にわかタックスヘイヴン5


今回は租税回避の最先端、アップルとグーグルです。

はじめに

前回までで、タックスヘイヴンを使った、租税回避なのか節税なのかよくわかりませんが、ぼかして言うと、国際タックスプランニングの基本を見てきました。

内容としては、グローバル企業が生み出す利益のうち、その一部をタックスヘイヴンに付け替えて、その部分について税金を安くしようというものです。

グローバル全体で見て、100円で作った衣料を1000円で売る場合、その企業の利益は900円です。

そして、その900円の利益は会社のいろいろな部門が協力して生み出しているものです。

つまり、製造部門と販売部門だけでなく、原材料の仕入部門やマーケティング部門、さらには、経理財務、法務、人事だって会社には不可欠であり、間接的には利益獲得に貢献しています。

そこで、製造部門は中国、販売部門は実際に販売する国であることはやむを得ませんが、極端なことを言うと、仕入部門をスイス、経理財務をルクセンブルク、人事部をケイマン諸島、法務部門をパナマ、マーケティング部門はシンガポール、なんてことにして、各国の各部門に手数料として払うことで、グループ全体で発生する900円につき、できる限りタックスヘイヴンで計上して税金を安くしようとします。

ここで、さらに恐ろしいことを考える会社が出てきました。

アップルです。

アップルのスキーム

アップルの税務スキーム関しては、アメリカの政府機関が2013年に出したレポートがありますから、それに基づいて解説します。

300ページ超のレポートですが、アップルに関してはPDFのページ数で174ページ(書面的には168ページ)から始まります。

なお、リンクです。

offshore profit shifting and the u.s. tax code – Part 2 (apple Inc.)

ポイントだけ説明しますが、非常にシンプルです。

アップルは世界中にアップルストアなどを作り自社製品を販売していますから、各販売国で利益が計上されます。それについては仕方がなく、各国で税金は納めざるを得ませんが、何とかしてタックスヘイヴンにライセンス料のような形で利益を吸い上げて、少しでも税金を減らしたいわけです。

そこで、AOIという会社をアイルランド(タックスヘイヴン)に設立し、この会社に世界中の利益を吸い上げます。

もっとも、ここまではよくある税務スキームです。

しかし、このAOIという会社が厄介で、完全なペーパーカンパニーに近く、管理機能がアメリカにあります。

そして、アイルランドの税法上、法人税の対象たるアイルランド法人か否かは管理機能がアイルランド国内にあるかどうかで決まります。

これは、一応理屈のある規制で、アイルランドで大々的に商売している会社が、実は私はケイマン諸島で登記している会社なので、アイルランドの会社じゃありませんといった場合に、「ふざけんな、形式上国籍がどこだろうと、アイルランドで管理して営業してるんだから、アイルランドで法人税払え!」というための規定です。

もちろん、これは建前で、実際にはアイルランドもグルだと思った方がよいでしょう。

しかし、これを逆手に取るのがアップル。

このAOIという会社の管理機能はアメリカにありますから、アイルランドの税法上、アイルランド法人ではないことになります。

では、管理機能がアメリカだから、アメリカの法人税を払うのかというと、そこがポイント。

アイルランドと違って、アメリカの税法上、アメリカ法人か否かは、アメリカで設立されたか否かで決まる規定なので、AOIはアイルランドで設立されている以上、アメリカの税法上、アメリカ法人でもありません。

つまり、このAOIという会社、税法上は無国籍の会社となり、どこの国にも法人税を払わなくてよいことになります。

スポンサーリンク

レポートのPDFでいう180ページ(書類上174ページ)によると、2009年から2011年の3年間で、アップルグループ全体の30%がAOIに吸い上げられているものの、3年間でどこの国にも法人税を払っていないとのことです。

なお、アップルグループの中に、もう一つ似たようなアイルランドの会社で、世界中のアップル製品販売を統括するASIという会社がレポートに登場するのですが、多少アイルランド内で活動しているらしく法人税をアイルランドに払っているのですが、2009年から2011年の3年間で380億ドルの利益を計上しているものの、3年間で納めた法人税は2100万ドルで、税率とすると、0.06%ということになります。

これがアップルです。

なお、ネットでアップルの税務スキームを調べると、ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチを採用しているという記述を良く見ますが、上記のレポートに基づく限り、ダッチサンドイッチは使っていません(アイルランドにはダブルどころかたくさん会社がある)。

ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチを使っているのは、そう、グーグルです。

グーグルのスキーム

グーグルのスキームについての出所はブルームバーグの下記の記事です。当然と言えば当然ですが、グーグルが自ら、自分たちはこんなことして節税してますという公表しているわけではありませんから、本当のところはわかりません。というか、この記事でも詳細は書いてありません。ただ、大枠はあっているのでしょう。

Google 2.4% Rate Shows How $60 Billion Is Lost to Tax Loopholes

まず、アイルランドに、2000人ほどが働き、世界中に広告を売っている会社があります。

これは、タックスヘイヴンにあるとはいえ、実体のある会社で、記事によるとアメリカ国外の広告売上の88%を稼ぐ会社らしいです。

アイルランド自体タックスヘイヴンなのですが、アップルと同じくそれだけでは満足しません。さらに節税します。

何をするかというと、アップルのように、管理機能がアイルランドの外にある会社をアイルランドに作り(管理機能はバミューダ諸島にあるらしい)、そこに利益を吸い上げるのです。そうすれば、アップルのように、その会社は無国籍ですから、どこにも法人税を払わなくてもよくなります。

つまり、アップルの場合は、世界中に販売網がありますから、各国で利益が計上されるのは仕方がなく、それをアイルランドにある無国籍の法人に吸い上げるだけでしたが、グーグルの広告売上の場合は、基本的にデータ通信のみですから、利益が計上される会社自体をタックスヘイヴンであるアイルランドに作っているわけです。

しかし、厄介なことがあって、アイルランドの実体法人からライセンス料のような経費を支払って(ロイヤリティという)、同じアイルランドの無国籍法人に利益を移転するのですが、そのライセンス料のようなものを支払うときに、源泉所得税だけは払わないといけません。

そこで登場するのがオランダです。

アイルランドの税法上、アイルランドからEU内の国にロイヤリティを支払うときは源泉所得税がかからず、また、オランダの税法上、オランダからアイルランドのへのロイヤルティの支払いは源泉所得税がかからないことになっています。

そこで、ロイヤリティをアイルランド内で支払うと源泉所得税がかかるところ、オランダのペーパーカンパニー経由で支払うことにより、源泉所得税まで払わなくて済みます(もちろんそのためにライセンス契約をオランダの会社経由でまきます。サブリースのような形か)。

これが、世界のIT企業で大流行りらしいダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチというスキームです。

おわりに

やっと、連載(?)5回目でアップルとグーグルの説明が出来ました。

これが、国際的タックスプランニングの最先端の一つで、グローバル企業はみんなこんなことやっています。

テクニカルな側面からすごいと思うか、倫理的な面からけしからんと思うかは人次第。

しかし、タックスヘイヴンの問題点というのはここじゃないんですよね。

本当の問題点は次回以降。