ブロックチェーン導入による経理部門の合理化とその前準備


流行りのブロックチェーンです。

目次

はじめに

ここのところ、最近流行りのブロックチェーン関係の本を読んでいます。

ブロックチェーンで世界は大きく変わるといったスタンスに基づいて、あれも変わるこれも変わるといった論調の本が多いです。

当然、その中には会計も変わる的な話も出てくるのですが、今一つよくわからないという印象で、著者がブロックチェーンの専門家で、あまり会計に強くないのか、少なくとも会計システムについてはあまり知らないんだろうな、という印象を受けます。

結局のところ、記録の改ざんが「原理的に」出来ないということ以外は、ブロックチェーンなしでもできそうなことばかりというか、先進的な企業は既に導入しているような話が多い気がします。

では、ブロックチェーンで会計業務はなにも変わらないかというと、私としては、経理業務を劇的に改善させる契機となる可能性は大いにあると感じました。

そこで、ブロックチェーン導入で経理業務はどうなるかについてのかなりアグレッシブな展望と、そうはいってもある程度会計システムを洗練しておかないと既にあるピタゴラ装置がより複雑になるだけというオチになりかねないので、導入前の準備として何を済ませておかないといけないのかを考えてみます。

私が会計システム構築の仕事を辞めてから数年経ってだいぶ知識も錆びついているのですが、このまますべて忘れてしまうのも残念なので、備忘録も兼ねてます。書きながら懐かしくなりました。

なお、私はビジネスサイドの人間なので、こういうシステムが理想だなと思うことを書くのであって、技術的に出来るか出来ないかとか、ITマターなところは考慮していません。


巷に数多くあるブロックチェーン関連本(技術解説ではなく社会・経済がどう変わるか系)のネタ本はこれ。

ブロックチェーンの本質的影響

まず、ブロックチェーン導入によって、分散化した安定・安全なシステムを構築できるというのはその通りですが、それはシステム障害防止などのシステムリスク改善というだけで、経理業務自体への直接的なインパクトはありません。

次に、ブロックチェーン導入によって、リアルタイム会計が出来るようになるというのも少し変です。

リアルタイムレポーティング自体はブロックチェーン技術が無くても可能です。単にデータをリアルタイムで処理すればよいだけです。

では、ブロックチェーンを導入して、取引データをリアルタイムで改ざん不能な形で保存していくことで、不正防止になるというのはどうでしょうか。

今でも既に帳簿入力にタイムスタンプが残るのが通常で、少なくともログは残るわけで、遡及的な修正は不可能ですから、その点に関してブロックチェーンの影響は特別ないかのようにも思えます。

しかし、ここで少し頭が混乱したのが、この記事の始まりです。

業務データをブロックチェーン化するとして、それを仕訳エンジンで変換した会計データもブロックチェーン化するのでしょうか。

だとしたらその意味は一体なんでしょうか。

業務データと財務諸表の間に会計帳簿をかませる必要はもはや不要なんじゃないでしょうか。

それは、会計不正の温床は、一部の人にしかわからない財務会計という用語で記述され、しかも一部の人だけが接することの出来る、会計帳簿という存在そのものにあるような気がするからです。

財務諸表というのは究極的には会社の業務内容を明らかにするものなのですが、現状、業務データから直接的に財務諸表が作られることはありません。

業務データは、複雑なロジックで一旦財務会計データに変えられて帳簿という箱に保存され、そこでごちゃごちゃ不透明な修正が専門家によって加えられたのちに、財務諸表が作られています。

この、会計帳簿という、生の取引データと財務諸表の間に、閉ざされたエリアがある限り取引データをブロックチェーン化して改ざん不能な形で保存することのメリットは生かされない気がします。

取引データがリアルタイムで保存されても、帳簿データに夜間バッチで流されるのであればその前に修正されると、上流システムにそのログが残っているとしても、帳簿経由ではその改ざんに気付きにくいです

また、事後的に取引データが修正された場合、その修正ログが残っていたとしても、経理の要望に従って、会計帳簿にバックデートで入ったりすると、システム処理日が残っていたとしても、だいぶ気づきにくくなったりします。

さらに、もしリアルタイムで取引データがブロックチェーン化されるとともに、同時に仕訳も作ってブロックチェーン化して保存するとなると、それこそなんだかよく分かりません。

つまり、取引データをブロックチェーン化して改ざん不能な形で保存するということを考えると、そこからダイレクトに財務諸表を作成すべきという考えにいたるのが通常だと思います。

そして、できる限り自動化する未来という視点も併せて考えると、会計帳簿というものの存在意義に必然的に疑問が投げかけられ、そのことこそ経理業務へのブロックチェーンの影響の本質かと思います。

以下具体的に見ていきます。

ブロックチェーン導入で実現すべきこと

経理カルト解体

経理部門というカルト集団の聖典たる会計帳簿をなくし、経理部の専権プロセスとしての財務諸表作プロセスを廃止する。

ブロックチェーン化され、リアルタイムで格納されるとともに改ざん不能な業務データを各種レポーティングのソースとすることで、業務データ→財務諸表というプロセスを構築して、中間に存在する経理にしかわからないルールでメンテされた帳簿というブラックボックスを取り除く。

全社的会計マネジメント

経理部の上層部は経営戦略室などに統合し、スタッフ層を各業務部門に散在させることで、一つの部署としての経理部は解体。

しかし、業務データと財務諸表の関係が透明化し、さらに、経理を緩やかにつながった組織として全社に拡散させることで全社的な会計マネジメントを実現する。

リアルタイム・フルオートメーション

リアルタイムにブロックチェーン化して保存される業務データからレポーティングレイヤーのロジックを通してダイレクトに財務諸表を作ることで、フルオートメーションかつリアルタイムレポーティングを可能とする。

人がロジックを考え、コンピューターが業務を行うという体制を作る。

透明化と内部統制の強化

レポーティングプロセスをシステムロジックという形で客観化・可視化して、業務データとレポートの関係を透明化するとともにレポートが作成される段階での不正の余地をゼロにする。

その結果、会計監査の作業(コスト)を大幅に減らすことも可能。

会計上の見積りの自動化

従来、手修正が当然と思われていた会計上の見積もりも、計算ロジックをスマートコントラクトとしてブロックチェーン化することで、リアルタイムで算出すると共に、後出しじゃんけんの余地をなくす。

デイリー業務の部分だけでなく、いわゆる決算業務を含んだリアルタイムレポーティングを実現する。

その他

マルチGAAPはレポーティングプロセスで対応すればよく、マルチカレンシーへの対応はPLロックダウン(セルダウン)や為替洗替を取引と捉えれば問題なし。

以上がブロックチェーン導入で実現すべき未来だと思いますが、そうはいっても、江戸時代から近未来にワープしようとしても、時間とお金(+優秀な人材も)を浪費するだけで終わります。

そこで、現状の会計システムの問題点を見つめた上で、近未来にひとっ飛びで行けるための平成のシステムとして最低限実現しなくてはいけない点を考えてみます。

現状の会計システ厶

まず、現状の会計システムの問題点を指摘し、どこを改善するかを大まかに考えてみます。

ブラックボックス

財務諸表とは究極的にはただのレポートであり、その最終的な根拠は業務データに求められるはずです。

しかし、現状、財務会計という特殊言語を話すカルト集団化した経理部が、帳簿を聖典化し、独自の観点で会計帳簿をメンテナンスしてそこから財務諸表が作られます。

その結果、業務データが複雑な仕訳エンジンで独自視点の勘定科目を使用した会計データに変換されて帳簿に格納され、そこから先は経理の専門領域として、経理部以外は触れない状態になっています。

そして、その先で帳簿に様々な手修正が加えられ、会社の事業活動を表現するのが財務諸表であるのに、財務諸表と業務データとの間に巨大なブラックボックスが存在します。

したがって、業務データから一気に財務諸表を作るプロセスを実現するためには、いきなり帳簿をなくすことは出来ないとしても、複雑な仕訳ルールや業務と祖語のある勘定科目分類などは廃止して、できる限り業務データに近い形の帳簿を実現しておく必要があります。

会計帳簿の孤立

また、帳簿は経理のものである反面、経理業務のためだけの存在になっていたりして、上流から下流にデータがきれいに流れる会計システム構築に当たり、会計帳簿を参照するニーズのない他部門の協力を得るのが非常に困難となっていたりします。

つまり、各種レポーティングに必要なデータが上流で作られず、帳簿に流れてこないことは多々あります。

その結果、企業に対する情報開示要求が高まり、多様な開示が求められている中、経理としては帳簿以外から、様々なデータを収拾しなければならず、そのプロセスにすさまじいコストが生じています。

また、その結果、作り込まれて今となっては誰も理解できないようなエクセルやアクセスに依存する業務が多数あり、内部統制上非常に問題があるだけでなく、自動化をしようとするときに、自動化対象のプロセスの把握自体が困難になっています。

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業務データからダイレクトに財務諸表やその他レポートを出力するしようとするためには、そのロジックを作り込まなくてはいけないのですが、そのためには各種レポーティングのためのデータ要件が明確になっているとともに、必要なデータがしかるべき責任と権限の下に存在していることが不可欠です。

レポーティングを自動化するためにはデータ要件の明確化が必須ですし、必要なデータに関して責任の所在が明確化していないと、だれも責任の取らない数字が踊るレポートが出力されるだけです。

ダウンストリームでの修正

経理部門による仕訳の手計上をゼロにすることは直ぐにできることではありません。

しかし、現状、多くの会社で、上流から流れてくる業務データに問題があった時に、経理がそれを受けて帳簿上で修正するという業務が存在したりします。

これは、不正の温床であるだけでなく、将来業務データからダイレクトのレポーティングができない原因になってしまいます。

いかなる場合であっても経理が入力するのは純会計的な非取引データであって、業務データは入力しないというルールを死守する必要があります。

業務データから直接的に財務諸表を作成するのが目標である以上、修正が必要な時は必ず、上流の業務データ自体を直して帳簿に流す体制を構築する必要があります。

恣意性の跋扈

業務に手作業が多いせいか、会計上の見積りはエクセル上であれこれいじるのが当然という風潮が跋扈しています。

会計上の見積もりに仮定計算は不可避とは言え、計算に使う数字には必ず客観的な根拠がなければなりません。

仮締めが終わった後に、着地点を見ながら仮定計算を繰り返して落ち着きどころを探し、事後的にその合理性を監査法人が監査するという既存のプロセス自体が不正の温床となっています。

思い付きの数字を使うことはあり得ませんから、どの数字を使い、どういう計算をするかは事前にコミットしておき、機械的に計算するという内部統制を構築しておく必要があります。

この分野でもリアルタイム計算を実現することこそ、リアルタイムレポーティングの肝です。

目指すべき中間地点

では具体的に目指すべき中間地点を考えてみます。

優先順位が高く、優先して克服すべき課題から書きます。

システム優先

フルオートメーションを実現するには、あるべき業務とそれを補助するITツールといった考え方は障害になります。

まず、システムがありきで、最終的に人間が不要になることが目的です。

システムが複雑になるような業務はやめて、システム的な視点から業務を設計する必要があります。

レポーティング要件の明確化

エクセルマクロやアクセスマクロ、メールベースでのデータ収集など、ブラックボックス化したレポーティングプロセスを解体するとともに、各種レポーティング要件を洗い出します。

レポーティング要件を明確にしないと、どのようなデータがどのような粒度でなければいけないのかといったデータ要件がわからず、これが出来ていないと、どんなシステムを構築しても、不透明な手作業が残り続けます。

取引データと属性データの区分

各種レポーティングに必要なデータを取引データと属性データに分解し、属性データを保持するマスターデータを統一するとともにオーナーを決めます。

属性データとは、取引先に関するデータであれば、主キーたる取引先コードに紐づけられる、取引先名称、上場区分、格付け区分、与信額、などの取引先マスターに記載されるべき取引先の属性データのこと。

個々の取引データには、取引先コードさえあればよく、後は、それをキーにして、しかるべき部署が管理しているマスターを参照して、レポーティングに必要なデータを取ってくれば良いことになります。

厳密には、マスターから取って来ればよいではなく、マスターから取ってこなくてはならない。

取引データの入力部署が責任を持つデータは取引データを参照しても良いですが、マスターデータ管理者が責任を持つデータについては必ずマスターデータを参照してレポーティングする必要があります。

内部統制上、責任の所在が不明なデータを利用してレポーティングするのだけは避けなくてはなりません。

レポーティングプロセスの自動化は、この取引先マスター、商品マスター、プロジェクトマスターなど、マスター整備に全てがかかっていると言っても過言ではありません。

マスターが整備されていない状態で、会計システム構築を始めても、バイパスルート満載の巨大ピタゴラ装置が出来るだけで終わります。

業務データ整合的な会計帳簿

会計帳簿保存義務など、会計帳簿を作らなくてよいという状況には当面ならないので、取引データを仕訳にして帳簿に格納することは当面避けられないでしょう。

しかし、目標は会計帳簿を廃止して、業務データからのダイレクトレポーティングです。

したがって、勘定科目の分解や仕訳ルールの細分化などは避け、上流データと整合するシンプルな形で帳簿に格納し、データの細分化は、出来る限りレポーティングレイヤーでのロジックで対応することが重要です。

例えば、銀行預金など、勘定科目は『銀行預金』の一つでよく、当座や普通の区分、銀行の区分などは、口座番号をキーにした口座マスターを参照すればよいという体制を構築する必要があります。

経理は、勘定科目で分解したがったりしますが、それは人の作業を前提にした考えであって、自動化を目指すのであれば、区分の元になるデータが取引データ内にあるのに、さらに勘定科目でも分けることに意味はありません。

レポーティング要件さえ明確であれば勘定科目での分類は不要です。

将来の業務データからのダイレクトレポーティングを実現するためには、できる限りデータ区分・集計ロジックをレポーティングレイヤーに寄せておく必要があります。

会計帳簿と上流システムの突合

帳簿デザインを上流システムと整合的にすれば、帳簿と上流システムを常に突合し、整合性を監視・維持することが出来ます。

そしてこれは、フルオートメーション財務諸表作成プロセスの前提たる、責任と権限の明確化の不可欠な要素です。

経理は財務諸表上の数字に責任を負いますが、その責任とは、マッピングロジック及びマッピング元データと業務データとの整合に対する責任を意味し、業務データに対する責任はそのシステムのオーナーたる業務部署が負うべきものです。

この権限と責任の明確な分離が出来上がっていて初めて、業務データからのダイレクトレポーティングが可能になります。

帳簿と上流システム内の業務データとの整合性が保持されている限り、帳簿上の手修正は不要で、経理としてはマッピングロジックのメンテナンスに注力という体制にする必要があります。

会計整合的な上流システム

システム整合的な帳簿を作るということは、その裏返しとして、上流システムも会計整合的にする必要があります。

現状は、経理業務がサイロ化しているせいで、財務会計上の要件を満たしていないデータが帳簿に流れてくることが多々あります。

レポーティングに足りないデータを補うために、経理部員がどこかからデータを取って来たり、業務部署からメールでもらったり、レポーティングプロセスに莫大な手作業が介在しているケースは多いです。

しかも、その参照している数字の責任の所在が不明確であったりすることもあります。

しかし、経理業務を自動化するということは、その手作業する人がいなくなることを意味するわけであり、また、レポーティングに必要なデータは、マスターに属性データとして保管されているもの以外は、取引データとして帳簿に流れてこなくてはシステムは何もできません。

業務部署としても、手作業する経理部員自体がいなくなる以上、自分たちは会計のことは知らないと言うことは出来ません。

上流システムサイドでのデータ修正もレポーティングロジックに対応した形式で行われる必要があります(かならずキャンセルチケット+新チケットなど)

フルオートメーションにするためには、上流システムにも会計整合的な視点を持たせる必要があります。

会計上の見積りの自動化

会計上の見積りのプロセスを見える化する必要があります。

仮定計算のルール及び計算の基礎として使う数字を事前に明確にしておき、機械的に計算するような体制にします。

また、見積りに必要なデータも当然データ用件の一つであり、必要なデータが取引データもしくは属性データに存在し、見積り計算が自動化できる状態を実現する必要があります。

従来決算業務のメインともいえるプロセスをオートメーションにするのは、そんなこと出来るはずが無いと思うかもしれませんが、高額な監査コスト、開示の遅れ、唐突な減損リスク等、会計上の見積りに恣意的な余地を残すことから生じているコストは今後ますます高くつくことになると思われます。

取引データと非取引データの区分

帳簿内のデータは全て、取引データと、減価償却や引当金などの非取引データに区分されている必要があります。

これらのデータ区分を明確にしていないと、キャッシュフロー関連データが帳簿から出力するロジックが複雑になります。

そして、経理部門による取引データ入力を禁止する必要もあります。

取引データに間違いがあれば、必ず上流データから修正し、帳簿上で取引データを修正することは禁止しなくてはなりません。

また、非取引データは簿価の切り下げなどもすべて洗替ベースとして、実現損益と未実現損益が混同しないように細心の注意をはらい、JGAAP上の問題はレポーティングロジックで対応すればよいだけです。

経理部員による取引データの入力が存在する限り、取引データからダイレクトでの財務諸表の全自動作成は達成できないという点に留意する必要があります。

終わりに

ブロックチェーン関係の本を読んでいてたら、会計システム関連の仕事をしていた時のこと思い出したので、ブロックチェーンの経理業務への影響を考えてみました。

ブロックチェーンによって会計帳簿が不要になるというのはかなりぶっ飛んだ意見がもしれませんが、IT化が高度に進むと、会計ルールというのはレポーティングルールでしかなく、従来の記帳ルールといった視点が不要になると思うのは私だけでしょうか。

少なくとも、業務データとレポートの間に高度に専門化した会計帳簿なるデータ箱を用意する意味はなくなるんじゃないでしょうか。

また、それこそが不正の温床であるというのは間違ってないと思います。

いずれにせよ、ここ最近のブロックチェーンがらみの動きは急展開といった様相を呈していますから、今後が楽しみですね。