾン投信は独立系の投信会社で、通常金融機関は系列グループ会社など、お友達がやっている投資信託しか扱わないので、独立系のセゾン投信なんて扱うところは絶対ないだろうと思っていたのですがありました。
それは楽天証券です(ちょっと見直した)。
ネット証券なんていったところで多くが大手金融グループの傘下みたいなもんですから、なかなか独立系のファンドは取り扱えないのですが、SBI証券と楽天証券だけは、バックにメガ金融機関に負けない規模のグループが控えているので、しがらみ無しで厳選商品を揃えています。
したがって、一つの投資信託で世界全体に投資をしたいのであれば、楽天証券にiDeCo口座を作って、セゾン投信のグローバルファンドに100%投資するのがお勧めです。
ここまで、手放しでほめてきたのですが、実は、セゾン投信のグローバルファンドにも弱点があります。
セゾングローバルの弱点
セゾン投信のグローバルファンドの最大の弱点、それは、信託報酬(投資家が運用会社に払う手数料)が約0.7%の点です。
これは高くはないのですが安くもないです。特に、目利きのファンドマネージャーが優良株を厳選してなんてやっているわけではなく、各市場の時価総額に応じて、世界全体に機械的に運用していることを考慮すると高いです。
具体的に検証すると、セゾンのセゾン・バンガード・グローバルバランスファンドは、大まかに言うと、債権と株式で、日本、先進国、新興国を、2×3で6種類組み合わせています(アジアも新興国に入れるとして)。
そこで、それぞれ揃えて自分で組み合わせれば似たようなものが出来るわけです。
6種類全部そろう金融機関は少なく(これは絶対に選べるとこところが良いです)、外国株式インデックスとか外国債券インデックスとかいった場合の外国は先進国をさしていて、新興国が含まれないのが通常なので注意が必要です。
6種類そろう代表として例えば最大手の野村證券の信託手数料。
日本株インデックス:約0.2%
先進国株インデックス:約0.3%
新興国株インデックス:約0.8%
日本債券インデックス:0.2%
先進国債券インデックス:0.6%
新興国債券インデックス:0.7%
ほとんどが0.7%以下です。
地球全体の平均ですから、日本:先進国:新興国を10:70:20として(ちょっと日本びいきですが)、リスクを抑えるために株と債券を半々とすると、約0.5%になります。なお、先進国分は株・債券共に野村が安すぎで、他の金融機関ではもっと高いと思います。
信託報酬というのは毎年運用額に対してかかるわけで、大まかに言うと、世界全体の成長率が2%だとすると、運用利回りは1.5%か1.3%かという差になります。
金融機関選びの分岐点
以上を考えると、セゾンのグローバルファンドが便利のようでハイコストで、他の金融機関で同じような組成を実現する方が安く済むかのように見えます。
しかし、実はこの方法にも問題があります。
それは、例えば株と債券の割合はリスクを抑えるために50%ずつの決め打ちで行くとしても、その内訳をどうするかです。
例えば、現在の時価総額などを参考に、日本:先進国:新興国で10:70:20の割合で自分の年金資産を組成するとします。
問題は、20年後30年後に、同じ割合なのかどうかという点です。
もちろん、iDeCoは、資金を引き出せないだけで、投資割合を途中で変更するのは可能ですから、定期的に世界全体の経済状況を見直して、組成割合を微調整するという手もあります。
しかし、セゾンのグローバルファンドだと、ファンド側で常に調整してくれているわけで、自分の年金資産はいつでもバランスの取れた状態になっています。
手間がかからない反面、手数料が高くなっているわけです。
一つですむグローバルインデックスファンドを扱っている金融機関にするか、信託報酬の安い商品を幅広くそろえている金融機関にするか。
ここら辺は、正直、iDeCoにどれだけ投資するのかという意思決定次第とも言えます。
つまり、iDeCoの持つ税金上のメリットを最大限に生かそうと、頑張った金額を毎月積み立てていくのであれば、定期的に内容を見直すことは必須ですし、手数料は少しでも安い方がよいので、多少手間がかかっても手数料が安い方が良いでしょう。
しかし、60歳まで一切引き出せないというのは、それはそれでかなりのハイリスクですから、60歳まで引き出せない金庫に入れても良いだけの余裕資金のみを積み立てていくのが基本です。
いざとなったら解約できる教育保険や年金保険とちがって、iDeCoの場合、自分が死亡しない限り基本的に引き出すことは出来ません。
したがって、税務優遇は魅力ですが、あくま様々な投資のうちの一つのオプションとして、超安定的グローバル運用を方針に、基本的に放置で行くのが良いと思います。
60歳まで引き出せないiDeCoに、あれこれ見直したりしなくてはいけないような金額を投資する方がリスクです。
そう考えると、信託報酬(実質的には手数料)が0.1%くらい高くても、グローバルなインデックスファンドに余裕を持った金額を丸投げして放置しておくのが、超長期運用としては筋が良いと思います。
いわゆるバランス型商品
どこのiDeCo対応金融機関にもバランスファンドとかDCファンドといった商品が用意されています。
これは、客側であれこれ組み合わせなくてよいように、年金資産運用、つまり超長期運用という観点から、1個でバランスよく運用できるように組成されたファンドです。
ただ、バランスよく分散投資とうたっているのですが、要注意で、必ず中身を見る必要があります。
たいていの場合、グローバルな観点からバランスよく外国投資を組み合わせてなんて言いながら、国内投資50%外国投資50%みたいになっています。
しかし、世界全体の経済規模に日本が占める割合は10%以下で、将来的には5%以下ですから、全然バランスよくなかったりします(まあ、日本の金融機関が組成する以上、いろいろお付き合いがあるのでしょうけどね)。
終わりに
iDeCoとかNISAとかおすすめ金融機関とかおすすめ商品とかいろいろと投資の話は聞くのですが、長期運用の基本中の基本である、地球全体へのインデックス投資という話はなかなか目にしないので書いてみました。
一つの参考になれば。