流行しつつあるのを肌で感じています。
先日、ウーバーの創業者で元CEOのトラヴィス・カラニック氏(現在は会社を離れている)が、現在、「クラウドキッチン」という名前の事業に邁進しているというニュースをWSJの記事で読みました。
この「クラウドキッチン」という言葉は一般的な単語ではないと思いますが、要するにシェアキッチンのことと捉えていい気がします。
そして、そもそもシェアキッチンとは何かという疑問があるかと思いますが、それを考える上で、ゴーストレストランという存在は外せないので、そこら辺から解説してみます。
まずは、具体的な話から始めます。
先日、ウーバーの配達していたら、依頼が来たので引き受けると、住所と共にレストラン名が出ました。
レストラン名は『市場直送 鮮魚割烹X』
しかし、住所の近くに行ってもそんな店が無い。
あれっと思って、アプリをもう一度確認してみると、メモが書いてあって、「ピックアップは『居酒屋太郎』です」とあります。
あたりを見回してみると、ランチ時ということもあり、店の前に机を置いて弁当を売っている居酒屋があり、その名前が太郎だったので、お弁当を売っているお兄さんに「ウーバーです」と声をかけると、「はいこれ」といって、お弁当を渡されました(机に載せて売っていた弁当とは別のもの)。
つまり、『居酒屋太郎』は、ウーバーイーツ上では『市場直送 鮮魚割烹X』を名乗っているということです。
もっとも、2通りの可能性があります。
まず、『居酒屋太郎』は、そのままの名前だと、名前からして大衆居酒屋であり、どんなに美味しいものを用意しても、ウーバーイーツ上でグルメな人々の心をとらえることが難しいので、『市場直送 鮮魚割烹X』という専用のそれっぽい名前を用意して宅配をしている可能性。
しかし、別の可能性もあります。
まず、大衆居酒屋がウーバーイーツで需要が無いかと言えばそんなことはなく、焼き鳥セットとかサラダとおつまみセットとか、夜であれば結構出ます。
したがって、自宅飲み会向けのニーズのために、『居酒屋太郎』の名前でウーバーイーツに登録している可能性もあります。
しかし、それとは別に専用の洒落た弁当メニューを作って、それに関しては、『市場直送 鮮魚割烹X』の名前で販売している可能性もあるわけです。
つまり、同じキッチンで、2つの名前(2つ以上?)を使い分けている可能性があります。
この時、『市場直送 鮮魚割烹X』というのは、その看板の名前を出した店舗はなく、『居酒屋太郎』のキッチンで作った専用の弁当を『市場直送 鮮魚割烹X』の名前でデリバリーしているだけです。
この『市場直送 鮮魚割烹X』のようなレストランのことをゴーストレストランと言います。
しかし、この例は純粋なゴーストレストランとは言えないです。
実は都内には既に、上の例で言うと『居酒屋太郎』に当たるものが無い宅配専用業者がたくさんあります。
それがゴーストレストラン。
もちろん、『ドミノピザ』とか『銀のさら』とか、これまでも宅配専門の業者はありましたから、厳密にそれらとゴーストレストランを区別するのは難しいです。
しかし、ゴーストレストランという新しい単語ができる意味は少しわかります。
ウーバーの配達員なら皆知っている話ですが、ピックアップ先がビジネス街の一角の雑居ビルの2階とかで、不思議に思いながら階段を上がってドアを開けると、いきなりキッチンがあるだけの部屋があります。
そこで4,5人の店員が料理を作っては、ウーバーイーツだったり、出前館だったり、楽天デリバリーだったりに、渡したり、自分達自身で配達に出ています。
そして、そういうところは、ただ雑居ビルの一部屋で料理を作りまくっているだけですが、ウーバー上は複数の名前を名乗っています。
チャーハン専門店A、パスタ専門店B、サラダランチ専門店Cとか。
もちろん、その看板を出した店舗は何処にもないどころか、周りからはそこで料理を作っていることすらまったくわからない状況です。
その雑居ビルの一部屋で作った料理を色んな名前でデリバリーしているというだけです。
しかし、私の知っているところはいずれも立地が良く、港区の中の交通の要衝地にあるため、どこに配達するにも便利で大繁盛しています。
また、キッチンと大きなテーブルがあるだけで、おしゃれな内装やホール店員の雇用など何の設備投資もなく、1階の路面地でもないですから、相当初期コストを抑え込んでいるはずです。
これがゴーストレストラン。
なんかちょっと怪しい気もしますが、こういった感度の高いところは、店の人達自身が、楽天デリバリーや出前館などに加盟して自ら原付に乗って配達をしているということもあり、包装が完璧なのでトラブルもなく安心して配達できますし、立地も練られていてどこに配達に行くにも早いです。
配達員や客からの評判もいいんじゃないかと思いますし、実際にいつ行っても忙しそうです。
この形態、ウーバーイーツにより、料理デリバリーの大革命が進行しているような気がしますが、その流れを受けて大流行しそうな予感がします。
しかし、今のところ、特定の人というか企業が、物件を見つけてゴーストレストランを運営しているだけで、大企業によるドカンとした投資は出てきていません。
そして、この流れを受けて、プラットフォーマーになるべく、最初に書いたウーバー創業者のカラニック氏が推し進めているのがシェアキッチン事業です。
都心部の交通上の要衝にゴーストレストラン用の物件を買って、そこに料理教室のような感じでたくさんキッチンを作って、複数の宅配専門のレストランを入れるという構想です。
上のWSJの記事によると、世界中で物件を買いまくっているそうですね(最終的に物件の目利きが勝負を決める気がします)。
このシェアキッチンの1つを借りれば、宅配専門のレストランだけでなく、著名レストランなどが、ビジネス街の近くに、宅配専用の拠点を作ることができるようになります。
雑居ビルの一部屋に入ると、キッチンが10個くらいあり、メニューも何にもなく全てはアプリで管理されていて、デリバリー業者がそこから出来立ての料理を受け取って次々に配達するといった流れにすることで、物流センターのような効率化が測れるような気がします。
また、従来の飲食店に付き物の内装費用や人件費ほぼ不要です。
飲食店の開業というのは初期投資の大きさや物件選びの難しさから、開業後生き残れるのはごく僅からしいですが、そういった初期投資なくして、キッチンを一つ借りるだけで、宅配専門とは言えレストランをオープンできます。
また、一人一人は小さな個人事業主でも仕入れなどを上手くまとめることによってスケールメリットも出せます。
最近は労働環境や仕事のやりがいの話がよく話題になりますが、好きなことを仕事にするなんて夢物語というイメージがまだ強いです。
その点、料理というのは、独り立ちしたい修行中の人はたくさんいますし、プロに負けないくらいの腕前を持っている素人もたくさんいて、飲食業をやってみたいという人はたくさんいます。
シェアキッチン事業というのは、そういう人たちが、初期投資のために莫大な借金を背負うなんてことなしに、気軽に始められるインフラを提供するという側面があります。
現状、ウーバーは配車にしろ料理の配達にしろ、肉体労働という側面が強いです。
だから、現状その側面だけで語ることもできるため、搾取といった労働問題にされやすい。
しかし、個人の一人一人は誰もが、肉体だけでなく自分だけの特技のようなものを持っていて、それを発揮してビジネスにしたいと思ってるし、例え本業にならなくても、好きなことを仕事にするというのは楽しいものです。
そして、個人個人が持っているものを提供して、必要としている人と結びつけるというマッチングビジネスにおいて、最初に目をつけたのが、基本的な肉体労働というだけで、今後様々なマッチング市場が生まれることが予想されます。
その点、フードデリバリー市場の急成長が見込まれる中、その一方で料理人になりたい、独立してやってみたいという人は多いわけで、その意欲を実現するプラットフォームを提供すればビジネスになるという発想はいいアイデアだと思います。
本当に、ちょっとした思い付きなんでしょうね、ビジネスというのは。
もちろん、カラニック氏は、人助けがしたいわけではなく、プラットフォーマーとして莫大な利益を上げたいわけで、簡単に一人店長になれる半面、強烈にピンハネされるのでしょうが、好きなことを初期投資なしで仕事にできるんだから多少は我慢する、という構図が発生しやすいとも言えます。
したがって、搾取だなんだといった議論も始まるんでしょうが、現状料理人の世界は、修行がどうのこうのと、旧態依然としたブラック業界の見本のようなところですしね。
こうした自己実現をかなえるという側面を持つプラットフォームの成長は止まらないと思うなあ。
ということは、ソフトバンクはじめ、投資家たちの資金が一斉に流入しそうな感じもあり、バブルになりそうとも言える。
ずっと途中までこれはいいアイデアだと思って書いていたのですが、第2のWeWorkになったりして。
そんな気もしてきたな。
本質は、絶対にうまくいかないとされる不動産のサブリースでしかないし・・・
しかし、自由の代償徴収とやりがいの搾取が可能か・・・
さあどうなるか。