はじめに
東芝による半導体事業の売却先の入札にGoogleだけではなく、Amazonが参加したらしいですね。
なぜAmazonが半導体事業を欲しがるのかについて考えてみます。
AmazonのAWS
Amazonは通販会社ですが、実はAWS、アマゾン・ウェブ・サービスという事業を営んでいて、クラウドビジネス用のインフラ提供をやっています。
この事業の今期の売り上げ予想は1兆5千億円で、アマゾンの中では、実は通販事業をしのぐ勢いで、アマゾンの営業利益の約7割を稼ぐ基幹事業の一つです。
しかも、年50%の勢いで成長しており、もちろん業界1位で、2位以下を全部足しても足りないような規模を誇っています。
クラウド事業用のインフラ提供とは何かについて簡単に補足します。
アマゾンのAWSの歴史は2006年までさかのぼります。
通販業界の雄として、世界で絶賛成長中だったわけですが、その通販システムを支えるITインフラをイギリスの通販会社にも提供することから始まります。
アマゾンの通販サイトを支えるITインフラは、世界をつなぐ超安定ネットワークですから、使わせてもらいたい企業は山ほどあったわけです。
しかも、これからクラウド事業が急成長するのに合わせて、それを支えるITインフラ事業が急成長することもしっかり読んでました。
そこに目を付けたアマゾンはすさまじい設備&開発投資をして(なお、アマゾンは創業以来最終利益をほぼ出したことが無いことでも有名で利益は全て研究開発に回しています)、最先端のITインフラを構築するとともに、それを他社に提供するビジネスを始めます。
もちろん、多くのIT企業も、クラウドサービスの成長及びそれを支えるITインフラのニーズを読んでいました。
しかし、アマゾンは、自社で、
1.クラウド事業としての電子書籍、音楽配信、動画配信
2.キンドルなどのデータ受信側の端末開発
3.安全性の求められる決済システム
の全てをやっており、ITインフラ提供側のシステム会社と利用者側の事業会社との垣根がありませんでした。
自分達が事業者として最先端のサービスを実現するとともに、それを実現可能なシステムを作ったので、他のシステム会社に真似できないサービスを提供し、ぶっちぎりで業界のリーダーになってしまいました。
アマゾンのAWSを使ってネットワークを構築している会社の代表例としてはNETFLIXが有名です。
NETFLIXの動画は全てアマゾンのサービスを使って提供されています。
日本企業では、NTTドコモ、三菱東京UFJグループ、ユニクロなどがシステムをAWS上で動かしています。
つまり、アマゾンにクレジットカードを登録することに拒否反応を持っている人が日本ではまだ多いみたいですが、そもそも我々がWEBなりATMなりで、三菱東京UFJ銀行のWEBサービスを使って振り込んだり残高を確認したりしている時、それらはアマゾンのデータセンター上で動いているわけです。
行政では、アメリカのCIAや司法省のシステムがAWS上で動いています。
こういった、アマゾンですから、自社のデータセンターなどを世界中に広げていく過程で、半導体製造を内製化しようとしているのかなと思います。
もちろん、AWSだけでなく、今後のIoT時代の到来に備えて、ありとあらゆるところにAmazonの端末がいきわたることも踏まえているかと思います。
Amazonの流通革命
Amazonのクラウド事業への進出はある意味必然だと思います。
最近では、アマゾンによるクロネコヤマトの酷使や、ドローンを使っての配達実験などが話題になっていますが、在庫を抱え、配達が必要な、有形物の流通ビジネスの面倒くささを一番認識しているのはアマゾン自身でしょう。
そこで、在庫管理や配達管理の不要な、書籍、音楽、映画、そういったもののデータそのものをやり取り事業に注力するのは当然の流れかと思います。
通販事業会社として、将来を見据えた時に、モノの流通と情報の流通に本質的な違いは無いと捉えた視野の広さはすごいですね。
結局のところ、アマゾンが無いと買い物ができない、つまり、必要なものが入手できない時代が来つつあるのですが、その必要な物というのは、有形の物だけではなくて、情報を含むありとあらゆるモノなわけです。
ありとあらゆるモノの流通をアマゾンが抑える日も近いかもしれません。
Google帝国の綻び
情報の流通と言えばGoogleです。
しかし、Googleが作り出した情報世界の問題はWELQ問題で一気に目に見える形となって噴出しました。
WELQ騒動で、いくつかの巨大サイトが姿を消しましたが、ああいった情報提供のフリをした営利サイトがネット社会から姿を消して、「健全なるネット」が復活したわけではありません。
自分でブログを書くとわかりますが、情報を収集整理して、分かりやすくまとめるとともに、体裁を整えて読みやすい記事にするのは相当骨の折れる作業です。
したがって、顔を見たことない人に喜んでもらえるようにボランティアで役に立つ情報を提供しようなんて人はいません。
つまり、Googleで何かを検索したときに出てくる検索結果はほぼすべてアフィリエイト記事です。
時々、アフィリエイトとか嫌い、なんて言っている人がいますが、今のネットで目にするのは全てほぼビジネスドリブンの記事です。
読者の喜ぶ顔を見たくて記事を書いている人なんていません。どの記事も読者に広告をクリックしてほしくて書かれた記事です。
時には、ボランティア精神から情報提供を買って出る人もいるかと思いますが、法人化してライターとデザイナーを内製化したアフィリエイターに記事をパクられて終わりです。
ニッチなキーワードならまだしも、検索数の多いビッグワードで素人が書いた記事が検索上位に出てくる可能性はほとんどありません。
Googleの本質は広告企業だと言われますが、その結果として、Googleが作ったネット空間には広告しかない状況になってしまったわけです。
GoogleとAmazon
ここで、WELQの記事でも書いたことを再掲しますが、この流れもアマゾンは読んでいたかと思います。
WELQに自分の記事をパクられて著作権侵害だと怒っている人はたくさんいて、実際著作権の侵害はあるのですが、損害はたいして無いと思います。
何故かというと、情報を無料で公開したのは自分自身で、その情報を読んて役に立ったと感謝している人からはそもそも1円ももらう予定はなかったからです。
失ったのは、自分の記事にたどり着いたけど、自分の記事よりも記事の中に貼り付けた広告の方に魅力を感じた人が、広告をクリックすることから生じる広告収入であって、自分の著作物の果実かどうかは怪しいものです(Youtubeの広告とかは微妙なので100%否定はできませんが)。
音楽にしろ映画にしろ、自分の著作物を換金しようと思うのであれば、そのコンテンツを有料で売るのが本筋で、それを自分から放棄しておいて、損害を被ったと主張しても、失った損害をたどると、その著作物に興味を示さなかった人に行きつきます。
以上の議論は極論なのですが、方向性としては、今後有用な情報はネットの無料空間から姿を消すようになって、しかるべき品質のコンテンツは有料になるかと思います。
そうすると、Amazonのキンドルアンリミテッドという仕組みは最先端を行っていて、本一冊いくらではなく、読まれたページ数に応じて著者にお金が支払われる仕組みになっています。
それこそ、著作物の価値と収益が1対1で対応する世界です。
アマゾンがAWSに注力するのも、今後Googleの無料空間というのは広告しかなくなって、客観的な価値の合る情報は、しかるべき対価の支払われるクローズドの有料空間に集まる未来が来ると踏んでいるからかと思います。
本一冊いくらではなく、情報に価値相応の値がつけられる世界こそが未来の社会かもしれません。
そういった社会で物以上に市場の大きな情報の流通インフラをソフトとハードの両面で抑えようとしているのがアマゾンです。
どんなソフト(アイデア)があっても、ハードが無ければ実現できないわけですが、その逆も真理で、ソフト(アイデア)が無ければ、ハードも意味ないし、そもそも、必要なハードの開発もできないわけです。
これが、アマゾンが東芝の半導体事業を欲しがる理由です。
おわりに
今のところ、東芝の半導体事業の入札に参加した日本企業はないみたいですね。
これはなんとなくわかります。
半導体を使って製品を作る会社が生き残っていないからでしょう。
製造業全盛期に、巨大系列グループを使って、下流の部品メーカーを苛め抜いた日本の企業の幹部は皆、部品は作れるけど製品を作れない企業が、途上国の成長企業と比較されて、どれだけ悲惨な目に合うかは知っているはずです。
数年くらい前、日本の製造業が終わりつつある中で、日本メーカーの部品が無ければロケットは飛ばないとか、スマホは動かないなんて強がりを言っていましたが、今となってみれば日本企業の断末魔だったのは明らかです。
半導体も、SKハイニクス、サムスン、鴻海などとと価格競争で潰しあいになって、しかも負ける可能性が大と踏んでいるのでしょう。
福沢諭吉は『文明論之概略』の中で、国際社会を製品を作る文明国と原材料を提供する未開国に分けた上で下記のように言っています。
抑も文明の国と未開の国とを比較すれば、生計の有様、全く其趣を異にし、文明次第に進むにしたがって其費用も亦したがって洪大なれば、仮令ひ人口繁殖の患は之を外にするも、平常の生計に於て其費用の一部は必ず他に求めざる可らず。其これを求る所は即ち下流の未開国なれば、世界の貧は悉く下流に帰すと云ふ可し。
結局先進国の富は、途上国の犠牲の上に成り立つのだと。
もっとも、福沢先生は非常に鋭くて、こういった社会の原因をよくわかっています。
天地間の事物を規則の内に籠絡すれども、其内に在て自から活動を逞ふし、人の気風快発にして旧慣に惑溺せず、身みづから其身を支配して他の恩威に依頼せず、みづから徳を脩めみづから智を研き、古を慕はず今を足れりとせず、小安に安んぜずして未来の大成を謀り、進て退かず達して止まらず
といった西洋的な文明人が社会を構成する限り、国際社会での2国間関係は潰しあいの商売とその結果としての戦争の二つしかいないとも言っています。
西洋人が強欲だからそうなのではなく、人間が進歩的な文明人である限り、行き着く先は経済と暴力の両面での戦争しかないという、合理主義の本質を見抜いていたわけです。
しかし、福沢先生の慧眼は鋭いですし、当時としては文明人になってその社会に参加することが必要だったのかもしれませんが、世の中がこんなになっている中、まだ、進歩主義、成長主義の『文明人』ごっこを続けなくてはいけないのでしょうか。
半導体事業は日本の製造業を代表する事業ですから外資に買われるのは寂しいです。
何としても、半導体事業を国内に残すべきという意見も強いです。
ただ、日本が守るべきものはそこなんでしょうかね。