転売屋の規制の話


コロナウイルスの猛威と同時に転売屋も猛威を振るっているようです。

ネットを見ると、マスクも、携帯用ウェットティッシュも、手指用の消毒液も正規品は全部売り切れで、その一方で、メルカリなどのフリーマーケットサイトでは、高値で転売されています。

要するに、人気商品になりそうなものは何でも、早い段階で目鼻の利く転売屋が買い占め、フリマサイトで高値で転売をして利益を出すというサイクルが出来上がってしまっています。

最近は、『鬼滅の刃』という漫画が人気ですが、人気過ぎて、発売と同時に街の書店から単行本は姿を消すどころか、アマゾンや楽天などからも姿を消します。

アマゾンなどを見てみればわかるように、予約をしない限り定価での入手は不可能で、定価販売の在庫はどこにもありません。

これも、全て転売屋が買い占めて、メルカリなどで高値転売するためです。

もっとも、『鬼滅の刃』に関しては、紙の単行本には、「10種類の中からランダムな1枚の限定ポストカードが入っている」なんて特典をつけたりするため、大量に買い占めて、ポストカードを全種類揃えて高値で販売したりする一方で、特典を抜いた単行本は定価よりも安く売るなんていう、うまいやり方も可能です。

転売が散々問題になっているなかで、あえてそういったやり方を容認するような出版社のやり方自体、電子書籍に流れがちな傾向の中で、子供たちに単行本をコレクションする楽しみを覚えさせようとする紙出版業界の陰謀だと思うので、まあ、どっちもどっちなわけですが、その結果、発売日にフラッと書店によって買うなんてことはできない状態になっています。

他にも、最近では、野崎のコンビーフが缶をリニューアルすることを発表し、従来の鍵でクルクル巻き取る缶を廃版にすると発表した瞬間、街からコンビーフが消えて、メルカリはコンビーフであふれかえることになりました。

このように、今は、限定商品やら品薄が見込まれる商品が登場すると、全て転売屋に買い占められてしまい、本当に欲しい人たちが正規の値段では入手できない状況が生まれています。

まあ、これも自由経済の一環とは言え、転売目的でのマスクの買い占めなど、いい加減看過できなくなっているいるんじゃないかと思うのですが、なかなか転売屋の規制は進みません。

さすがにマスクについては、各種フリマサイトの規約が改定になって、転売が出品が禁止されたらしいですが、そういった商品別の個別的な制限ではなく、フリマアプリ側からすれば、こいつは転売屋だというのは分かるわけですから、強権振るって悪質なアカウントはどんどんアカウント停止処分にしていけばいいと思うのですが、なかなか、やらないようです。

それは一体どうしてなんだろうと不思議に思ったわけですが、たぶん、市場の取引のほとんどが転売屋たちの取引で、転売屋を制限したら、フリーマーケット市場自体(運営母体の経営も含め)成立しなくなるのかもな、と思うようになりました。

転売屋を規制すると、フリーマーケット自体が成立しなくなるのかもしれません。

その原因を考えるときに、重要な概念が、アービトラージャーとデイトレーダーの二つ。

アービトラージャーというのは、アービトラージを行う人のことで、アービトラージとは裁定取引のことです、

まあ、普通は、その裁定取引ってなんだよとなるのわけですが、具体例を挙げた方が分かりやすいです。

東京市場で、1ドル100円、1ユーロ120円、NY市場で1円0.01ドル、1ユーロ1.2ドルとか、リアルタイムで市場は動くわけですが、そういったニュースを見て、うまいことやると、円をドルにして、そのドルをユーロにして、そしてそのユーロを円に戻すと、元の金額より高い金額になって、儲けられるのではないかと思ったことがある人も多いかと思います。

そういった取引を裁定取引というわけですが、実際の為替市場では、やるのはほぼ無理です。

とは言え、各市場も、そこでの個別的な取引の結果としてレートが決まるわけで、無数にある通貨の交換比率を誰かが統一的に決めているわけではありません。

なのになぜ素人が裁定取引をすることが難しいかと言うと、そもそも、売るにしろ買うにしろ多額の手数料を払わなくてはいけないというのが一番の理由ですが、手数料を抜きにしても、市場では、アービトラージャーという裁定取引専門のプロがいて、ちょっとでも歪みが出ると、秒速どころかコンマ秒の単位で取引をして儲けるからです。

そのアービトラージャーのお陰で、結果的に我々が各通貨の交換比率をみると、どうやっても、コロコロ転がすだけでは利益が出ないような価格になっています。

(確かJPモルガンが有名だった気がする)

金融市場には、こういったアービトラージャーがいるため、複数の市場間で調整せずとも、同じものは同じ値段がついており、すなわち、どこで買うかで損するなんてことはなく、ある意味健全な市場が出来ているわけです。

これがアービトラージャー。

もう一つは、デイトレーダー。

これはみんなよく知っているように、株のトレーダーが有名ですが、ハッキリ言って、各企業がどんなビジネスをやってるかなんて知りもせずに、株価のチャートだけ見て、毎分毎秒と、売ったり買ったりして利益を出している人たちです。

ある株の株価が上昇中と聞けば、一斉にイナゴのように群がり、ちょっと上がり過ぎと気づくと、一斉に引いていくので、株価を乱高下させる原因そのものです。

ある企業がワールドビジネスサテライトなどで紹介されると、なんとなく興味を持った人がその会社の株を翌朝買ったりするわけですが、朝一である銘柄の株価が上がったなんて動きがあるとすかさずワーッと押し寄せて、その結果株が急上昇し、ストップ高なんてなります。

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そして、どこか大口が、もうこれくらいでいいだろと、持ち玉を売却して利益を確定したりすると、一斉にみんな売り始めて、株価は一気に急降下したりします。

企業側からすると、こういうトレーダーというのは、投資家とは言え、あまりうれしいものではありません。

本当は、企業の決算書だけでなく、経営方針などに理解を示し、この会社は将来的に成長するだけでなく、社会に貢献しそうだから応援しようと、長期的な視点で投資してくれる投資家こそが望ましい投資家です。

企業の中身を分析せずに、日々の怪しいニュースやチャートの動きに一喜一憂して、目先の利益だけを考えて売買を繰り返すトレーダーたちは、迷惑ですらあります。

しかし、このトレーダーたちが市場の「流動性」を支えているという事実もあります。

株式投資の最大のメリットは、現金が必要になった時にはいつでも換金可能な点にあります。

このような、売りたいと思ったときにすぐに買い手候補が見つかる、また逆に、買いたいと思ったときにすぐに売り手が見つかる状況を、流動性が高いと言いますが、まさに、毎日チャートとにらめっこしながら売ったり買ったりを繰り返しているトレーダーたちこそ、市場の流動性を支えています。

つまり、上場企業が低コストで円滑な資金調達ができるのも、投資家が機動的な投資をできるのも、デイトレーダーたちが毎分毎秒無数の売買を繰り返すことで、誰でもどんな銘柄でもいつでも売買できる状況があるという、高い流動性を支えているからです。

そう考えると、目先の利益ばっかり考えているトレーダーの連中のせいで、市場ではしょっちゅう企業の実態とはかけ離れたミニバブルの発生崩壊を繰り返していると非難されつつも、結局は彼らに経済は引っ張られます。

例えば、企業の決算報告における四半期開示や時価会計なんて言うものは、まさに短期的モノサシでしかないわけですが、長期的視点に立つ投資家だけでは市場は整理しませんから、結果として短期的投資資料の充実を求める方向に動いています。

以上、長々と説明しましたが、要するに、アービトラージャーもデイトレーダーも、どちらかと言うと嫌われ者なのですが、彼等こそが、健全で流動性の高い市場を支えているという側面があります。

ここまで来るとわかるように、メルカリという巨大市場を支えているアービトラージャーやデイトレーダーは、転売屋なわけです。

メルカリでは、出品した商品の過半数が24時間以内に売れ、そうでないものは長期戦覚悟と言われています。

そして、その短期売買成約率の高さこそがメルカリの魅力ですが、素人が不要になったブランド品などを出品した瞬間売れるのは、その品を欲しくて探していた人が全国のどこかに偶然いたわけではもちろんなく、素人が、まあお小遣いにでもなればと低めの価格をつけた瞬間に、転売屋がアービトラージャーとして秒速で買ってくれるからです。

また、どの転売屋も得意ジャンルとかはあるんでしょうが、基本的に取り扱う商品のジャンルは幅広く、それがなんであれ、割安と思った商品には手を出して、あらゆる出品に24時間体制で目を光らせているからこそ、どんなものでも、価格さえちょっと我慢すればメルカリで売れないものはないとまで市場が成長したわけです。

そして、転売屋が幅広く転売にまい進できるのも、限定商品や品薄品の買い占め&転売という、確実に利益を出せるジャンルでしっかり利益を稼いでいるからこそであり、その余裕があるから、ある程度の長期戦になりそうな商品でも割安と思えば仕入れておくなど、利益率の追求だけでなくボリュームにも配慮した一定規模の転売事業ができるわけです。

株式市場を支えているのが、長期的視点に立った善良な投資家ではなく、超短期志向で稼ぐトレーダーたちであるかのように、メルカリのようなフリーマーケット市場を支えているのは、不用品を投げ売り価格で出品する善良なユーザーではなく、24時間体制で出品をモニタリングして手広く売買している転売屋なのかもしれません。

無数の転売屋のおかげで、一般人が不用品を出品したらあっさり換金出来て「メルカリって便利だよねー」と言えると。

だからこそ、転売屋の規制は進まないのかもしれませんね。

もちろん、転売屋自身の直接的な規制は難しくとも、マスクや消毒液の転売なんて規制すべきです。

そして、新発売の漫画やおもちゃなどを買い占めた上での転売も、規制できるのであれば規制すべきなんでしょうけど、口うるさい市場にしてしまうと、転売屋としては一番儲かる分野を失うことになりますから、転売屋自体がいなくなって市場が崩壊し、別のアプリにシェアを奪われるという結果になりかねず、なかなか足が重いのかもしれません。

各企業などが、発売から半年間はこの商品については定価以上では出品できないようにしてくれなどとリクエストを出せる制度などは良いかもしれませんが、コストが増える反面、あっさり別の抜け道が出来て、シェア(売上)が落ちるだけで終わるなんてことにもなりかねませんしね。

転売屋の規制というのは難しいのかもしれませんね。

また、憎き転売屋ですが、あの人たちが私たちにもたらしている恩恵も実は想像以上に大きいかもしれません。

憎き相手でも、今の経済社会、どこでつながってるかわかりませんから、簡単なようで難しい問題です。