なぜ原油の先物価格はマイナスになったのか


先物取引の基本を少々。

先日、原油の先物価格が史上初のマイナスとなってニュースになっていました。

この背景のからくりは簡単で、コロナの影響による世界的な原油の需要不足により、生産がそんな急に止められない中で貯蔵設備が一杯になってしまい、生産者側からすると「お金払うから取りに来てくれ」という状況になったということです(まあ原油にもいろいろあってそのうちの一つがマイナスになっただけですが)。

まあ、これで納得できればそれで終わりなんですが、金融屋がやたら勧めてくる先物取引というものを、なんとなくで知っている人からすると、だからと言って、なんで先物価格がマイナスになるのか、あれって金融取引なんじゃないの?って疑問に思う人もいるかもしれないので、そこをつなげてみます。

理由を最初に言うと非常に簡単。

先物取引においては現物の受け渡しが原則

だから。

ただ、これは取り扱い注意。

私は、証券会社で勤めている時にこれをよく言っていたのですが、個人的に、証券会社に勤めているからみんな金融商品に詳しいとは限らないんだなと実感した典型例で、システム関係、バックオフィス、ミドルオフィス、さらには、それとは別の軸で、MBAホルダーとかでも、否定してくる人が多い(トレーダーとこの話をしたことないからわからないけど、トレーダーでもいそう)。

そんなバカな、何をおかしなことを言ってるのだと。

アイツは先物取引のことを何にも知らないと。

先物取引は差金決済が原則で、現物の受け渡しなんて聞いたことがない。

などなど。

もちろん、その通りなんだけど、そうはいっても、

先物取引においては現物の受け渡しが原則

です。

そこを説明してみます。

まず、あるパン屋さんがいて、12月末に、小麦粉の価格が暴落していて、適当ですが、500円/トンだっとする。

そこで、パン屋が、今のところ在庫はあるけど、3月末にもどうせ小麦粉が必要になるし、今の価格で買えたら得だからと、粉屋に対して3月末に1トンを500円で売ってくれないかと相談する。

そうすると、粉屋としては、イヤイヤちょっと待ってくれと、今はたまたま暴落しているだけで、もうすぐ値上がるのは確実だから、3ヶ月先の受け渡し分を今の価格で売る約束はできないと。

そして、でも600円なら契約してもいいよと。

それを受けてパン屋が言い返すわけです、いやいや、値上がりするかどうかは分からないし、3か月で600円までは上がらないだろと。

それなら550円でどう?と交渉が始まる。

550円ならある程度は値上がりを見込んでいるし、今の時点で3か月先の契約ができるんだから、それでいいじゃないかと。

そして、よし分かったと、粉屋が了解したとする。

この場合、実際に3か月経過して3月末になったときに、両者は550円と小麦粉1トンを交換するわけですが、もしその時の小麦粉の価格が500円のままだったら、パン屋としては50円損したことになるし(粉屋は50円得した)、逆に、小麦が値上がりして600円だったら、パン屋は50円得して粉屋が50円損したことになる。

とはいえ、両者とも、12月末の時点で、3か月先の価格変動のリスクから解放されたことになるわけで、お互いにメリットがあったと言えます。

これを先渡さきわたし契約と言います。

先物ではなく先渡です。

将来、お互いに損するか得するかわからないけど、双方ともほどほどのところで手を打つことで、互いに価格変動リスクから解放されます。

しかし、先渡契約というのは、相対あいたい取引(店頭取引と同じ意味)、すなわち、この場合で言うと、パン屋と粉屋が会議室で契約書を交わす話です。

専門の弁護士に頼めば、ある程度は標準化された契約書が出てきますが、あくまで双方の合意なので、契約書で細かくいろいろ決められる反面、細かく決めなくてはいけない。

また、三か月後にどちらかが、お金を用意できないとか、小麦を用意できないとか、いろいろ問題が起こる可能性があります。

あと、2者間の合意ですから、3か月の間に、実際の小麦の価格の動向を見て、どうやら自分が損しそうだ、しかも日に日に損が増えていく傾向が見て取れる場合に、やっぱりやめようとか、現時点での見込み損を払うからここで終わりにしてくれとかは、相手が自主的に応じない限りできない。

そこで、先物取引というものが登場します。

つまり、契約を標準化して、取引所が間に入るわけです。

取引所が、「小麦1トンを3月末に受け渡し」といった標準商品をつくって、例えば12月末から買いたい人と売りたい人を募集するわけです。

そうすると、12月末時点での小麦の価格と3か月後の経済の見通しに基づいて、3か月後の売買の約束が成立します。

具体的に考えると、12月末で小麦が500円/トンの場合、取引所で、3か月後の3月末という未来の小麦の売買について、買い手は、1トン分510円なら買う約束してあげるという注文を提示し、逆に、売り手側も550円なら売る約束してあげるという注文を提示し、双方に動向を見ながら歩み寄り、550円で約定が成立した場合、この550円を先物価格と言います。

そして、この場合、

買い手の持つポジションを買い建玉たてぎょくもしくはロングと言い
3月末に小麦粉1トンを550円で買う権利と言うより義務

売り手の持つポジションを売り建玉たてぎょくもしくはショートと言い
3月末に小麦粉1トンを550円で売る権利と言うより義務

というポジションを双方が持つことになります。

あくまで3か月後の取引の約束ですから、約定したところで何も起こりません。

そして、先渡取引と異なり、先物の場合、標準化されていて、間に取引所が入っているので、いつでも持っているポジションを解消できます。

例えば、買いの建玉を持っていて、3月末に550円で買わなければいけない人が、12月末はそれでいいと思ってたのに、2か月後の2月末になって3月末が近くなってきたときに、だいぶ見通しが立ってきたなかで、530円位に価格が落ちていて、しかも3月末には510円くらいまで落ちそうというときには、2月末時点で530円で売る約束をすればいいわけです(誰かが買うわけですが)。

そうすると、2つ合わせれば、3月末に小麦粉を1トン買って1トン売る、要するに小麦粉に関しては何もしないことになる反面、550円で買って530円で売るということになり、20円払うことで、取引を手仕舞うことができます。

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20円の損確定ですが、3月末まで持っていれば、510円まで価格が落ちて、510円の小麦粉を550円で買わなければいけない可能性が濃厚になったわけですから、最終的にどうなるかはわからないとしても、40円損する可能性は回避したわけです。

このように、先物契約だと、商品を標準化して、取引所が間に入ることで、多数の買い手と売り手が同じ条件で参加できるため、取引が活性化します。

誰でも、いつでも買いから入ることも売りから入ることももできますし、いつでも反対売買をしてポジションを手仕舞うことが出来ます。

都度、相手を探して契約書を交わしてなんて、先渡契約のような面倒なことをしなくても、買い注文と売り注文の状況を見ながら、スムーズに相手を見つけて、将来の価格変動リスクをヘッジすることが可能になります。

特に、最終日までに反対売買をして取引を手仕舞うことで、実際に小麦粉を用意しなくても取引に参加できますから、日々の先物価格の上下から一儲けしようとする人たちが多数参加することで、取引のボリュームが増え(流動性が増え)、結果として、適時にその時点での時価で新規ポジションを保有することや、保有ポジションの解消が可能となり、本当に小麦粉を売買したい人達も恩恵を受けることになります。

(さらに、限月まで待つことなく、取引参加者は毎日自分のポジションの時価の変動分を清算しなくてはいけないので、信用リスクがなく、突発的な大暴落とかが起きても、取引所(+精算機関)が間に入っていることで、拠出基金を使って持ちこたえられる)

このように、商品を標準化して取引所取引とすることで精算を円滑にして信用リスクを減らすことで、多数の投資家が参加できるようにして、市場の流動性を高め、価格変動リスクをヘッジする取引が円滑に行える環境を整備し、経済を支える基本商品の流通の確実性を高めることが、先物取引の存在理由です。

さて、そんな先物取引ですが、3月末に550円で小麦粉を1トン買う義務という買い建玉を(もしくは逆の小麦を売るという売り建玉を)、同量の売りによる手仕舞いをしないで、保有したまま3月末を迎えたらどうなるか。

実は、本当に小麦の受け渡しをしなくてはいけないのです。

売り手は小麦を渡さないといけないし、買い手は小麦を受け取らないといけない(倉庫証券を受け渡したりして、消費税がかかったりする)。

もちろん、プロの取引参加者の場合、現実には限月までに反対売買をして手仕舞うのが100%です。

本当に小麦や天然ゴムなどを扱っている商社ですら、先物などをやっている部署と、実際の現物の売買をやっている部署は別物ですから、「先物で手仕舞わなかったから現物を受け渡しておいて」なんてやり取りが起きることは面倒この上なく、起こり得ません。

また、日経225のような、平均株価などの経済指標を取引するようなものの場合、受け渡しは現実的には不可能ですから(まあ、ポートフォリオを受け渡すのは不可能ではないですが)、最終日の清算価格というもので、強制的に差金決済されます。

さらに、現物の先物取引でも、証券会社に口座を開いて、パラジウムの先物をしたとしても、決済方法で現物受け渡しを選べる証券会社は非常に限られていて、事実上個人なんかは差金決済を強制されます(金地金は現物決済できるとこ多いかも)。

要するに、先物取引で現物の受け渡しなんて、現実にはほとんど起こらないわけです。

また、先物取引というのは、金儲けが目的で小麦粉などの現物そのものにはまったく興味がない人がたくさん参加しており、現実的にはむしろその人たちこそがメインプレーヤーといえます。

しかし、実質はさておき、本来的には賭博場ではなく、存在理由は、本当に小麦を売買する人たちのリスクヘッジを円滑化して、社会を支える基本商品の流通を確かなものにすることです。

そのために、絶対にはずせない条件があって、それは、上述の12月末(1月1日?)にスタートした3月末が限月の取引で言うと、3月末には先物価格が現物価格に収束しないといけないわけです。

12月末時点では、3月末限月の先物価格と12月末の現物価格は乖離していますが、3月末に近づくにしたがって、両者は近づき、3月末当日には一致しないといけないわけです(アービトラージができないといけない)。

そうでなければ、金儲けしたいだけのデイトレーダーには関係なくても、本業で小麦を扱っている人の役に立たないからです。

それがどういうことかと言うと、現物の受け渡しが起きることなんかないと言っても、なんとなくで、「小麦粉」なる架空の商品の売買をしているわけではないということです。

仮に取引参加のルールとして強制的な差金決済が用意されているとしても、現物がある商品については全て、受け渡しについて取り決めが規定されています。

オレンジジュースなら、カルフォルニアさんの何等級で、糖度何%のものを、デラウェア州の倉庫で引き渡しとか、そういう細かい取り決めがあります。

だからこそ、先物価格というのは現物価格に最終的に収束するし、だからこそ、本業で取り扱っている人たちの役に立つわけです。

したがって、日経225みたいな完全架空な商品はさておき、現物が存在する先物は、全て、受け渡しの詳細が定められています。

それは、現実的に現物受け渡しが起こり得るかどうかとは無関係で、もしそれを決めていなければ、役に立たないからです。

もちろん、上述のオレンジジュースであれば、各メーカー本当に必要な商品は各社各様ですから標準商品の受け渡しをしても意味がなく、だからほぼ100%反対売買で限月前に手仕舞うわけです。

しかし、オレンジジュースの等級ごとの価格は連動していますから、現物のどれかと一致していればヘッジ取引に利用することが可能です。

このように、先物取引という取引の本質上、受け渡しまで考慮して商品は設計される必要があるのです。

だから、

先物取引においては現物の受け渡しが原則

なのです。

そして、現物の原油取引において、お金払うから原油を取りに来てという状況が発生しそうとなったから、先物価格にもそれが反映されたわけです。

先物というのは、ハイリスク・ハイリターンの投機的な金融商品という側面ばかり強調されるがゆえに、何か架空の指標をやり取りしているイメージがありますが、現物の受け渡しの発生が現実的か否かとは関係なく、先物価格というのは現物価格に最終的に一致するようにきっちりと設計されていて、その結果、現物商品の取引状況に応じて、マイナスにだってなるわけです。

これこそ先物取引の一番の基本だと思うわけです。