楽天の携帯事業参入の意図を考える


おそらくキャリア決済なんじゃないかな。欲しいのは。

はじめに

先日、楽天が、携帯事業参入を発表しました。

今更感満載の決断ということで悲観的な記事も多い中、個人的には納得いく部分もあるので、そこを考えてみます。

なお、個人的に思うのは、IT関連の記事を書いている人というのは、どうやらAmazonファンが多いようで、楽天なんてごちゃごちゃしてて見にくいし使い勝手が悪いし、情弱が使うサービス的な見方をしている人は多い気がします。

楽天の携帯事業進出についての論評にも、そういったアンチ楽天バイアスがかかっているっぽくて、終わっている楽天が失敗必至のバカみたいな提案をぶち上げ、ますます終わりに近づいているといういったスタンスで記事を書いているような気がします。

その点、私は、下記の関連記事でも書いているように、かなり楽天という会社を買っていますので、ポジティブに評価してみたいと思います。

関連記事
スターウォーズから考える楽天というレジスタンス

楽天経済圏

楽天は、ネット通販だけでなく、トラベルや、銀行、クレジットカード、電子マネーなど、様々な事業を営んでいて、しかもそれを楽天ポイントで束ねることで、一大経済圏を築いています。

そこに、ビックビジネスである携帯事業すなわち通信事業も加えようというのは自然な流れのようで(格安SIM事業も一応成功しているし)、設備投資の大変さや既存キャリアの強さを考えるとうまくいかないだろうという意見が多数です。

確かに、楽天経済圏をさらに大きくするための携帯事業進出という見方は間違っていないでしょうし、楽天ポイントの利用により、既存の楽天ユーザーを取り込もうという意図も間違ってはいないでしょう。

しかし、それだと、単に携帯事業で勝負できると判断したから参入することにしたといった、あまり深みのない戦略を楽天がとっていることを前提としている気がします。

コングロマリットではありませんが、でかい市場に手当たり次第に進出してるだけのような感じになってしまいます。

なぜ、携帯事業に進出することに決めたのか。

市場規模が巨大で、利益を出せると踏んだから。それだけなのか。

私は、違うと思います。

楽天という企業が今後一大社会インフラ企業になるためには、通信事業への進出は不可避と踏んだのだと思います。

おそらく、カギは、キャリア決済だと思います。

楽天というインフラ企業

楽天というのは、生産者と消費者をつなぐインフラ企業です。

生産者というと、製造業・メーカーのことのようですが、小売店など、消費者に対して、製品・サービスを提供する側を一般的にそう呼んでます。

もちろんアマゾンもそういう側面を持っているのですが、アマゾンとは決定的に違うところがあります。

それは、生産者の個性を大切にするかどうか。

話がややこしくなるので、具体例で説明します。

アマゾンというのは、同じ商品のページは1枚しかないのが特徴です。

つまり、転売屋にとっては非常に使いやすく、例えば任天堂のスイッチを売ろうと思へば、もうすでに商品紹介ページはあり、どっかから在庫を入手して、販売事業者としての登録をするだけです。

自分で商品の概要を書いたり写真を撮ったりする必要は一切ないです。

その反面、自分ならもうちょっとユーザー目線の情報を提供できると思った業者がいても、他の業者も売っている品である限り、商品紹介ページには、カタログスペック等のメーカー開示情報が載るだけで、変更を加えることはできません。

また、商品をカギにページが作られているため、販売事業者が複数いても、アマゾン自身が在庫を抱えて売っているのか、アマゾンのサイト上で別の販売業者が売っているのかは、ぱっと見には分かりにくいです。

しかし、楽天は違います。

ある商品で検索すると、同じ商品がたくさん出てきて、これが楽天がアマゾンと比較して使いづらいといわれる一番の理由ですが、なんでそうなるかというと、同じ商品でも販売業者ごとにその商品の紹介ページが異なるからです。

カタログ写真を並べるだけの適当な紹介をする事業者もいれば、現物の写真を様々な角度から取ったり、使い勝手を紹介したり工夫を凝らす事業者もいます。

そこで、事業者間の競争をさせようとしているわけです。

スキー用のバッグなど、選びながら誰しもが、どのくらい入るのかなと疑問を持ったりしますが、アマゾンだとカタログ記載の説明が書いてあるだけの反面、楽天では有名スポーツ店が、実際にブーツを入れてみたり、あれこれ詰めてみたりした写真を紹介したり、かなりユーザーフレンドリーになっています。

スキーのワックスなども、アマゾンには商品たるワックスの説明はあっても、ワックスのかけ方の説明はどこにもありません。

製造元のメーカーがかなり力を入れない限り、アマゾンの商品の紹介ページは簡素なものです。

いったいどっちがユーザーフレンドリーなのか、これは好みの問題もありますし、商品の性質にも依存します。

しかし、ここで大事なことがあって、それは、我々はみな消費者であると同時に生産者でもある点です。

ネット通販の話をすると、自分を消費者側(購入者側)として考えることが多いですが、実際には多くの人が何らかの職業についていて、生産者として働いています。

そして、アマゾンというのは、すべてをアマゾン対消費者という構図に収めようとする帝国主義者と言っても過言ではなく、そこには、消費者の利便性を追求する姿勢はあっても、他の生産者と共存しようとする姿勢はありません。

他の生産者を続々と倒していくアグレッシブな企業です。

そうはいっても、今までは、アマゾンというのは単に通販事業者であって製造業ではなく、ほとんどの人たちが、小売りの人たちは大変だねくらいの他人事としか思っていませんでした。

メーカーなどが作った商品を仕入れて売るだけの右から左に流すだけの小売業と違って、自分達はモノやらサービスを作り出すリアルビジネスをしていると自負している人の多くは、アマゾンを利用する側で、アマゾンにより生活が豊かになることはあっても、まさか自分が食われる日が来るとは、最近まで気づいていませんでした。

まあ、そこら辺を語り始めると止まらないのでやめますが、その点楽天は、どんなに商品検索がしづらいと言われても、各事業者が、ショップの名前を出して、ショップの個性あふれるページを作って、そこでショップ同士が競争することで、消費者の利便性も増すし、まっとうな努力をする生産者が利益を得られるという、消費者と生産者をつなぐインフラの構築にこだわっているわけです。

関連記事
ユニクロは情報製造小売業を目指す

アマゾンというのは、物や情報の流通を支配するインフラ企業ですが、消費者相手に、すべてをアマゾンが提供するインフラ企業を目指しているのに対し、楽天というのは、誰もが消費者であると同時に生産者であることを踏まえて、その間をつなぐインフラ企業を目指しているわけです。

お金と情報

上述のように、楽天は消費者と生産者の間で物の流通のプラットフォームを提供する、インフラ企業となりました。

スポンサーリンク

そして、物の流通規模が一定以上大きくなると気づくわけです。

物の流通ビジネスに加えて、お金の流通ビジネスは何て効率がいいのだろうと。

物の流通は、在庫管理したり、配送したり大変です。

しかし、お金の流通は簡単です。

特に今は現金の流通は減っていて、ほとんどが電子データのやり取りです。倉庫も何にもいりません。

銀行の振込なんて、データ上で、一方の残高数値を1000円減らして、もう一方の残高数値を1000円増やすだけです。

正確には、もう一方の残高数値を900円増やすだけで、差額の100円は自分の残高数値を増やすという方法で簡単に利益を稼げます。

楽天が汗水たらして物の流通を頑張っている横で、IT化によってほぼ全自動化されたデータのやり取りしか行われないのに、金融事業者がお金の流通の間に入って、ぼろもうけしているわけです。

そこに目を向けた楽天が、銀行、クレジットカード、電子マネーと、金融分野に進出するのは自明でした。

そもそも、お金というのは情報そのものですから、金融とITというのは非常に相性が良くて、多くのIT企業が金融への進出をもくろんでいます。

巨額の元手さえ何とかなれば、あとはデータを付け替えるだけで利益が出るわけですから、誰もが憧れるビジネスです。

そんな中、楽天による銀行とクレジットカードの進出は非常にうまくいっています。

楽天カードは、楽天利用者にポイントを付与することで、カード事業と通販事業でWin-WInの関係。

銀行も、楽天への出店者への融資などもやっていたり(楽天がレジの中身を握っている)、それに合わせてクレジットカード決済の代行業も大々的に展開していて、かなり野心的に勢力を伸ばしています。

また、楽天銀行も楽天カードも、利用者からみると、非常に使い勝手がよく利便性は高いです。

楽天が使いづらいという人でも、楽天銀行と楽天カードのサービスに不満がある人はいないんじゃないでしょうか。

その結果、楽天という通販サイト以外のところのコンビニやデパートでの買い物における代金決済においても、楽天が金融インフラ企業として顔を出しているわけです。

学生と専業主婦層

そんな感じで、楽天というのはもはや単なるネット通販会社ではなく、金融インフラ企業となっているわけですが、やはり金融ビジネスの稼ぎ頭はクレジットカード事業でしょう。

決済を代行して、売り手から手数料をもらう。

分割払いを可能にして、買い手からも手数料をもらう。

楽天カードを宣伝しまくっているのも納得で、それだけの利益があるのだと思います。

しかし、世の中にはクレジットカードを持てない人(持ちづらい人)もいます。

その代表者が、就職前の学生です。

また、専業主婦も仲間に入れてよいと思います。

専業主婦でも家族カードを持てますが、そうすると、使用がすべて夫サイドにつかまれるので、なかなか使いづらいものです。

しかし、この両者による代金決済の規模は十分ボリュームがあります。

さらに、ネット通販の規模はまだまだ拡大傾向にあり、オンラインゲームの課金やら、生鮮品の通販やら、アダルトグッズのような秘密の買い物など、学生や主婦層の利用もどんどん拡大してほしいのに、クレジットカードの利用が基本となっていて、実はそこがネックになっているわけです。

そこで登場するのがキャリア決済です。

キャリア決済

キャリア決済というのは、携帯電話会社が信用を与えることで後払いを可能にする決済方法です。

アマゾンなんかはすでにキャリア決済に対応していますが、クレジットカードが無くても、携帯電話さえ持っていれば、キャリア決済を選ぶことで、後払いで買い物できます。

代金はクレジットカードと同じく後払いですが、カード会社のようにドコモなどのキャリアがいったんアマゾンに払ってくれ、その分はキャリアが後で携帯電話料金と合算して利用者に請求するという仕組みです。

このキャリア決済、数ある信用ビジネスの中でも、貸し倒れ率が異常に低くて有名で、なんでかというと、払わないと電話を止められるからです。

現代社会で生きている人は誰でも、電話(やネット)を止められるのは困るので、そこだけはちゃんと払うわけです。

したがって、学生や主婦のように収入源が無い人でも、一定金額以下なら信用を与えても大丈夫ということで、金融を本業としない通信キャリアもこぞって参入しています。

なんかあれば携帯を止めるぞというのは、ある意味最強の担保で、通信という生活に不可欠なインフラを握っている企業だからこそできるビジネスと言え、かなりリスクの低い信用ビジネスとして非常においしいわけです。

楽天もこれが欲しいんだと思います。

また、金融インフラ企業としての将来を見込む上でも、今後ますます信用決済規模が拡大していくであろう、学生や主婦層を考えたとき、キャリア決済が手元にないのは苦しいと思ったのではないでしょうか。

3大キャリアの場合は、単にクレジットカードを持たない層に決済手段を提供しているだけですが、楽天の場合は、学生などを早期に楽天経済圏に囲い込む手段となりますからね。

年間6000億円の設備投資が必要だそうですが、キャリア決済も取り込んだ、一大金融インフラ帝国を築くことで、それ以上の成果を見込めると踏んでいるのでしょう。

楽天の将来

楽天は、アマゾンに追い上げられていますが、それ故に楽天はもう終わりというのは早計で、そもそも違う業種といった方がよいかなり独特の企業になっていて、既存の枠組みで言うならば、物の流通とお金の流通の2本の柱がある企業で、どちらかというと、すでに金融が本業でしょう。

そして、アマゾンのように帝国主義的巨大生産者というのではなく、様々な生産者と消費者のいる社会を支えるインフラ企業というところでしょう。

そう考えると、今後ますますのネット通販の拡大や、将来のキャッシュレス社会の実現を見据えたときに、現状ネックとなっている学生や主婦等のクレジットカードが入り込めない層をターゲットとした信用ビジネスを放置しておくことはできないでしょう。

これだけ投資して、電子マネーやデビットカードに力を入れているのに、学生や主婦層のキャッシュレス市場の大部分をキャリア決済にもっていかれたらそれこそ大失敗ですからね。

そのためには、かなり無理してでも携帯電話事業に進出するしかないと考えたのでしょうね。

おわりに

通信事業というのは、ある意味巨大提供者と無数の消費者という関係のビジネスですから、無数の生産者と消費者をつなぐインフラ企業としての楽天とはあまり相性の良いビジネスではないと個人的には感じました。

また、楽天経済圏に通信事業という巨大事業も入れたいので新規参入というとらえ方も、なんだかモヤモヤしていて、しっくりきませんでした。

ということは、金融インフラしかないだろうということで、キャリア決済がほしいという前提で考えてみました。

本当のところはどうなんでしょうかね(キャリア決済の市場規模がわからないので・・・)。

それとも、考えがまとまってないので書きませんでしたが、キャリア決済ではなくスマホ決済が狙いで、GoogleやVISAと組んでAndroid Pay連合を作って、FelicaではなくNFC決済を普及させて、その覇者になろうとしてるのかな(記事書き終えてなんですが、そっちの方がメインの気もしてきた)。

あと、通信押さえるなら、コンテンツの提供も押さえないとで、そのためには教育事業への進出が不可欠なんじゃないのかな。

そこら辺の横展開はどうなってるんだろうか。

いずれにせよ、一筋縄では行かない挑戦でしょうね。

ただ、期待してます。