新型肺炎で症状ない二人が検査に同意せず


強制はできない。

中国の武漢を中心に世界に広がり始めた新型肺炎で、昨日、チャーター便の第一陣が東京に到着したわけですが、そのうちの二人が症状がないからと言って検査を拒否したとのこと。

この件に関して、検査拒否した二人への批判は当然としても、強制隔離や検査の強制をしなかった政府や厚労省の対応を批判している人が多いのでコメントします。

結論から言うと、できないでしょそれは。

現状では。

だって、法律がない。

「指定感染症」に指定したところで、発症してるか、発症の疑いが強くない限り、政府としては何の強制もできないはず。

法律の根拠がないのに、個人の自由を制限したり義務を課すなんてできるはずがない。

三権分立の下、行政というのは独立していますが、国民主権の下では、国民の代表者による法律制定という形式の国民の同意なしに、行政が勝手に国民の自由を制限することなんて認めるわけにはいきませんから、国会で法律が制定されるのを待つ必要があり、法律の根拠がない行政活動はできません。

法律があっても、身体の拘束は厳しくて、だからこそ、任意同行を求めて警察が不審者を取り囲んで説得なんていう、限りなく黒に近いグレーな実務が横行しているわけです(事件の現場付近であっても、警察を見るなり逃げたというような「怪しさ」だけでは、逮捕はできませんし、交通事故起こした人の顔が赤くて酒臭くても、アルコール検査するまでは逮捕できませんし、その一方で、アルコール検査の強制は令状なしでできません)。

それくらい、憲法の保障する人身の自由は強力なものです。

チャーター便に乗る前に、検査に同意して、日本に着いてからやっぱり嫌だといった場合も、強制はできないでしょう(強制的な身体拘束を義務付ける契約は無効でしょう)。

法律の根拠がない限り、行政による人権の制約が一切認められないのは、現状では、緊急事態になってもそうです。

どんなに緊急事態でも、法律が無いのであれば、政府としては、衆議院と参議院の議論を経て法律が作られるのを待たなくてはいけません。

憲法改正の目玉の一つは、自民党の改憲案にも登場しますが、緊急事態条項の創設。

緊急事態条項というのは、戦争・自然災害・疫病の発生など一定の大パニックが起きたときには、行政つまり政府が、緊急で法律のような命令を制定して国民を従わせることができるという条項です。

緊急事態には、国会の法律なくして、政府が国民の人権を制約できることになる(もちろん、無制限ではなく、一定の制約があるわけですが、それをどう規定するかが難しい)。

今回の新型肺炎がそこまでの騒動にならないことを祈るばかりですが、現行憲法に緊急事態条項がないことは欠陥であるという意見は根強くあって、つまり、戦争や疫病の発生などの大パニックが起きても、政府がとっさの判断で強力な行動をとることは許されません。

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したがって、政府には、今回の騒動がどれだけ大パニックになっても、国会で衆議院と参議院の議論を経て法律が作られない限り、法律に規定のない強制隔離や強制検査(つまり人権の制約)を実施する権限はないです。

そして、緊急事態条項でググれば解説記事がたくさん出てきますが、そんなものを憲法で認めたら、政府が些細なことで緊急事態認定して国民の人権を安易に制約することになり、戦前に逆戻りだとか、ナチスの再来だとか、反対するものばかりです。

明治憲法には規定がありましたから、なおさらインテリたちが一斉にアレルギーを発症しているような状況です。

もちろん、安易な緊急事態条項を認めるわけにはいきません。

しかし、緊急事態条項=危険思想とレッテル張りするのはいかがなものかと思います。

今回も早速、緊急事態条項創設反対派が、安倍さんが、緊急事態条項を作るために(国民を賛成に誘導するために)、それがないから実効的な対応ができないかのようにわざと稚拙な対応をしていると陰謀論全開で批判しています。

緊急事態条項を作るとしても、今回の騒動が、現時点において、政府の緊急権限を認めるべき「緊急事態」と言えるのかという疑問があるので、今回の件をもって直ちに緊急事態条項の創設を主張するのは少し違うとも思いますが、この先どうなるか予断を許さない状況なわけで、国民が現行の政府の対応を批判しているというのは、議論自体がしっかりなされていない証拠ですから、今からでも議論自体はしっかりすべきと思います。

いずれにせよ、現状に関して言えば、できないものはできないので、強制隔離や強制検査をしないのはおかしいという政府批判は当たらないと思います。

もっとも、相手が検査に「任意同行」するまで、得意の「説得」を続ける余地はあったんじゃないかと思いますけどね

後は、解放後すぐあとつけて、信号無視で現行犯逮捕とか。

そういうのは得意だろうに。