中国ドラマの『三国志 Three Kingdoms』を見た感想


全95話見てしまいました。

はじめに

日本人の三国志好きは有名で、日本で働く多くの中国人が、飲み会の場で三国志の話を振られ困るらしいです。

本場中国では漫画がないせいか、そこまで有名ではないみたいですが、そんな中国が2010年に総製作費25億円をかけて作った大型ドラマが、三国志 Three Kingdomsです。

全部で45分×95話あります。

これの日本語吹き替え版がYoutubeにアップされていたので、消される前にと思って全部見ました(画質は結構ひどいですが)。

まあ、ただの三国志なのですが、結構面白い発見があったので、感想を書いてみます。

なお、三国志を知っている前提で書いていますのでご容赦ください。

劉備の描き方

これが個人的には新鮮でした。

やっぱり中国人というのは現実主義者なんでしょうか。

曹操や孫権は劉備のことを、あいつは上辺だけの仁義の輩(やから)と忌み嫌うのですが、実際にそういう風に描かれているような気がします。

もちろん、仁義を通すところは熱いBGMがかかり、複数のエピソードでクライマックスとして扱われたりするのですが、どちらかと言うと優柔不断な主君として描かれており、天下を獲れなかったのは、時の運ではなく自業自得であるかのように描かれています。

このドラマでしか三国志を知らない私の妻は、ドラマを見ながら終始劉備にイライラしていて、無能な君主に映ったようです(彼女の性格もありますが)。

その一方で、曹操が見せる冷酷さに関しては、必ずその裏に実利的な配慮があることが強調されます。

もちろん、そういった見方が出来るのは分かりますが、仁義に厚い劉備と冷酷な曹操の対決に、勧善懲悪的な枠組みを勝手に見てしまいがちな自分としては、中国人が、同じ話を全然違う観点で見ているんだろうなということが、ハッキリわかり新鮮でした(もちろん中国人の見方を代表しているわけではないのでしょうが)。

また、劉備だけでなく、張飛と関羽についても、欠点がしっかりと描かれているだけでなく、孔明がこの二人を大して評価していない様子で描かれていて、そこも面白いです。

特に、関羽なんて、このドラマの中では、ただ傲慢なだけの存在と化していますが、蜀平定後に関羽が荊州を失ったことが、孔明の大戦略にどれほど大きな影響をあたえ、最終的に蜀の崩壊へとつながるのかが非常によく描かれていて、なるほどなと思いました。

呉の描き方

呉の孫権が非常に上手く描かれています。

孫権は、若くして君主に担ぎ上げられる人ですが、若いころから大気の片鱗を見せ、徐々に大物に成長していく様が上手く描かれています。

呉には父孫堅の代からの旧臣が数多くいて、何かにつけてタカ派とハト派に割れる中で、孫権が、部下の本質を見抜きつつも、褒めつつ叱りつつ、正に君主として、全体をうまくまとめていきます。

魯粛、周瑜、呂蒙、陸遜らが躍動するのですが、彼らの動きを全て孫権は見通しています。

部下たちが、呉のことを思いながらも、熱くなりすぎて国が割れそうになるところを、孫権が見事にまとめて難局を乗り切ります。

曹操の魏と劉備の蜀に対して、どうして呉が渡り合えたのかという点において、孫権の君主としての聡明さが際立っていて、よくシナリオが練られています。

部下に対して慈愛の心を持っているようで実は誰も信用しておらず、ここぞっていう場面ですさまじい冷徹さを示す孫権なのですが、中国ではこういうリーダーの評価が高いのかな。

また、名将とされる呂蒙は、周瑜を殺して荊州を奪った劉備がどうしても許せなくて、荊州を取り返して亡き周瑜に号泣しながら報告する忠義の士とも言えますが、関羽を殺してしまい劉備の怒りを買うことになる責任の重さが非常に強調されていて、忠義の士というより過去の遺恨にこだわるあまり国を危険にさらした張本人といった描かれ方で、これもまた、現実主義の中国人はこう見るのかなと思ってしまいます。

その反面、あっちに行ったりこっちに行ったりしながら、政局に翻弄されながらも国のために気持ちを切り替え、常にその状況における大局的な見方から現実的な利害を説く魯粛が、非常に高潔で優秀な人物として描かれていて、それも面白いです。

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宮廷の描き方

これも面白い。

中国の歴史は面白いと言いつつ、所詮は外国の歴史ということで、いかに自分がチャンバラ活劇くらいにしか見ていないのかよくわかりました。

95話あっても、三国志をまとめるには全然足りなくて、省略される場面ばかりなのですが、その割には、宮廷内での、お飾りの漢帝である劉協から曹丕が帝位を奪う所のエピソードや、曹丕や曹植による曹操の跡目争い、曹一族VS司馬一族の政治権力争いなどは、非常に時間を割いて描かれます。

劉備が蜀を平定するプロセスなんかはほぼ省略されるという大胆な脚本ながら、曹丕関連のエピソードは何話も続きます。

やっぱり、中国人にとっては、細かい戦よりも、400年続いた漢という王朝が終わり、新しい曹魏という国が興ったりするところは歴史的に大事なところなんでしょうね。

また、歴史の大局が、戦争の結果ではなく、宮廷内の駆け引きで決まるという点も、ある意味非常に現実的なんですかね。

司馬懿VS孔明

最終局面のここの脚本は見事だと思いました。

まあ、全部で95話あっても使える時間は相当限られているので、なかなか難しかったのだと思いますが、閉じこもる仲達を何とかしておびき出して孔明が勝つものの、時間とともにどんどん孔明が追い詰められていくところがよく描かれています。

また、両雄が共に、遠く離れた首都の政局争いに足を引っ張られて、あと一歩のところでうまくいかないところも含めて、孔明が劉備の死後何度も北伐に失敗する様子と、段々と、蜀の内部でもなぜ孔明がそんなに北伐を強行しようとするのか疑問の声が出てくる描写は、非常によくかけていると思います。

司馬懿VS孔明による関ケ原の合戦という感じではなく、勝ちながらもいろんな事情にがんじがらめになって孔明がどんどん衰弱していくところが非常にリアルです。

そんな感じだったんだろうなと思いました。

なお、このドラマ、主役は司馬懿なのかというくらい、司馬懿が大人物として描かれています。

最終回など、劉禅の降伏などはナレーションで触れるだけで(姜維の奮闘など1分も触れない)、司馬一族が魏を制圧するところがメインのエピソードです。

戦闘シーン

時代考証は全体的に甘い気がします。

日本と違って中国では歴史がちゃんと記録されていないのだろうか。

日本の鎧は、実物を見たことある人は分かるように、装着時にあちこちきっちりと縛る必要があって、着るのは非常に面倒です。

それもそのはずで、戦闘中にズレたら大変だからです。

その点、このドラマでは、みんな西洋っぽい立派な兜をカポッとかぶったり、重そうな鎧を装着しているのですが、戦闘中それがみんなズレていて(とくに兜がみんなブカブカでズレていて、質の悪いコスプレみたいになっています)、どう考えても、現実とは乖離がある気がします。

あと、一騎打ちのシーンはクオリティが低くて、ちょっと見てられない感じ。

まあ、アクションドラマではないのでそこは売りではないようでいて、実は製作者たちはどうだかっこいいだろと売りにしているようで、そこはどうかと思うな。

おわりに

という感じで中国ドラマ、『三国志 Three Kingdoms』の感想を書いてみました。

まあ、一番の感想は、95話あっても全然足りないのか、というものですが、それは仕方ない。

無理やり、義理人情好きの日本人と現実主義の中国人という対比によせましたが、あながち間違っていないような気もします。

それにしても、自分が、知らないうちに、三国志を、忠臣蔵よろしくチャンバラ人情ドラマのような見方をしていたことを思い知らされました。

歴史物語ですから、劉備の無念に心打たれるのもいいですが、現実的な視点で俯瞰するのも大事ですね。

大好きな三国志について、思いもよらぬ視点を教えてくれて面白かったです。

思い入れが強いと不満点がたくさん出てくるでしょうが、三国志演義の忠実なドラマ化に終わらず、脚本にあれこれ特徴を持たせた意欲作だと思います。

95話もYoutubeにアップされているので興味ある方は是非どうぞ。

暇つぶしにはもってこいです。