少数の法則


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心理学の話です。

ノーベル経済学賞を受賞した経済学者というより心理学者のダニエル・カーネマンという人がいます。

その集大成ともいえるファスト&スローという本があります。

怪しい自称心理学の専門家みたいな人が飲み会のネタ程度の心理学実験を適当に解説する本ではなく、権威中の権威が、一般向けに、著名な心理学実験を網羅して、現代心理学の一つの到達点を正確に解説してくれる名著の誉れ高き本です。

専門用語連発等ではなく、あくまで一般向けに非常に丁寧に書かれているのですが、なんというか学者魂を感じる硬派で読み応え十分の本です。

しかし、まあ、心理学の本だからしょうがないのですが、心理学の実験や話題のオンパレードで、読むと面白いと思うのですが、心理学過ぎて、もう心理学はお腹いっぱいですと、いつの間にか挫折します。

しかし、個人的には、今度こそ読み切りたいと思うので、面白エピソードを紹介して、自分を奮い立たせます。

その一つが少数の法則。

それを解説する第10章は下記の文章から始まります。

アメリカの3141の群で腎臓がんの出現率を調べたところ、顕著なパターンが発見された。出現率が低い群の大半は、中西部、南部、西部の農村部にあり、人口密度が低く、伝統的に共和党の地盤である。-あなたならこれをどう説明するだろうか。

時々こういうデータから、勝手に因果関係や相関関係を見つけてしまう人もいますが、さすがにこの場合、共和党を支持すると腎臓がんの予防に効果的であるとは思わないでしょう。

そうすると、こういう仮説が出てきます。

人口密度の低い農村部で、きれいな水や汚染されていない食品が容易に入手可能等、豊かな自然環境に囲まれていることが、がん予防に効果的であると。

しかし、このデータには裏があります。

実は、腎臓がんの出現率が逆に高い群を選ぶとどうなるかというと、その大半は、中西部、南部、西部の農村部にあり、人口密度が低く、伝統的に共和党の地盤であることが判明します。

このデータが最初に示されれば、やはり、共和党は関係ないでしょうが、田舎の農村部で昔ながらのアメリカンスタイルの高脂質の食事をして酒を飲みすぎたりしていることや、医療機関が近くにないことが原因であるなんて考えてしまいそうです。

もちろん、これは、何かがおかしいです。

一体これは何なのでしょうか。

結論を言うと、出現率の高い群も低い群も同じ特徴があり、それは人口が少ないことです。

なぜ人口が少ないことが重要なのかというと、母集団が少なければ少ないほど、データが極端に振れやすいからです。プロ野球の開幕直後に打率がやたら高い人や低い人がたくさんいるのと同じです。

つまり、サイコロを振って1が出る確率を実験で確かめると、試行回数が多ければ多いほど6分の1に近づくのですが、試行回数が少ないと、下手したら100%とか0%なんて数字が出現しかねません。

つまり、がんの出現率をデータ化すると、必ず、人口の少ない群のうちのいくつかが、やたら高い数値を示したり、逆に少ない数値を示したりするというものです。

サイコロを1回降って1が出たからと言って、俺は100%の確率で1を出せるなんて豪語する人はいないでしょうが、多少なりとも似たような状況に陥っているということです。

そして、当然著者は心理学者ですから、心理学の実験に入るのですが、結論から言うと、新橋でサラリーマン300人に聞きましたみたいな、私たちが直感的にこれくらいの母集団数があればいいだろうと思う数字ははことごとくだめらしいです。

ことの発端は、著者がある統計学者の論文に出会うことです。

その内容が衝撃で、心理学者の実験において、多くの場合心理学者が選ぶ母集団数が少なすぎて、適正な母集団数で実験をやり直したら、結論がひっくり返るリスクは50%に達するという内容です。

しかし、著者はノーベル経済学賞を取るくらいの人ですから、数学とか統計学にも相当強くて、この論文が的を得ていることに気が付きます。

自分の実験でどうもうまくいかないと思っているものを厳密に計算し直してみたら、やはり、母集団が足りなかったからです。

そして、大馬鹿野郎が自分のみかどうかを確かめるべく、架空アンケートをもって、数理心理学会に乗り込みます。

そこには統計学の教科書の著者なんかもいたりするのですが、自分の研究室の学生がある実験をしようとしていて、こういる母集団でやろうとしているんだけどアドバイスある?とアンケートして、結局、大馬鹿野郎が自分だけでないことが分かったという話です。

多くの専門家が自分と同じミスをしていたらしく、著者はすぐに論文にしたため、心理学者の皆さん、ちゃんと母集団を計算しましょうと警告します。

統計学に精通し、厳密に計算できる人たちの多くですら、なんとなくの直感に頼って間違いを犯しているという事実を証明したわけです。

さらに、最後に同じ現象の面白い例が登場します。

最初の腎臓がんの例は、ある統計学者たちの論文に登場する話らしいのですが、その論文の本丸は腎臓がんではありません。

それは、ビルゲイツの慈善団体が、17億ドルを教育に投資するという話です。

当然、その巨額の投資を行うために、良い教育とは何かと多くの研究者が研究します。優秀な学校とそうでない学校のどこが違うのかを見つけようします。

そうして出てくる面白い結論の一つが、良い学校は平均的に小さいという興味深い事実です。

そして、ゲイツ財団は、小さい学校を作るために多額の投資に踏み切り、大きな学校分割するなんてことまで行います。

小さい学校で、生徒一人一人に細やかに配慮をすることが、成績向上につながるといういかにもありそうな話です。

しかし、統計学者によると、成績の最も悪かったグループの学校も平均より小さいだろうということです。

つまり、小さな学校だと生徒の成績を平均したときに、年度ごと等でばらつきが大きくなり、上にも下にもぶれやすく、いくつかの学校では極端にぶれたデータも出てきてしまうということです。

なるほどと思います。

まあ、そんなこと言われると、素人的には何も信用できなくなって、どこから疑っていいのかわからなくなりますけどね。

こんな話のオンパレードで、書いてみると非常に面白いんですけどね。

どうも心理学過ぎて、いつのまにか本を開くのが遠ざかります。

今度は少なくとも下巻に突入したいと思います。

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