ヒートテックかピースフィットか:機能性インナーの基礎



目次

はじめに

私はアウトドア派ではないのですが、一応はスポーツマンですし、寒い中で汗をかくスキーが趣味だったりすることもあって、例にもれず機能性インナーが好きでたくさん持っています。

先日、妻がインナーを買うのに迷っていたので、いろいろとアドバイスしたら、感心したらしく、そういう人様の役に立つ知識をブログで記事にしなさいと叱られたので、機能性インナーの基礎を解説します。

市場には様々なインナーがあるので選ぶ際の参考になれば幸いです。

なお、私はエベレストを登るつもりも、南極を横断する予定もないので、そのレベルの知識ではないことはご容赦ください。

インナーの2つの目的

私たちがインナー、つまり肌着・下着を着る理由には以下の2つがあります。

1.汗を処理して快適さを保つこと。
2.体温を保温すること。

まず、汗の処理には、吸湿性、吸汗性(吸水性)、速乾性の3つの機能が絡んできます。

ここで、吸湿性と吸汗性(吸水性)って同じじゃないのかと思うかもしれませんが、違います。ごっちゃに使うこともありますが、厳密な議論では分けるのが通常です。

実は汗には2種類あって、平常時に水蒸気(つまり気体)としてでる汗と、運動時に水(つまり液体)としてでる汗があります。

そして、水蒸気としての汗を吸収する機能を吸湿性、水としての汗を吸収する機能を吸汗性(吸水性)と呼びます。

玉のような汗が出るような運動時には、吸湿性がいくら優れていても、吸汗性(吸水性)がなければ何の役に立ちません。

速乾性とは、吸収した汗を外に放出する機能ですから、吸収段階で汗が気体だったか液体だったかは関係ありません。

保温性には、断熱保温性と発熱保温性という2つの機能が重要となります。

体温によって暖められた空気を体の近くに保持して外部に流出するのを防ぐ断熱保温性と、素材自体が発熱することで体温の低下を防ぐ発熱保温性があります。

以下、各機能の詳細を素材との関係で見ていきます。

機能その1汗の処理

汗の処理において重要なのは、吸湿性、吸汗性(吸水性)、速乾性です。

吸湿性

吸湿性とは、繊維が気体状の汗を吸収する機能です。

ここで、気体状の汗というのは、要するに気体状の水のことですから、つまり水分子を吸収する機能のこととなります。

そうすると、分子レベルの水を吸収する話ですから、繊維の性質も分子レベルの話になってきます。

つまり、吸湿性のある繊維とは、その繊維を電子顕微鏡で分子レベルに拡大したときに、繊維を構成する分子に、親水基と呼ばれる、水と親和性の高い構造があるかどうかで決まります。

したがって、吸湿性は、糸の撚り方や編み方とは一切無縁の世界で、素材で決まります。

例えば、羊毛(ウール)や綿といった天然繊維や、天然繊維を人工的に模倣した化学繊維であるレーヨンなんかは、親水基がたくさんありますから、非常に吸湿性は高いです。

その一方で、アクリル、ナイロン、ポリエステルといった化学繊維の多くは、吸湿性が弱いといえます(ポリエステルはほぼゼロに近い)。

吸汗性(吸水性)

吸水性とは、液体状の汗(水)、つまり分子が多数集合した状態の水を吸収する機能ですから、分子レベルの話ではなく、毛細管現象の話になります。つまり、電子顕微鏡ではなく、通常の顕微鏡で見るレベルの話になります(カッコつけて言うと化学現象ではなく、物理現象の世界)。

繊維の中の隙間に水滴がどれだけ侵入していけるかで決まります。

したがって、素材の分子そのものが親水性かどうかとは関係なく、繊維を作る段階で、どれだけ内部に隙間のある繊維を作れるかにかかっています。

繊維の表面積を増やせば吸水性は上がると言って良く、繊維の極細化や異形化によって吸汗性は向上できます。

速乾性

速乾性は、吸水性の裏返しに近いです。毛細管現象で繊維内部に小さくされて伝わっていった水分子は、最終的に外気に触れて放出されます。

したがって、吸汗性(吸水性)に優れる繊維は、速乾性に優れ、汗をよく吸いますが、早く乾きます。

その一方で、吸湿性に優れる素材は、素材を構成する分子自体が水とくっつきやすいので速乾性は低くなります。

機能その2保温性

汗の処理に次ぐインナーの機能である保温性についてです。

保温性については、断熱保温性と発熱保温性の二つの性質からなっています。

断熱保温性

断熱保温性とは、暖かい体温と冷たい外気の間に断熱材の壁を作り、体温によって暖められた体の周りの空気(の熱)が逃げないようにすることです。

もっとも、そうはいっても魔法瓶のような服はまだありません。では、一体どのような断熱材の服を着ればよいのでしょうか。

この点に関して、以下の熱伝導性が重要な指標となります。

空気 1
ウール 7
レーヨン 11
綿 17

つまり、空気の熱伝導性を1としたときに繊維の熱伝導性は約10倍以上あります。

なので、どんな繊維を身に着けるよりも、空気の鎧を身に着けるのが効率的となります。

空気の鎧とは何ぞやと思うかもしれません、しかし裏起毛の繊維が暖かいことは誰もが経験として知っているはずです。

その理由は下記となります。

起毛の間に対流しない程度の薄い空気層ができ、これが断熱材となって、体温によって温められた空気が体の周りから逃げるのを防止して暖かいわけです。

ダウンが暖かい理由も同じ理由です。

ダウンというのは、タンポポの綿毛のような構造をした非常に特異な繊維で、超極細の繊維が絡まり合うことで空気の対流を防ぎつつも大量の空気を保持できるので非常に暖かいわけです。

このように、保温性の核となる断熱保温性に関しては、如何に体の周りに空気層を保持するかという点がポイントになります。

発熱保温性

発熱保温性というのは、素材そのものが発熱することで暖かさを維持する機能です。

なんとなく、新素材とかハイテク素材のような気がしますが、天然繊維が持っている機能です。

発熱保温性というとかっこよく聞こえますが、要するに水和熱のことで、吸湿性の高い素材、つまり、分子の中に親水部を持つ素材が水蒸気とくっつくと水和熱が発生して繊維があったかくなるわけです。

化学繊維が無かったころは、登山用衣類といえば羊毛(ウール)でした(実は後述するように今でもウールは人気ありますが)。

それはなぜかというと、天然繊維の中では、羊毛(ウール)が一番吸湿率が高く、その分だけ水和熱も高いからです。

機能間トレードオフ

さて、いままで、汗の処理では、吸湿性・吸汗性(吸水性)・速乾性、保温性能では、断熱保温性と発熱保温性といった性能を見てきました。

では、それらの全てに優れた万能素材というものはあるのでしょうか。

もちろん、各素材メーカーはそれを実現しようとしているのですが、各性能には本質的にあちらを立てればこちらが立たずというトレードオフがあります。

吸湿性&発熱保温性と速乾性

まず、吸湿性に優れた素材というのは、繊維を構成する分子自体が水を吸収するので水和熱も大きく、つまり発熱保温性は高いです。

したがって、吸湿性が高いほど暖かい素材といって間違いないのですが、それだけ水とくっつきやすい素材でできた繊維ということになりますから、速乾性は低い素材ということになります。

断熱保温性と速乾性

断熱保温性と速乾性にもトレードオフが生じます。

繊維を極細化して、ものすごいミクロなレベルで繊維の内側に隙間を作ると、上で説明したように毛細管現象が加速しますから、吸汗性(吸水性)は向上します。さらに、繊維内部に隙間がたくさんあるということですから、それはイコール繊維の内部に空気層が存在するということですから、断熱保温性は増します。

しかし、繊維の極細化には限界があります。

そこで、ダウンやフリースのように、細い繊維をタンポポの綿毛状に絡ませるという、もう一段階スケールの大きいところで工夫すると、厚い空気層を作ることができ、断熱保温性は格段に向上します。

しかし、一定以上空気層が大きくなると、隙間が大きくなるということですから、その大きな隙間に大きな水が保持されることになって、その分速乾性が落ちてしまいます。

保温性VS速乾性

以上のように、保温性と速乾性というのは本質的にトレードオフの関係にあります。

保温性が高い素材というのは、その弱い速乾性を上回る汗を吸うと、どんどんびっしょりになって来て、空気の熱伝導性を1とすると水の熱伝導性は25ですから、汗冷えといって、保温性が台無しになるどころか寒くなってくるという弱点があります。

こういった理由で、綿のシャツは吸湿性・断熱保温性は高いものの高すぎる結果として速乾性がかなり低く、汗を一定以上吸収するとびっしょりになって、却って体温を奪われることになりますから、スポーツには向かないとされます。

また、ダウンのジャケットも、暖かいものの速乾性が低いので、登山家なんかは汗を大量にかく登りの局面ではダウンはあまり着ません。

登山において登る局面では汗を大量にかくと同時に体が発熱しています。したがって、保温性はそこそこだけど、動きやすさ&速乾性に優れたやや薄手の機能性フリースなどを着て、汗冷えしないように極力汗を体外に放出するようにします。

そして、体温が下がり汗をあまりかかなくなる休憩時に、バックからダウンを取り出して着ます。

そういう経緯から、これまで不思議に思っていた人も多いかもしれませんが、ダウンジャケットの広告では、丸めるといかに小さくなるかがやたらとアピールされているわけです(一般人にはほとんど関係ないのですが)。

また、時々アウトドアブランドの高機能フリースを高いお金出して買ったけど、大して暖かくないと不満を言っている人がいますが、高機能フリースというのは、そこそこの保温性を維持しながらいかに動きやすく、かつ、汗を外部に放出するかで勝負しています。

暖かさだけを見たら、フリースではなくダウンを着るべきですし、同じフリースでも、モコモコしたユニクロの方が上に決まっています。しかし厚い空気層を持ち断熱保温性の高いウェアはいずれも汗をかくとぐっしょりになってしまいます。

高機能フリースといえば鉄板はPatagoniaのR2で(試しにググってみるとわかります)、私もスキーで必ず着ていますが、動きやすさと、汗をかいてからの速乾性のすごさは初めて着た時にはビビるレベルです。また、一般人レベルでは十分暖かいです。

モンベルの2トップ

機能間のトレードオフを話したらモンベルの話は避けられません。

モンベルは今や超メジャーブランドに成長し、単にアウトドアブランドでは片づけられないところまで来ました。

そのモンベルは、アウトドア用のインナーにおいて、ジオラインとメリノウールという2ラインを出しています。

つまり、超有名アウトドアブランドが、機能性インナーとして、ジオラインとかいう一般人は聞いたことないハイテク素材を押すだけでなく、メリノウールという昔からある天然繊維も並列で押しています。

この2種類、アウトドア界隈やインナーマニアの間における、結局のところ究極のインナーは化学繊維かメリノウールかという熱いトピックになるので紹介します。

ジオライン

モンベルのジオラインというのはモンベルが開発した合成繊維で、これをつかったインナーのシリーズは、暖かくかつ速乾性に優れる超高機能素材としてアウトドア愛好家からは大人気の商品です(ヒートテックとかピースフィットとはレベルが違う世界)。

絵にすると下記のような感じです。

他にも、いろいろな工夫がされているのですが、基本的には繊維を極細化して、断熱保温性を高めると共に吸汗性・速乾性を高めた素材です。しかし、その繊維の外側だけ親水性の物質でコーティングすることで、水を吸収しやすくしつつも、外側だけのコーティングにしてあるので繊維の内部には水溜まらないようになっていて、吸湿性を高めて発熱保温性までつけているにもかかわらず、速乾性は損なわないようにした、相当の高機能繊維です。

さらに、独自の技術で生地を2層構造にして間に空気層ができるようになっていて断熱保温性もかなり高めています。

しかし、こんなすさまじいハイテク素材があるにも関わらず、モンベルでは、メリノウールという古くからある天然繊維のインナーも並列に扱われています。

メリノウール

メリノウールというのは、羊毛(ウール)の中でも質の高いウールなのですが、通常のウールとの差は肌触りとかそういう話なので、機能的にメリノウールが特殊なわけではありません。

メリノウールは昔から登山家に愛されている素材で、「化学繊維が進歩したといろいろ言われているけど、結局のところ、ブランドの宣伝に過ぎず、自然の良質なウールには追い付いてないんだ」といった発言と共に、愛されつつも化繊愛好家との間では議論が絶えない素材です。

このウールという素材は吸湿性が抜群に高いので、発熱保温性は高いのですが、上述したように速乾性が低いために、汗冷えという難しい問題が生じそうです。

にもかかわらず、愛好家が多いのは何故でしょうか。

それはウール独特の以下のような構造にあります。

ウールというのは非常に複雑な構造をしており、うろこのようなもので表面がおおわれています。

このうろこは撥水性で水をはじくのですが、内部が水を吸いやすく、乾燥状態ではうろこは閉じているのですが、隙間から少しずつ水が浸入して吸収されます。

しかし、水を吸収するとうろこが開いていき、空気層ができるという特徴があります。

したがって、水を吸収するのですが、立ったうろこのおかげで空気層が出来て断熱保温性が高いのと同時に、肌に触れるのは撥水性のうろこの部分のため、肌が水分と直接触れずに、汗冷えしにくいという特徴があります。

ジオラインかメリノウールか

以上のように、ジオラインというは、吸汗性・速乾性がコアとなる化学繊維を軸に、断熱保温性と発熱保温性をできる限り高めた素材であるのに対し、メリノウールは汗を吸収して発熱するという高い発熱保温性を利用しながらも、快適さをなんと維持しようとする発想です。

当然、ジオラインで言えば、繊維を親水性の素材でコーティングしていると言っても、表面だけでほとんど水を吸収しない以上、水和熱がほとんど出ませんから、発熱保温性は低く、メリノウールの方が暖かいです。

その反面、メリノウールでは、水分と肌が直接接しないと言っても、速乾性はほとんどありませんから、汗を大量にかけばべっとりと肌にくっついてしまい、繊維構造から推測されるような快適性はありません。

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したがって、結局は保温性か吸汗速乾性というトレードオフの問題であり、どちらが優れているかという議論はナンセンスです。

重ね着で工夫すれば保温性の低さは補えますし、また、重ね着の結果直接風を受けないのであれば、汗冷えはそこまで気にならないかもしれません。

結局、インナーの上に何を着るか、どのようなアクティビティを想定するか、着る人がどれくらい汗をかきやすい人か等によって、どちらを快適と思うかが変わってくるだけで、どちらが優れているというものではありません。

その結果、モンベルのような良質なメーカーは、独自開発の素材がナンバーワンと主張するのではなく、古くからあるメリノウールと並列で、用途と好みに合ったものを選んでねと態度を取っているわけです。

さて、ここまで来てやっとヒートテックやピースフィットの話ができるようになりました。

ユニクロのヒートテック

ユニクロのヒートテックは、あまり繊維の構造面を前面に出していないので、詳細はわからないのですが、組成表示を見ると通常の機能性インナーにはない特徴があります。

それは、レーヨンが20%含まれている点です。

レーヨンは綿と同じセルロースという分子から構成されています。そして、セルロースというのは親水基を多く持つ、超親水性物質です。

したがって、ユニクロのヒートテックは、吸湿性に優れ、かつ、水和熱も大きいですから発熱保温性も高いです。

暖かいことは間違いありません。レーヨンを使うことで肌触りがよくなっていることも間違いありません。

しかし、その分汗を大量に吸ったときにレーヨンの弱点がもろに出ます。

つまり、速乾性が低いです。レーヨンを混ぜることで速乾性を犠牲にしてでも、発熱保温性(暖かさ)を優先したインナーといえます。

したがって、暖かいのは間違いない反面、暖かい分には困らないだろうなんて軽い感じで、適当に極寒使用のヒートテック・ウルトラなんかを着てしまうと、どんどん発熱するだけでなく、汗びっしょりになり、極めて不快&汗冷えしてしまいます。

また、ノーマル、エクストラ、ウルトラと段階が上がるにつれ、単に生地が厚くなってしかも裏起毛になるだけという点では、保温性が上がる反面、比例して速乾性はどんどん悪くなっていくような気がして、その工夫のなさが気になります。

この点が、一部のスポーツマンやアウトドア派の人たちがヒートテックを着ない理由となります。寒いけど汗をかくという場面では着ないほうが良い素材です。

寒い中で汗をかくアクティビティをする時には速乾性こそが肝で、どんなに暖かくても、汗がたまっていき休んだ時に汗冷えするのだけは避けなくてはいけません。水の熱伝導率は極めて高く、空気の25倍ですから、繊維が大量の水を保持するとすべての機能が台無しになります。

このように、ユニクロのヒートテックを着る時の注意点は、適切な種類のものを着ないと逆効果になるから、適切なグレードを選び、軽く汗をかくくらいの日常生活に限定する必要があるということになります。

イオンのピースフィット

ピースフィットには、瞬間温感と綿入り厚地の2種類あります(実はメンズにはSTRETCH&DRYというすごい優秀なラインがあって私の一番のお気に入りなのですが素材的には普通なので省略します)。

まず、瞬間温感のほうは、ヒートテックと同じくレーヨンが入っています。つまり、着た瞬間に体から出る水蒸気を吸って発熱するから瞬間温感です。しかし、ヒートテックと同じ理由で、汗を大量にかく局面では着ないほうが良いでしょう。また、素材もたいして変わらないような気がします。

しかし、ユニクロのほうは極寒用のウルトラでもレーヨンを入れているのに、ピースフィットのラインナップの中では、最も暖かいラインである綿入り厚地ではレーヨンが組成からなくなります。

ここがちょっと東レ(ヒートテック)と東洋紡(ピースフィット)の哲学の違いが出ていて面白いです。

ピースフィットの綿厚地では、レーヨンの代わりに、綿を持ってきます。しかも、コストをかけて、2層構造にして、肌側を綿にします。

なぜ綿かというと、それは化学繊維と異なり、肌触りが圧倒的に良いからです。

しかし、綿はレーヨンと同じく吸湿性が高いですから、水和熱を発生して暖かい反面、速乾性に劣ります。

そこで2層構造にするわけです。ユニクロのように、生地を厚くして裏起毛にするのではないところに違いがあります。

二層構造の外側は、2種類の太さの異なるアクリル(吸湿性は低い)を絡めた繊維素材を使用することで、断熱保温性・吸汗性(吸水性)・速乾性に優れた素材となっています。

下記のような感じになります。

つまり、ピースフィットの場合は、通常の綿100%のシャツの外側にアクリル混紡素材を配置する二層構造で、外側の断熱素材で断熱保温性を綿よりも高めて暖かくしながらも、その速乾性を生かして綿で処理しきれない汗を吸い上げ、何とか外に排出して快適に保とうとしているわけです。

この構造を取った理由は、おそらく肌着は肌着として、着心地を優先したからだと思います(+後述するようにコスト)。

実際にヒートテックとピースフィットでは肌触りが大きく異なり、ピースフィットの方が着心地は圧倒的に上ですインナーとしての機能が優れているとは言え、化学繊維バリバリの機能性スポーツインナーを日常生活で着たいと思はない人は多いというてんを考慮してあくまで日常肌着であるというところにこだわったのでしょう。

しかし、吸湿性の高い綿を前面に出してしまっていますから(組成の50%が綿)、平常時には快適だとしても、裏起毛にせずまた特殊アクリル繊維を外側に配置して速乾性高めてはいるものの、汗を大量にかいた時の不快感&汗冷えの恐れはヒートテックとは微妙な勝負です。

結局、快適な綿シャツのパワーアップ版を着たいか(ピースフィット)、スポーツインナーの素材に工夫を凝らして肌着に近い感覚を実現したインナー(ヒートテック)を着たいかの2択となります。そしていずれも運動時の快適性は全く期待できない素材です。

もっとも、最近出たヒートテック・ウルトラレベルの暖かさを持つピースフィットはないので、暖かさが最優先であればヒートテックになります。しかし、レーヨンを含んだ素材であそこまで地厚にして、しかも毛の長い起毛にしたせいで、水分が大量に保持されることになり、相当速乾性に問題があるような気がします(実際に日が差す昼間には着て外を歩いたりすると汗まみれになる)。

さすがに、ヒートテックとピースフィットの、汗を大量に吸った時の不快感の差についての比較は表現できません(汗かきなので両方経験ありますが不快としか言いようがないです)。

ヒートテックとピースフィットの改善点

ここでは、実質的には繰り返しになりますが、ヒートテックとピースフィットがどうすればもっと良くなるかという、裏側から両者をまとめてみます。

まず、ヒートテック・ノーマルは、素材上の特徴は、レーヨンが含まれていて保温性は高い半面速乾性が低いのですが、生地が薄いので速乾性の低さはそれほど気になりません。これはこれで完成した商品です。

しかし、みなさんご存知のように大して暖かくない。

そこで、エクストラ、ウルトラ、と上位グレードがあるのですが、ここで、単に生地を地厚にして裏起毛にしていくだけというのがいただけません。

保温性は高くなっているとはいえ、汗を吸収することによる発熱保温性が高すぎる&速乾性が低すぎて、着たことある人はわかると思いますが、ちょっと動くとすぐに暑くなってきて、しかも性質上温度上昇が加速するので腋の下を中心に確実にぐっしょりしてきて、非常に不快になります。

これは回避することが出来なかったのかといえば、そんなことはありません。

地厚にするにしてもピースフィットのように2層構造にして、2層目にはこれまたピースフィットのように吸湿性はゼロだが吸汗性&速乾性に特化した素材を使うことで、外側の断熱保温性を上げてトータルの保温性を向上するとともに、1層目に一定以上の汗が侵入した場合にそれを毛細管現象で吸い上げて外部に放出する仕組みを使えば、保温性を向上させるとともに、快適性も向上できたはずです。

これをしなかったのはおそらくコストの問題でしょう。

そして、これはピースフィットの綿入り地厚モデルにも言えます。

せっかく2層目に断熱性・吸汗性・速乾性に優れた特殊アクリル混紡繊維を使っているにもかかわらず、一層目を単純に綿にしてしまったがゆえに2層目で処理できないレベルの水分が1層目にたまることになります。

1層目で瞬間温感で使っているようなレーヨン入り合成繊維を使って、吸湿性・発熱保温性を利用しつつも、速乾性をなんとか一定レベルに維持することはできたはずです。

これも、本当はオーガニックコットンの肌触りといいつつ、コストの観点から綿にしたのでしょう。

このように、ヒートテックもピースフィットも、多層構造を工夫することで保温性を維持しつつも、弱点の速乾性を克服することが出来ると言えます。

そして、そういう複雑な多層構造を実現しているのが、より高価なアウトドアブランドやスポーツブランドの機能性インナーになります。構造的に、高価な分だけ性能が高いのは間違いないと言えます(ただ、綿やレーヨンは使わないので肌触りはどうしても落ちる)。

また、ユニクロのように単純に地厚にして保温性を高めるのであれば、最初からメリノウールを使った方が筋が良いともいえます。吸湿性を高めることで発熱保温性を高めた素材で地厚にするというのは速乾性を無視しているに等しくどう考えても筋悪です。

上述したようにメリノウールは最高レベルの吸湿性・発熱保温性を持ちますから、結果的に薄手にできて速乾性もその分高くなり、また、素材の特性上汗冷えを感じにくいという特徴もあります。

保温性を最優先するのであれば、メリノウールが最適です。

しかし、良質なメリノウールはやっぱり高くなります。

結局、ヒートテックもピースフィットもコストの観点からの制約が出ており、より高価なものを買えば、性能は間違いなく向上するということになります。

もっとも、コストを重視しているのは私たち自身ですからあまり無理言っても申し訳ないですけどね。

私のお勧めインナー

ヒートテックとピースフィットについて説明しましたが、両者とも汗をかくような状況では決して適切なインナーとは言えません。

特に、コスト面からか、あっさりレーヨンをいれたり、あっさり綿を使ったり、高コストでもよいからぎりぎりまで機能を追求するという姿勢ではありません。

そこで、徹底的に機能を追求した高機能インナーの中から私のお勧めをいくつか紹介します。

なお、モンベルは既に詳しく解説したので省略します。

アンダーアーマーのコールドギア

まずはみんな大好きアンダーアーマーです。

一般人から通常のスポーツマンの範囲で、とにかく暖かくて快適なインナーが欲しいのであればアンダーアーマーのコールドギアが間違いないです。

この記事を書くきっかけになった妻との会話を踏まえて、妻は初めてアンダーアーマーを買いました。

それまでは、ビクトリアの安売りで買った冬用のあったかインナーとかいう適当なものをスキーでも着ていて、十分暖かいと主張していたのですが、コールドギアにして暖かさと運動時の快適性に驚いていました。

まずアンダーアーマーの特徴はコンプレッションウェアである点です。

コンプレッションウェアという肌にぴったりするウェアで、コールドギアは裏起毛ですが、肌にウェアがピッタリくっついているほど、起毛の中にできる空気層の移動は減りますから、断熱保温性は高くなります。

また、ウェアが肌にぴったりくっついているということは、かいた汗がすぐにウェアに吸収されるということですから(+速乾)、それだけ快適に着られるということです。

暖かくていつもサラサラ、完璧なようですが、少し欠点もあります。

まず、コンプレッションウェアでかつアンダーアーマーは結構スポーツマン体型を前提にしていますので、ストレッチ性は高いのですが、お腹が出ている人や痩せている人は合うサイズがありません。

また、機能性を前面に出している素材ですから、肌触りは決して良くなく(滑らかな肌触りとは程遠い)、日常生活では着る気が起きない人が多いと思います。

あと、暖かすぎる。相当寒くないと速乾性が追いつくなくなるくらい暑くなります。

PhenixのOutlast

これはあんまりメジャーではなく、私が個人的に大好きなだけです。

私が、普段スキー時に着るインナーで、コンプレッションではなくむしろ結構ゆったり系。

にもかかわらず、暖かくてかなり快適です。

東北より北に行くときや吹雪くときには迷わずアンダーアーマーを着るのですが、やはり着心地としてはゆったりしている方が楽なので、通常の場合はこちがメインです。

このインナーの特徴はOutlastという超最先端の繊維素材にあります。

この繊維では、パラフィンという物質をマイクロカプセルに入れて生地に織り込んでいます。

このパラフィンという物質が面白くて、融点が25度くらいになります。

つまり、温度が上昇して25度以上になると融解して熱を吸収するのですが、温度が下がって25度以下になると固化して発熱するという、温度を25度に維持しようとする機能のある物質です。

その結果、暑い時は涼しく、寒いときは暖かくという温度調節付きのウェアということになります。

これがどの程度効果を示しているのか、本当にそんな高機能なのか、今一つ半信半疑ですが、確かに暖かい反面、汗でぐっしょりになるのが想像できない快適さを私には体験させてくれるので、私のメインインナーです。

ヒマラヤ本舗のエベレスト

これはネタで買ってみたインナーながら、結構ヘビーローテーションを維持しています。

ヒマラヤ本舗ってなんだ?と思う人もいるかもしれませんが、エベレストで男たちが白い下着一枚で並んでいる広告写真を見たことある人も多いかと思います。あれです。

スキーで新潟や長野の寒い地方に行くときの移動時(スキーウェアを着てない時)には、

1st ピースフィットのSTRETCH&DRY
2nd ヒマラヤ本舗のエベレスト
3rd 普通のワイシャツ
4th コート

という格好で行きます。

これだけでも暑いくらいで、東京に帰ってくるとコート脱ぐレベルです。

内側にピースフィットのSTRETCH&DRYを着て外側にコットンのワイシャツを着るというレイヤリングが肝ですが、この組み合わせはインナーマニアの私が生み出した今のところ冬の日常生活では最強の組み合わせ。

正直インナーというよりは、薄手のニットに近いですが、暖かくてしかも速乾性が高く超快適なインナーです。

編み込みか結構洒落ていて、ホテルの中とかでは、一枚でいても、肌着ではなく薄手のニットを着ているように見えるので重宝しています(広告より実物は全然カッコよいです)。

実物は非常に編み込みに手間がかかっている感じでコストは高いんだろうなという感じです。

ただ、高い(約一万円)。

終わりに

簡単に解説しようとしたのですが、例のごとく書き出したら止まらなくなって、かなり厚くしかもまとまりがなくなってしまいました。

ここまで読み着く人が何人いるかは疑問ですが、多少なりともインナー選びの参考になれば幸いです。

ただ、書いてて思ったのですが、自分がMIZUNOのブレスサーモを着たことがないのが惜しい気がしてきました。

せっかくだから、買って追記しようかな。