Apple PayのストラテジーとVISAのタクティクス


Apple対VISA の大戦争という話です。

目次

はじめに

先日、Android Payの記事を書きました。

書きながらモバイル決済についてちょっと興味をもったので、あれこれ調べたら実は日本を中心に大戦争が起きているようなので、補足してみます。

前半は少し先日の記事と被るかもしれませんがご容赦ください。

また、いつも通り偉そうに断定的に書いていますが、後半は全部私の予想ですからご注意を。全然違うかもしれません(例のごとく考えすぎかも)。

なお、Appleの相手はGoogleではなく、VISAです。

ストラテジーとタクティクス

ストラテジー:戦略の意。もともとは、政治において、いつどこで戦争するかに関する意思決定を指す。

タクティクス:戦術の意。もともとは、具体的な戦闘において、相手にどう勝つかに関する意思決定を指す。

NFCとFeliCa

モバイル決済の話をするには前提としてNFCとFeliCaの理解が必要です。

いずれも、近距離無線通信の規格で、いわゆるクレジットカード決済のようにカードを端末に挿すのではなく、「ピッ」とか「シャリーン」とか、タッチするだけで改札やレジで精算が出来る仕組みに関する規格です。

この規格には、NFCとFeliCaの二つがあります。

厳密な話をすると、現在、FeliCa(より厳密にはその一部)がNFCの一部のNFC Type Fとして認められたので、FeliCaもNFCの一部とも言えるのですが、そこまで厳密に話していくとわけわからなくなるので、NFCとFeliCaは別物として話します。

本筋から離れるので端折りますが、日本ではFeliCaでネットワークが出来上がっており、世界ではNFCでネットワークが出来上がっています。現時点では、NFCが国際規格で、FeliCaが日本の独自規格という扱いです。

スマホ決済とガラパゴス日本

スマホ決済とは、そのFeliCaなりNFCなりのチップをスマホに搭載することで実現可能となります。

スイカ、nanaco、WAONなど、各カードにFeliCaチップが搭載されているわけですが、スマホにそのチップを載せれば、各カードをあらかじめスマホに登録しておくだけで、後はアプリ上で使用するカードを選んで、スマホをレジ端末にタッチすればよく、複数のカードを持ち歩かずに、スマホ一つで利用することが可能になります。

ここでポイントは、スマホなどの端末に搭載されているチップが、NFCなのかFeliCaなのかという問題だけでなく、レジや改札など、スマホの相手方の端末に搭載されているチップがどちらなのかという問題もある点です。

つまり、日本ではFeliCaネットワークしか普及していませんから、コンビニなどにはFeliCa対応のレジしかありません。

その点、Apple、Google、Huawei、Motorolaといったグローバル企業の出す端末には、国際標準規格のNFCしか搭載されていませんから、海外でのスマホ決済には全て対応していますが、日本では使えません。

日本では、店舗側にNFC対応のレジがありませんから、スマホ側の設計やアプリの工夫ではどうしようもなく、日本で発売された日本仕様のFeliCa搭載スマホ以外、日本ではスマホ決済が使えないという状況が続いていました。

壮絶なコスト競争の中で大量生産しているグローバルモデルに日本のためだけにFeliCaチップを搭載したり、日本市場用の特別モデルを用意したりするほど日本市場に肩入れする企業もありませんでした。

Appleが動くまではそうでした。

Apple Payの決断

しかし、日本で圧倒的なシェアを誇り、日本市場が特別な市場であるAppleが動きます。

iPhone7に日本のためだけにFeliCaチップを搭載するという決断をします。

世界で大々的にApple Payは展開されていますが、当然NFCネットワーク前提の仕組みです。

しかし、昨年秋に日本でもApple Payがローンチされます。

Suica発行元のJRなどと密に手を組み、Apple Payの設計を日本のためだけに練り直し、日本の既存のFeliCaネットワーク(おサイフケータイの仕組み)に乗っかることで、日本でもApple Payが使えるようになりました。

さあ、ここからが本題です。

Apple Payでのクレジットカード利用

さて、Apple Payですが、使っている人はまだしも、使っていない人は、今一つ何のことだかわかっていないと思います。

Apple Payで手持ちのクレジットカードや電子マネーがスマホで利用できるようになるとは一体どういうことでしょうか。

しかし、そうはいっても、Suicaなどの電子マネーがスマホで使えるというのはなんとなくわかるのではないでしょうか。

細かい話はさておき、カードの代わりにスマホでピッとやればよいだけです。

では、Apple Pay(iPhone)にクレジットカードを登録して使うとはどういうことでしょうか。

クレジットカードというのは、シャッとスライドさせて磁気コードを読み取ったり、ICカードを端末に挿して暗証番号を入力したりしますが、それをスマホでどうするのでしょうか。

実は、Apple Payにクレジットカードを登録すると、どのカードも、iDかQuick Payに割り振られます。

そして、実際にはiDもしくはQuick Payとして処理されます。

iDやQuick Payというのは、電子マネーのように使えるクレジットカードで、私もタクシーに乗った時はほぼ100%iDを使いますが、iD対応のクレジットカードは、電子マネーのように端末にかざすだけで「シャリーン」と決済でき、電子マネーではなく、あくまでクレジットカードですから、サインも暗唱番号もいりませんが、通常のカード利用と区分なくカード明細に記載され、月末締めの翌月末払いなどの支払いサイトで代金を払います。

つまり、日本において、Apple Payに登録したクレジットカードを店舗で使う場合は(要するにSuicaのようなプリペイドではなく後払い利用の場合)、iDもしくはQuick Payを使うことになります。

したがって、コンビニのレジで、ドヤ顔で「Apple Payで!」なんて言ってはいけなくて「iDで」もしくは「Quick Payで」が正しいです。

Apple Payの対応クレジットカード一覧なんてありますが、全てiDもしくはQuick Payのどちらかに割り当てられます。

トークナイゼーション

ここで、トークナイゼーションという話が登場します。

これは、モバイル決済の普及を支える話で、セキュリティの話です。

モバイル決済というのは不安が付きまとうものですが、実は安全性が現物のカードよりは高いと言える面があり、その核となるのがトークナイゼーションです。

Apple Payにカード情報を登録すると、当然カード情報がiPhone内に格納されるわけですが、どこにどうやって格納されるのかはAppleの企業機密です。

そうはいっても実際に決済する時には店舗とカード情報のやり取りするんでしょ、と思うかもしれませんがそうではないのです。

スマホの中で、カード情報は暗号化され、しかもその暗号情報には有効期限があって、一定期間経過すると新しい暗号情報に置き換えられる仕様になっています。

その暗号情報をトークンと言います。

そして、実際の決済の場面では、スマホから店舗のレジ端末に伝えられるのはトークンであり(暗号化されているとはいえ、トークン情報はカード番号と全く同じ桁数のため、無問題でレジを通る仕組みになっている)、そのトークンが店舗を出てカード会社のサーバーに行くときに、カード情報に戻されます。

つまり、カード情報は一切店舗側にはのこらず、スキミング的な可能性がゼロなのがトークナイゼーションです。通信をはジャックされてもカード情報は盗まれず、万が一不正利用されてもカードの新規発行は不要という利点もあります。

このトークナイゼーションの技術はもちろん、VISAカードならVISA、MastercardならMastercardが提供しています。

しかし、例外があります。それが、iDとQuick Pay。

この二つは、iDならNTT Docomo、Quick PayならJCBという、そもそもが日本だけの仕組みですから、その内部仕様も日本企業が握っています。

具体的には、日本でApple Payに登録したクレジットカードはトークン化されません。

iDなりQuick PayのID(紛らわしいですが)が割り当てられ、そのIDが通信されることで、カード情報が店舗側に伝えられることなく決済が行われます(トークン化されないから危険というわけではない)。

ここでの最大のポイントは、Appleはガラパゴス日本に対応し、FeliCaネットワークのiDとQuick Payを利用することにした結果、VISAカードをApple Payに登録して決済に使うのですが、日本でVISAが一切登場しない決済ネットワークを作ったことです(つまりVISAにネットワーク使用料が入らない)。

ごれは明確に、業界の雄たるVISAへの宣戦布告です。業界的にはこんなこと考えられない事態なわけです。

VISAの怒り

VISAというのは、ご存知の通り、クレジットカードの国際ブランドです。

クレジットカードにVISAのマークさえあれば、世界中のどこにでもあるVISA加盟店で利用可能で、加盟店数はダントツで世界一でしょう。

実は、一昔前までは、VISAというのは、一つの会社というよりは連盟的な要素が強いものでした。

名前は適当ですが、日本VISA連盟、アメリカVISA連盟、インドVISA連盟みたいな団体が各国にあって、各団体が自律的に運営していましたから、各国で加盟店を増やすのは早く、他のカードブランド比較して加盟店数では圧倒的に多かったのですが、体勢が世界中でバラバラでした。

それが、顕在化していたのが不正利用があった場合の対応です。

アメックスやJCBなどは、本社一括管理だったので、審査が面倒で遠く離れた国では加盟店数は少なかったのですが、その反面、加盟店は遠く海の向こうに合っても直轄管理でしたから、不正が行われた場合の対応は早いものでした。

しかし、VISAの場合は、各団体の自立性が強く、統一的な運営がされていなかったせいで、問題解決に非常に時間がかかりました。

例えば、自分のカードが行ったこともない国で不正利用がされたなんてことがあると、日本のVISA団体とその国のVISA団体との話し合いみたいなプロセスがあるせいで、いくら不正利用だと主張しても、とりあえず一旦支払ってくれみたいな話がたくさんありました。

しかし、2008年にVISAワールドがニューヨーク証券取引所に上場すると話は変わり、不正対応など、統一的な管理運営が実現します。

世界の隅々までいきわたった膨大な決済ネットワークの統一ですから、その労力たるや相当なものだったと思います。

そんな反面、世界中でVISAが使われ、どこで使用されようと、VISAがいくらかの手数料を持っていきます。

VISAにとっては、スマホ決済はシンプルなコンセプトです。

従来の電話線で繋がれた店舗間のVISAネットワークがあって、それをカードではなくて、スマホ(より正確にはスマホに登録されたカード情報)で利用するようになるだけです。

スマホに登録することで、カードを持ち歩く手間がなくなるだけでなく、VISAが用意するトークナイゼーションによって暗号化したりスマホの指紋認証と組み合わせることで、カードを持ち歩くよりも便利なだけでなく、スキミング等の不正利用を防止し、より安全にカードが使えるようになるという話でした。

その結果、VISAカードの利用も増えて、VISAの手数料収入も増えるだろうという話です。

したがって、VISAとしても、このブームに乗るべく、世界中で、ApplePayやAndroid Payの普及を側面から支援すべく、NFCにも対応できる最新型カード決済端末の配布に精を出していました。

スマホ決済とはいえ、カードがスマホになるだけで、使うのはVISAネットワークですから、Win-Winの関係だったわけです。

VISAとしては、従来のVISAネットワークをNFC端末でも利用できるように対応すればよいだけで、AppleやGoogleというのはそのネットワークを利用できるような端末やアプリを作るだけの会社のはずでした。

しかし、Appleは日本でApple Payを普及させるために、iDやQuick PayといったFeliCaネットワークを利用することを選び、それはイコール、VISAが登場しない(VISAに手数料が入らない)決済ネットワークを作ることを意味します。

VISAとしては、どこの国で発行されたカードでも、どこの国に行っても使えるというのが最大の売りですから、NFC規格での統一的なグローバルネットワークにこだわりがありました。

さらにVISAカードがVISA以外のネットワークで使用され、自分たちに手数料が入らず、AppleとドコモとJCBで山分けなんて言うのは到底容認できません。

その結果、VISAは、Apple Payの日本進出に非常に難色を示すことになるわけです。

Apple PayとAndroid Payの違い

結局、VISAの非協力により、Apple PayではVISAは使えない事態となっています。

正確には、VISAブランドのカードも、Apple Payに登録することで、コンビニなどの実店舗ではiDやQuick Payとして使えます(その場合はVISAのネットワークを一切経由しないので)。

しかし、Apple Payのオンライン決済ではVISAカードを使うことは出来ません。

Apple Payのオンライン決済とは、ネット通販などで、Mac BookやiPhoneについている指紋認証をクリアーすれば、カード情報などを入力せずに買い物ができるし、しかもネット上を流通するのは暗号化されたトークンのみという極めて安全なオンライン決済を実現する仕組みです。

トークン化する以上、オンライン決済でVISAカードを使う場合には、VISAのネットワークを使わざるを得ないのですが、VISAが参画しない結果、Apple Payに登録したVISAカードでオンライン決済は出来ないようになっています。

ネットでも安心してApple Payは使えるといったところでVISAブランドのカードが使えないというのは、Apple Payの致命的な欠点の一つです。

その一方で、昨年12月にローンチして、不人気絶頂のAndroid Payのプレスリリースには、「三菱東京UFJ銀行、Visa、Mastercardなどの企業との協力により」と明確にVISAが登場します。

カード決済ごとに手数料を取るAppleと異なり、GoogleのAndroid Payでは、手数料を一切取らないことを明示しています。

Googleは、VISAやMastercardが作ってきたネットワークを尊重して、彼らの領分を侵害しないことを明確に約束しているのです。

こうして、日本において、VISAは明確に反Apple PayのAndroid Pay陣営に立ったわけです。

Android Pay陣営

単に出遅れていただけのAndroid Payでしたが、日本においては、AppleがVISAに喧嘩を売ってくれたおかげで、VISAという強力なパートナーが後ろにつくことになりました。

ここで、日本の金融機関に目を向けると、散々「三井住友VISAカード」ブランドを宣伝し、日本ではVISAは三井住友グループと思っている人が数多くいるくらい、VISAとの蜜月を演じていて、実際にVISAと一番付き合いの長い三井住友カードが、あっさりとApple陣営に入るという事件も起きます。

Apple Payのページでは、「三井住友カード」という、VISAが付かない聞きなれないロゴがど真ん中に出てきます。

しかし、三菱東京UFJ銀行は同じ金融グループとして、破壊者たるAppleにつくことを拒み続ける形で(最終的にNICOSカードはApple Payに陥落してしいますが)、VISAに操を立てます。

その結果、VISA、Mastercardと同列で名前の明記されるパートナーとして三菱東京UFJ銀行がAndroid Pay陣営の背後につきます。

このような、VISA、Mastercard(この会社の挙動はよくわからなくて、Apple Payに入りますが実質的にVISAと利害は同じ)、三菱東京UFJ銀行という強力なパートナーを得ましたが、しかし、そうはいってもAndroid Payにはものすごいハードルがあります。

それは、結局どんな連合を組もうが、日本にはFeliCaネットワークしかないわけで、事実上それにのっからないと店頭でのスマホ決済は出来ないわけです。

そして、FeliCaネットワークに載るということは、VISAやMastercardのネットワークを使わないことを意味しますから、Android Pay陣営は身動き取れません。

結局、Android Pay陣営としてはNFCが日本で普及することを待つ以外にこれと言って策は無いというのが現状です。

しかし、2020年の東京オリンピックを待たずに、NFCチップ搭載のスマホを持った外国人が大量に押し寄せていますから、店舗側でのNFC端末は相当な勢いで進みそうです。

ただ、NFCの普及を待つだけの現在、Android Payは昨年12月に大々的にローンチするのですが、クレジットカードは一切登録できず、使えるのは楽天Edyだけとかいうおかしな状況になっています。

使えるのが楽天Edyだけっていったいなんなんだと思う人も多いかと思いますが、実はこの楽天がキープレーヤーの一人なんです。

楽天の野望

楽天は基本的には通販会社ですが、通販会社としての世界進出は完全に頓挫中で、国内でもAmazonにじわじわ押されてます。

しかし、楽天カードと楽天銀行はその勢力を着々と広げています。特に楽天銀行は、実際に使ってみるとかなり使いやすく、今後成長が期待できます。

もっとも、これだけメガバンクの力が強い状態で、今更銀行の成長ってなんだと思うかもしれませんが、その転機となるのが楽天ペイというサービスです。

楽天は結構前から楽天ペイというクレジットカード決済ビジネスをやっています(最近の名称変更で楽天ペイの範囲は広がりましたが)。

クレジットカード決済ビジネスとは、クレジットカード決済を利用したい事業者へのクレジットカード決済導入サービスです(分かりにくいな)。

スポンサーリンク

私のような個人事業者がお客のクレジットカードでの支払いに対応したい場合、どうするかというと、いきなりアメックスの本社に電話しても相手にしてもらえるはずはなく、「クレジットカード決済代行業者」という人たちに依頼することになります。

そうすると、代行業者の方で、VISAやらMastercardやらJCBやらまとめて審査してくれて、無事審査が下りると、カード決済用の端末を販売したり貸してくれたりして、無事にクレジットカード決済ができるようになるというものです。

お客がカードで支払った代金は、使ったカードがVISAだろうがMastercardだろうが、自分が契約した代行業者がまとめ、手数料を抜かれた分が自分に振り込まれます。

そして、昔はクレジットカードの導入は個人事業者にはハードルが高く、また、頑張って導入しても高い手数料がとられました。

しかし、現在はスマホに挿すだけの小型の端末が登場したことなどもあり(Coiney、Squareなど)、小規模事業者向けのクレジットカード導入競争が過熱化しています。

そのビジネスに楽天が大々的に参戦しているのです。

それはなぜかというと、近い将来の融資事業の本丸がそこにあるからです。

スマホでもクレジットカードでも電子マネーでも、店舗ではお金が動きませんが、最終的に、代行業者が一定期間の売上金総額から手数料を抜いて店舗側に振り込みます。

そして、近い将来、ある店舗のカードや電子マネーの決済代行を提供するというのは、その店舗のレジの中身を把握するだけでなく、一旦売上金を全額預かることを意味します。

融資事業という観点からは、レジを把握してかつ売上代金を預かる、クレジットカード決済代行会社が一番適切な与信管理ができます。

リアルタイムのキャッシュフローの把握に比べると、財務諸表とにらめっこする審査なんかはかなり精度の低い審査ですし、売上金を一旦預かることに比べたら返済日に融資先からの振り込みを待つのもかなりリスキーに見えてきます。

近い将来、消費者と生産者の垣根がなくなり、今以上にスモールビジネスは増えてくると思いますが、その時、楽天銀行は一気に天下を取ろうとしているのです。リボ払いの本丸は個人消費者ではなく個人事業者かもしれません。

楽天ペイ普及の主力戦略として楽天は現在、同業他社のどこよりも早く、各種電子マネー決済に対応しているだけでなくNFCにも対応したカード端末を導入し、大攻勢を展開しています(現在、他社はせいぜいICカード対応レベルで、電子マネーやNFC対応端末の準備は全くできていない状況)。

個人事業者には、決済代行業者との間で手数料交渉なんてほぼ無理で、規約通りの手数料を払うだけですから、どのカード決済代行業者を使うかに関してあまり束縛が無く、乗り換えも簡単です。

現在、海外ではすでにかなり普及している、NFC対応のApple Pay/Android Payスマホをもって来日しつつも、日本でそれらが使えなくて不便している外国人は爆買い中国人を含めたくさんいますが、困っているのは、それらの決済を受け付けられない店舗も同じなのです。

大手百貨店とかであれば、銀聯などと交渉して端末置くことも可能ですが、地方のお土産屋さんや飲食店なんかでは、この楽天ペイが配っている端末はすぐにでも欲しいものです。

そして、楽天銀行に口座を持っていれば代金は翌日に振り込んでくれますし、決済手数料も他社と同水準ですから、乗り換えに何の障害もないのが現状です。

NFC決済端末をすさまじい勢いて拡散しているこの楽天の動きは、NFC&トークナイゼーションにこだわりたいAndroid Pay & VISA連合にとっては、非常に心強い味方です。

Apple Pay導入で、日本は結局FeliCaで行くのかなという流れになりかけたのに真っ向から押し戻す勢いがあります。

三菱東京UFJ銀行の野望

ここで、VISA & Android Pay連合についた三菱東京UFJ銀行(以下BTMU)の動きも興味深いです。

BTMUがApple Payに最後まで難色を示し、VISAにきっちりと仁義を切った理由はおそらく、BTMUにとっての重要なのはクレジットではなくデビットカードだからです。

スマホでクレジットカードが使えるようになるといっても、それはクレジットカードを持っている人達の話で、専業主婦の一部や学生など、スマホは持っているけど、クレジットカードを持てない人はたくさんいます。

そして、その人たちにスマホ決済の道を切り開くのが、与信管理がほとんど不要のデビットカードです。

あわててFeliCaネットワークに乗っかったところで、使えるのはiDやQuick Payのポストペイ型で、現存しないデビットカードのネットワークはVISAのネットワークを使う以外ありせん。

日本は国民性的に、カナダのようにデビットカード強国になる可能性もありますから、しっかりとVISAに寄り添っておくのが良いと踏んだのでしょう。

BTMUは、スマホ決済が普及した結果、デビットカードの利用が爆発的に増えたという未来の絵を描いているような気がします。

そして、その時に欠かせないのはアメリカですでに運用が始まっている、キャッシュカードまでスマホにしてしまう作戦です。

キャッシュカードをスマホに登録できるようにして、ATMのNFCリーダーに指紋認証をクリアしたスマホをタッチすると、振り込みや引出が出来るようになるというのは誰もが便利に感じます。

現在、銀行側のごり押しが成果を出し始め、キャッシュカードにVISAデビットかつくのが当然化しつつあります。

つまり、キャッシュカードをApple PayだろうがAndroid Payだろうがスマホに登録するとATM利用が非常に便利になりますとして、カードをスマホに登録させる方向に持っていって、スマホ決済に抵抗がある層にもNFC利用を一般的にすると共に、ほぼ同時にデビットカードが登録されるようになればしめたものです。

ここは、メガバンクの中でも先陣を切りたいところで、そのためにもVISAに恩をしっかり売っておきたいと思ったのでしょう(キャッシュカード&ATMでも独自ネットワークを作るのではなく、VISAデビットのNFCネットワークに相乗りするんじゃないだろうか)。

Android Payのタクティクス

ここで、もう一度、Android Payのプレスリリースの一部を引用してみます。

2017 年には、フェリカネットワークスとの連携によりAndroid Pay に対応する電子マネーの種類も増える予定です。また、三菱東京UFJ銀行、Visa、Mastercardなどの企業との協力により、お気に入りのアプリからの Android Pay チェックアウトなど、今後もより多くのサービスの提供を予定しています。

前半にはFeliCaネットワークと連携する旨が明記されていますが、電子マネーの対応が増えることしか明記していません。

したがって、Android Payで近いうちに三菱東京UFJ グループのクレジットカードが使えるようになるというのは、個人的には可能性は低いと思います。VISAと連携する以上、NFCが対応するまで、Android Payの店頭決済で使えるのはSuica以外の電子マネーだけではないでしょうか。

その反面、後段ではAndroid Payチェックアウトを明記するとともに、そこに三菱東京UFJ銀行、VISA、Mastercardが登場します。

つまり、日本でのAndroid Payの決戦場はオンライン決済なのかなと思います。

Android Payチェックアウトというのは、Android Payのアカウントで買い物ができるようになる仕組みです(Apple Payのオンライン決済と同じ)。

Chromeのプラグインを入れてあらかじめアカウントを登録しておくと、通販サイトの支払いのところで、「Android Payチェックアウトで払う」という選択をして、後は、ブラウザ上の承認ボタンを押せば、カード情報を入力したり、相手方にカード番号を伝えたりせずに安全に決済ができるというものです。

Amazonや楽天などの大手サイトだと、カードを登録しておけばログインするだけでワンクリックで買い物ができるので大したことないように見えますが、相手が信用できない場合や一回きりのサイトなどで、相手には一切カード情報を伝えずに(正確には暗号情報しか伝えずに)、決済できるためにカード決済のハードルが下がります。

そして、Apple Payにも同様の機能があるのですが、この仕組みにはVISAのトークナイゼーションが欠かせないのにVISAが協力を拒否しているため、VISAブランドのカードが使えないということで、Apple Payのオンライン決済は非常に使い勝手が悪くなっています。

そこで、Android Payとしては、VISAが使えるという差別化を図るのだと思います。

さらには、VISAネットワークが使えるということは、クレジットカードだけでなくデビットカードやVISAプリペイド(チャージ型のカード)が使えることを意味しますから、主婦や学生などのクレジットカードを持たない・使いたくない層のオンライン決済を劇的に改善する可能性があります。

そうして、Apple Payでは使えない、Edy、 nanaco、WAONと流通系の電子マネーも使えるようにしておいて(これだけだとおサイフケータイとの差別化にはなりませんが), 主婦層や学生層の囲い込みをしつつ、猛烈な勢いでNFC端末を配布していく予定なのではないかと思います。

これが私の予想するAndroid Payのタクティクスです。

Apple Payのストラテジー

以上、だらだら書いてきましたが、実はタクティクスの話をしています。

Appleが自分の上得意先である日本のために、わざわざApple PayをFeliCaネットワークで使えるようにしてきたというところから戦争が始まったという流れです。

そして、Appleの先制攻撃に対して、VISA & Android Pay連合がどう迎え撃つのか、日本というガラパゴスだけど無視できない特殊な土地の取り合いという、完全に局地戦のタクティクスの話をしています。

しかし、天下を争うにしても、どこで戦争するのかを決めるのがストラテジーで、Appleには、日本でVISAと戦争を始めることをその一部として含む大きなストラテジーがあったはずなのです。

日本は世界を代表するiPhone大好き国なので、Appleとしても無視できず、“特別に”日本仕様のApple Payを開始したという意見は、ビジネス=競争のような、単純すぎる、ストラテジーに欠ける話です。

Appleがそんなことするとは思えません。

楽天のように、『世界一のIT企業』みたいな、目先のライバルと戦争するだけのストラテジーをもって外に出ていくと、ただ目の前の縄張り争いに終始するだけで、いつの間にか熱くなって、負ける時=全滅する時みたいな流れになります。

私は下手ながら囲碁をします(以下の語りから推測されるようなレベルではないですが)。

囲碁とは、王様を取り合う将棋と異なり、白と黒の石を交互に置いていき、最終的に囲った陣地の大きさを競うゲームです。

当然ですが、交互に置くわけですし、置いた石が勝ってに動くことはありませんから、自分が相手より大きな陣地を囲えるはずがないのが原則で、陣地の大きさは50:50が自然な結果です。

しかし、初心者ほど、ゲームの目的を白と黒の戦いと捉えて、すぐに陣地の奪い合いを始めます。

しかし、上級者になればなるほど、50:50が当然の結果という原理をしっかり受け止めて、自陣を張りやすい隅が4つあれば相手と二つずつ取って五分の別れで良しとして、自陣を延長しやすい辺が4つあればこれも相手と二つずつ取って五分の別れで良しとして、勇むことなく臆することなく、局面は局面と割り切り、最後に51:49にすることだけを考えて打ちます。

時々局地戦は起きますが、あくまで、51:49の最終図を実現する大局観の中で起きるのであって、個々の局地戦で相手を倒そうと熱くなるなんていうのはもってのほかで、一方で勝ったら他方で負けてと痛み分けで終わらせつつ、常に全体を見渡しながら、最後にほんのわずかに自分が有利な状況を実現できれば上出来と考えて戦う人が強い人です。

もちろんビジネスは囲碁とは違いますから51:49を目指すわけではありませんが、そういった個々の行動を束ねるのが大きな考えがストラテジーであり、Appleにもそういうストラテジーがあるはずなのです。

確かに日本は世界で唯一のFeliCa大国ですから、ガラパゴスです。

一般人にとってガラパゴス諸島というのは異世界的なおかしな島です。しかし、生物進化学者的には、純粋に進化を考察できる研究材料の宝庫でもあります。

Appleが目指しているのは、Appleが無いと人々が生活できなくなるような、ハードとソフトの両面での近未来のITインフラ企業です。

そういった観点から、ライバルのIT企業だけでなく、インフラ企業の動向もしっかり研究しているのではないでしょうか。

そして、ガラパゴス的な存在になったとはいえ、世界でNFC決済が話題になる5年以上前におサイフケータイが始まったモバイル決済先進国たる日本で、あれこれ乱立しながらも最終的に交通系電子マネーが天下を取りつつある状況を良く見ているのではないかと思います。

つまり、各業態入り乱れたのモバイル決済大戦争の中で、最終的に交通系マネーが大幅にシェアを拡大する可能性を考慮したのだと思います。

FeliCaが世界標準になれなかったのが政治的理由なのははっきりしていて、技術的にFeliCaの方がNFCより優れているのは誰もが認めるところです。

そして、JRは押されっぱなしではなく、FeliCaの技術をNFCのType Fとして、世界標準の一つとして承認させました。

また、それを受けて携帯電話の国際団体であるGSMAは、現在、交通系ICカード対応する携帯電話機には全てNFC Type Fに対応することを義務付けているそうです。

電車の改札などの交通系の非接触型の決済ではFeliCaの方が世界標準にふさわしいのではないかという流れが出来つつあるわけです(もちろん最終決着はまだ先ですが)。

つまり、FeliCaが世界で巻き返す可能性があると踏んだのではないでしょうか。

NFCで作った仕組みをFeliCa対応に組み直すというのは、チップを変えれば済む話ではなく、500ミリ秒で処理すれば間に合うところを全て200ミリ秒以内で処理できるように設計し直すという話ですから、なかなか大変な話なわけです。

持っていると世界中のどこでも安全に買い物ができるだけでなく、世界中どこでも電車などの自動改札も通れる究極の端末というiPhoneの未来を考えた場合、ガラパゴスなのではなくて、ある意味世界のトップを走っているかもしれないJRと今のうちに提携しておくのは重要な布石と考えたのでしょう。

Appleとしては、今後来るかもしれない世界各国での交通系電子マネーの隆盛に備えて、真っ先にそれに対応できる体制の構築が重要と判断したのだと思います。

その布石を原因として日本で生じるVISAとの争いなど、勝とうが負けようが、ほどほどのところで落ち着けばよい程度の考えなのではないでしょうか。

確かに日本では泥沼になるかもしれませんが、それよりも、将来、新興国などで、Apple+JR連合が交通系インフラ会社と組んで、VISAなどの既存資本が持っている金融インフラ利権をその一部でも塗り替えていけば、最終的には大きな利益になると踏んでるかもしれません。

それに、FeliCa対NFCがどうあれ、VISAは金融インフラ会社で手数料ビジネスですから、窓口は広い方が良いわけで、Apple Payでは自分たちのネットワークは使用させないという選択肢は基本的に取れません。

そこらへんも見越したAppleの、シリコンバレーの連中の最終目標である、金融部門を取りに行くという、壮大なストラテジーの一つだと思います。

その一方で、Apple Payへの協力を拒んでAppleを困らせるとともに、Android Payが日本で市民権を得るように必死に後押ししているVISAですが、どんなストラテジーがあるのでしょうか。

VISAの敵は、Appleではなく、技術の進歩をきっかけとして金融に進出しようといている各国の交通系大連合かもしれないわけです。今後Apple & JR連合が、新興国の鉄道会社に行って、VISAが出てこれないFeliCaでネットワーク作ると儲かるよと、説得して回った時に、VISAとすればどう出ればよいのか。

ここまで勝手予想を語って来てなんですが、VISAが打つ手はないんじゃないでしょうか。

VISAとしては、奪われることはあっても奪うことはない戦いですから、どう考えても防戦一方ですね。

・・・・・・・・・・・

書きすぎてもう考える力が残ってません。

ただ、Appleとしては、VISAとの泥沼戦争で日本のスマホ決済環境が規格乱立の焦土化して、ユーザーが困るのはやむを得ないと思っている気がします。

日本が大事だからFeliCaへ対応したのではなく、どうせ日本のAppleファンは多少不便でもiPhoneを使い続けるだろうと踏んでいるのかもしれません。

いずれにせよ目が離せないスマホ決済大戦争です。

最後力尽きてすみません。

参考

以下を妄想で補って書きました。
記事1
記事2